24 :No.07【品評会】 愛を込めて 1/4 ◇p/4uMzQz/M:08/03/16 07:09:44 ID:s+TJTZKM
『頭に想い描くはたった一人』
『まずはゆっくり振り下ろそう。狙いを定めて、ゆぅっくりと。ガツッ。
出来るだけ細かくした方が、後々作業がきっと楽だ。昔漫画かテレビかで見た覚えがある。
私はソレに持っているものを振り下ろす。ガツン。
砕けて原型を留めていない私の目の前のソレは、色もちょっぴり変わってきているようで、何だか最初より黒がかってた。グチャ』
『ふと気付いた。砕くより切った方が早いんじゃないだろうか。もっと早く気付けば良かった。私の馬鹿。ばかばかばか。
今更だとは思いながら、台所に走って出刃包丁を持ってきてみた。
「んー、一応まだ大きな塊あるね。よいしょ、と」
ガチッ、と。鈍い音と痺れるような感触。……硬くて難い。いや、違うくてー。
予想以上にソレは頑丈で、頑張ったところで中々綺麗に切断することは叶わなかった。あーあ、細切れなのが理想なのに。
これは別に私のやり方が悪いんじゃないと思う。きっとそうだ。普通の人も包丁じゃ切れてないに違い無い。
仕方なく私は物置まで走って鋸を持ち出した。これならどうだこんちくしょー。ギコギコ』
25 :No.07【品評会】 愛を込めて 2/4 ◇p/4uMzQz/M:08/03/16 07:11:14 ID:s+TJTZKM
『どうにか、どうにかそれなりに細切れになってくれた。
これなら次の工程に移っても問題なさそう。容器いっぱいに広がるソレを見ながら呟いた。
「えっと、よし。やっぱり生がいいよね」
私は鋸を壁に立てかけると、腕を伸ばして、蛇口を一気に捻った。お湯が流れ込む』
『ふぅ、と息を吐きながら私は額の汗を拭った。まだ二月だというのに、全く。
外はもう明るくって、もう結構な時間だ。今日の学校はブッチしようと決めた。
「こいつ、一晩も私を手こずらせてくれて……!」
とりあえずあの後処理を終えたソレは、今は収納して寝かしてある。強敵だった。
出番が来るのは明日だ。とりあえず今日は寝よう寝ましょう寝ちゃいましょう。
「…………あぅ」
服を見たら黒い汚れがいっぱい付いていた。べたついてる。エプロンし忘れてた。洗濯しなきゃシャワー浴びなきゃ。あーあ』
26 :No.07【品評会】 愛を込めて 3/4 ◇p/4uMzQz/M:08/03/16 07:12:03 ID:s+TJTZKM
『次の日。彼の学校の帰りに渡すことにした。質を保つ為に、結局二日連続自主休校を決め込んだ。
メールを使って彼を呼び出す。慣れない携帯だから、文面を打つのに苦労した。でもこの苦労も、全部彼の為なんだから。
「おーい、アイー? 来たぞー、どこに居るんだぁ?」
公園の中に彼が入ってきたのが見えた。あぁ、探してるんだね。大丈夫だよ。
私の手の中のソレは、私の手によって綺麗にラッピングを施されたソレは。
今からきっと彼の表情を変えて、ただのクラスメイトでしかなかった関係を破壊しつくしてくれるでしょう。
茂みから彼の前に飛び出して、私はソレを差し出した。
「っと……あれ? 何で古谷さんがここに」
疑問符を頭に浮かべたままソレを受け取ろうとしない彼。照れてるのかな。可愛いなぁ。
私も真っ赤な顔を隠すようにして、彼の手にソレを押し付けた。
「えっと、受け、取って、ください」
どうにか言えた。彼の顔を直視出来ない。胸が核爆発起しそう。反応が返ってこない。ああもう、どうしてどうしてどうして
「……あ、ありがとう古谷さん」
彼の声が聞こえた瞬間、私は大気圏を突破しそうな程飛び上がるところだった。頭を上げて、彼の顔を見る。
私の渡したソレのラッピングを綺麗に解いて、彼は中身を取り出した。
「ん、生チョコだ。凄いね、手作り? ありがとう、美味しく頂くよ」
そう言って彼は私の目の前で、手が汚れるのも厭わず一欠けらを取り出して、口へと運んでそしてそしてそして──
──ガリッ』
27 :No.07【品評会】 愛を込めて 4/4 ◇p/4uMzQz/M:08/03/16 07:12:42 ID:s+TJTZKM
『──頭に想い描くはたった一人。だけど彼の前には邪魔な奴がいた。アイとかいう名前。そいつのせいで近づけない。
じゃあどうしたらいいのか。決まってる。壊しちゃえばいいんだよ。壊しちゃえば。
恋人たちが愛を囁く、思い人に心を告げる、聖なる日。その日、私は彼と結ばれるの。えへへ。
可愛い私に告白されて、それで…………邪魔な奴も居ないなら、絶対受け入れてくれる、よね。ねぇ?
「な、何何なんなのねぇ、古谷サン、ねぇ。ちょっと、その、それってあのぃあややああぁ、やあ、やめっe#$%&」
……邪魔な奴を消すのと、私の思いを告げること。同時進行。所謂、イッセキニチョウ、ってやつですか。
お風呂場、浴槽の中。両腕両足を縛られたまま動かなくなった元邪魔者を眺めた。頭が赤いね。くすくす。
「さぁて、これで材料は揃った。あとは頑張って作るぞー。ふぁいと、おー」
左手で金槌を一撫でして、それから軽く笑った。血が付いて赤黒くなっちゃってる。出来上がったらこんな色になるのかなぁ。
そして深呼吸をしてから、私は右手と料理道具を思いっきり振り上げた』
了。