【 ぼくとぱぱ 】
◆otogi/VR86




58 :No.15 ぼくとぱぱ 1/3 ◇otogi/VR86:08/03/16 19:16:07 ID:XP4qbfqC
 ぼくとぱぱはみためがちがいます。ぱぱはあたまにけがふさふさしていて、からだはぼくのなんばいもなんば
いもおおきいです。

 ぼくがさいしょにみたのはぱぱではありませんでした、おんなのひとでした。
そのひとのことはあまりおぼえていませんが、とてもやさしくしてくれたとおもいます。

 ぼくがぱぱをはじめてみたのはとうめいないたごしでした。ぼくはそのひとがぱぱだとすぐにはわかりません
でしたが、そのひとがなんどもなんどもいたごしにのぞきこんでくるので「あっ、このひとがぼくのぱぱで、い
つかいたごしじゃなくてちょくせつあうことになるんだな」とおもいました。

 ぼくはぱぱのことが大好きです。ぱぱはいつもおいしいごはんをくれます。ぱぱはいつもあそんでくれます。
うんちをしちゃったときのおかたづけもしてくれます。よくおそとにつれていってくれます。

 ぼくがなくとぱぱはあわててぼくのところへやってきておせわをしてくれます。よるにおなかがすいたとない
てもきてくれます。
ぱぱはとてもやさしいからそんなこともきにしません。ぼくはおおきくなったらぱぱのよう
になりたいです。

 ぼくのぱぱはとてもおおいそがしです。あさでかけるとぜったいにおひるよりはやくにはかえってきません。
ぼくはぱぱのことがだいすきなのでとてもさびしいです。

 ぼくはぱぱがいないあいだ、おんなのひとにあずけられます。ぱぱよりすこしちいさいそのひとはぱぱよりは
あまりめんどうをみてくれません。ぼくのことがあまりすきじゃないみたいでとてもかなしいです。なんにんか
ちがうおんなのひともいてこうかんしてみてくれます。
やっぱりぱぱがいちばんです。

59 :No.15 ぼくとぱぱ 2/3 ◇otogi/VR86:08/03/16 19:16:34 ID:XP4qbfqC
 ぼくはぱぱよりはやくおおきくなるそうです。いわれてみればぱぱははじめてあったときからほとんどおおき
さがかわっていません。でもぼくはとてもおおきくなりました。それでもぱぱよりもずっとずっとちいさいです。
ちょっとふしぎです。

 ぼくにはしゅるいというなまえがあるらしいですが、ぱぱはぼくだけのなまえをくれました、ちょっとまえの
ことですけど。そのひからぼくのなまえは「ちろ」になりました。
ぱぱからもらっただいじなだいじななまえです。よんでもらえるととてもとてもうれしいです。


 あるひぱぱがいないとき、おんなのひとがほかのおんなのひととなにかそうだんをしています。
ぼくがおなかがすいたとなくと、ふだんぼくのせわをしてくれているおんなのひとがなにかをもってぼくのほう
をふりむきました。
ちょうどおひさまがまぶしくてなにをもっているのかよくみえません。
ぼくはひっしにめをこらしました。

 それはさきっちょがとんがったなにかでした。ぼくはよくわからないそれがこわくてこわくてしかたがありま
せん。でもぼくはじゆうににげまわれません。

 ああ、どうしよう。あれがささったらきっといたくていたくてないてしまうでしょう。ぼくはおなかがぺこぺ
こなのもわすれてできるかぎりうごきます。
たすけてぱぱ! ぱぱたすけて! ぼくのおねがいはぱぱにとどきません。

 とがったさきっちょがどこかにぐぐっとおしあてられました。

 ねむるときみたいにきがとおくなっていきます。でも、いつもとちがってぼくはもうおきれないきがします。

 おもいだしてみればいっかげつくらいしかぱぱといっしょじゃなかったようなきがします。
もっとあそびたかったです。さいごにおなかいっぱいごはんをたべたかったです。ぱぱにやさしいこえでちろってよんでほしかったです。

 でも、きっとかないません。

60 :No.15 ぼくとぱぱ 3/3 ◇otogi/VR86:08/03/16 19:16:51 ID:XP4qbfqC
「ただいまー」
 佑太君が小学校から帰ってきました。
さっそく寛子ちゃんのもとに向かいます。
「ひろちゃん、チロはー?」
「チロなら幼稚園でリセットボタン押してけしちゃったよ」
 その言葉を聞いて佑太君は大激怒。兄妹ゲンカが始まりました。
「せっかく二十才になったところだったのに!」
「これママにかってもらったのひろちゃんだもん!」
 ふたりは楕円形の携帯型疑似ペット育成おもちゃを巡って掴み合いをしています。
そのおもちゃには小さく透明な板と、ボタンがいくつかついています。
「おじさんのキャラになっちゃったからいらないって言ったのひろちゃんだろ!」
「でもこれひろちゃんのだもん!」
「育ててたのは僕だい!」

 いくら暴れてもお兄ちゃんにはかないません。おもちゃは最終的に佑太君の手に渡りました。
 画面には小さくて丸い赤ちゃんのキャラが映っています。佑太君は思わず涙声 でお母さんを呼びます。


「おか〜さ〜ん! ひろちゃんがチロのデータこわしちゃった〜!」






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