【 れっつ ぷれぐなんしー 】
◆0CH8r0HG.A
25 :No.7 れっつ ぷれぐなんしー 1/5 ◇0CH8r0HG.A:08/03/09 14:54:31 ID:ZKn+Su6d
「呪ってやるっ!」
九戸久土子ちゃんは、そう言い残して僕達の部屋から飛び出していった。僕は追わなかった。何故かって、僕の
手の中に彼女の財布と携帯電話があり、彼女が靴も履いていなかったからだ。ちなみに、今回のようなことは初め
てじゃなかったし。
誤解をされるといけないので前もって言い訳しておくと、僕が取り上げたわけではなく彼女が忘れていったのを
僕が見つけたというだけだ。
相変わらずだねぇと苦笑を浮かべ拾い上げた携帯電話には、僕とクドコちゃんの写ったプリクラが貼ってある。
実物の方が可愛いよと言ってみたことはあるんだけれど、その途端に物凄く不機嫌な顔で平手を喰らった。
彼女はとても「気性」あるいは「気象の変化」が激しい子で、ニコニコ笑っている一分後にスコールみたいに涙
を流したり、春雷を落としたりする。
そういった一時の感情の発露から、今回のように爆発すると飛び出して行ってしまうんだけど、大抵は取るもの
も取らずに出て行っちゃうから、ちょっとしたらお腹を空かせて帰ってくるんだよね。今月に入ってすでに三回目
だったかな。まさしくにわか雨なんだよな。
僕はというと、彼女が出て行った後でお風呂を沸かし、彼女の好物であるエリンギの入ったオムレツを作るんだ。
勿論、中がトロトロじゃないと許してくれないから、焼くのはクドコちゃんが帰ってきてからだけど。
冬の寒さに体中が冷え切ったクドコちゃんが、お風呂に入ってる間に食卓にそれを並べておくと、彼女はまんざ
らでもなさそうな顔で「苦しゅうない」って言うだろう。
ちなみに、今回の家出の原因はどうやら妊娠らしいんだけど……。
「どうやって妊娠するのさ。クドコちゃんてばヴァージンでしょ?」
僕がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして怒り出した。でも今度は飛び出しては行かない。何故なら、目の前に
彼女の好物であるオムレツがあるからだ。右手に握るフォークにもかなりの力が篭っているのは見て分かる。彼女
は葛藤してるんだなと、同棲も長いからね。
「結婚前の女性にヴァージンがどうとか、貴方は相変わらず変態ですねっ!」
ああ、いいよクドコちゃん。そうやって、怒りながらもオムレツを頬張るその顔を見ていると、彼女に対する罪
悪感が薄れていく。
「だって本当でしょ。昨日の夜もあんなに確かめたじゃない。僕が舐めたり指を入れたりちょこっと引っ掻いた
り……」
26 :No.7 れっつ ぷれぐなんしー 2/5 ◇0CH8r0HG.A:08/03/09 14:55:51 ID:ZKn+Su6d
「うううううるさいっ! 黙りなさい変質者! ああああ貴方がそんなだから、私が苦しい思いをするのですっ!」
僕の冗談に噛み付くクドコちゃん。ついでにエリンギにも噛み付いている。付け合せのプチトマトはすでに彼女の
胃袋の中で踊っている。
「ゴメンね、クドコちゃん。僕がまともなら、君にこんな思いをさせずにすんだのにね」
僕は冗談半分本気半分で彼女に背を向ける。多少俯き加減に。
「べ、別にもう気にしてません。それに今のはちょっと私も言い過ぎましたし……」
後半はゴニョゴニョしていて聞き取れない。ふふ、そういうところが僕の嗜虐心を刺激するんだよクドコちゃん。
「そっか。気にしてないんならいいんだ。今夜も目いっぱい可愛がってあげるね」
僕は会心の笑みを浮かべて、彼女に向き直る。そうすると、そう。案の定だ。彼女のフォークを持つ手が震えてき
た。ああ、可愛いなぁ。
「貴方はどうやら本気にしてくれていないのですが、今朝私の枕元に子供が立ったのです」
クドコちゃんは多少真面目なトーンで、僕に言った。こういう時はあんまり茶化しちゃいけない。人間、空気を読
むのが大事だと僕に教えてくれたのは他ならぬクドコちゃんだ。まぁ、その彼女が一部空気が読めない面もあるんだ
けど、そんなのは僕にとっては些細なことだ。
「そして、その子が私にこう言ったのです。『おかあさん』と。私は直感的に悟りました。その子は私と貴方の子供
である……と」
「ふむふむ」
僕はコーヒーを片手に相槌を打つ。彼女の対面に座ると、お茶っ葉の良い匂いが。彼女が飲んでいるのは緑茶だ。
彼女はコーヒーを飲むと寝れなくなるからね。
「だから、これは私が妊娠している、あるいは近い未来に妊娠するであろうことを暗示していると思うのです」
「一つ問題があるんだけど」
ずずと茶を啜って、視線だけを僕に寄越す。目だけで何? とクドコちゃんに促されて僕は続ける。
「さっきも言ったけれど、クドコちゃんはヴァージンでしょ? さっき出て行ったときに種付けでもしてもらったの?」
「馬鹿なことを言わないで! 私は貴方以外の人間と閨を共にしたりしません!」
相変わらず古風だな、とか考えた僕は自嘲気味に笑みを浮かべる。
「その笑い方は……嫌いです」
27 :No.7 れっつ ぷれぐなんしー 3/5 ◇0CH8r0HG.A:08/03/09 14:56:30 ID:ZKn+Su6d
「ゴメンね。まぁ、そうすると子供が出来ている原因は無いわけだ。じゃあ、未来に出来るかというと、こっちはまだ
可能性はあるけれど」
そう、可能性はある。だがそれは、僕にとっては暗い想像を掻き立てるものでしかない。
「いずれにしろ、父親が僕であるわけはないな」
僕は不能だ。完全、完璧な不能者。インポ。不完全な男だ。なんか矛盾しているな。完全な不完全。童貞ではないけ
れど。
僕が愛情を持って、心底抱きたいと思った女性はクドコちゃんだけだ。そしてそれは叶わなかった。そりゃあ、今だ
ってセックスの真似事のようなことは出来る。クドコちゃんの体中に舌を這わせ、彼女を絶頂まで連れて行ってあげる
ことも出来る、というかしている。けれど、僕が満たされることは無い。何故なら僕は勃たないから。彼女に包まれて
眠ることも出来ないし、彼女の中に僕の思いの丈をブチマケルことも出来ない。
行為が終わった後の僕を見て、彼女は少し悲しそうに微笑む。それが僕達のセックスの代わりだ。背筋がゾクゾクする。
「聞いているのですか?」
彼女の声で僕は現実へと帰ってくる。
「ごめん、ごめん。それで、クドコちゃんはその子をどうしてあげたいの?」
「その子がお母さんと呼ぶのなら、私は母親です。そして父親は貴方です。つまり私達は今この瞬間より、子持ちとな
ったのです」
クドコちゃんの声のトーンは変わっていない。つまりこれは冗談では無いってことだ。
「あのね、クドコちゃん。そういうのってきっと長続きしないよ?」
「……買い物に行きます」
彼女は僕の言葉をもう聞くことはせず、立ち上がった。僕は溜息を一つ吐いてから微笑んだ。上手く笑えてる自信は
なかったけど。
「身重の女性が何言ってるの? 僕が行くよ。とりあえず、まだ生まれてないんだから体は大事にしなきゃね」
28 :No.7 れっつ ぷれぐなんしー 4/5 ◇0CH8r0HG.A:08/03/09 14:57:42 ID:ZKn+Su6d
これはは夢だ、そうに違いない。
「ねぇ、貴方は私の物よねぇ。私を置いて出て行ったりしないわよねぇ?」
五月蝿い黙れ。気持ち悪いんだよババァ。
「何か言ってよ。気持ちいいでしょ? ホラ、ホラ!」
気持ち良いわけねぇだろ、やめろよババァ。うっと声が漏れて、先っぽからも汁が漏れた。恥ずかしいし、不潔だ。
「何? もうイっちゃったの? 本当に可愛い子ねぇ。そんなにお母さんの口が良かったんだ?」
黙れよババァ、お母さんとか言ってるんじゃねぇ。
「さあ、今度はお母さんを気持ちよくして。私の中にきて」
やめろよ俺。そんなとこに行きたくない。やめてくれ! やめろ! 出したくない! いきたくない! イヤだ!
俺の体が強張る。絶頂に達しそうになったところで時間が止まり、それ以来俺は自分の言葉に縛られた。
「や、お父さん。夢を見ている中ゴメンね」
予想通りだ。僕には似ていない。良かった、と思う。
「どうやら、僕の存在を認めてくれたみたいだね。お母さんも喜んでいたよ」
何て生意気な喋り方をするガキだろう? 性格は間違いなく僕に似てしまったようだ。
「それでね、お父さん。早速、現実的な話をしたいんだけど、お父さんはいつまでインポやってる気なの? お父さん
がそうやって情けない顔で萎んでいたら、僕はいつまでたっても出てこれないんだけどな」
うっせーガキ。こっちだって好きでインポやってるんじゃねーや。
「ああ、もう夜が明けちゃうな。んじゃまた来るねお父さん。」
「クドコちゃんの言ってた子供に会ったよ」
朝起きて、まずクドコちゃんにそう言ってみた。彼女はそうですか、と言って立ち上がる。雨戸の隙間から気持ちの
良さそうな陽光が入ってきている。ああ、ダメ。今開けたら溶けちゃうよ僕。
「ありゃ、確かに僕の子だ。んでクドコちゃんの子供でもある。どうしようか?」
彼女がそこで初めて僕を見た。まじまじと僕の目を覗き込むと、一言。
「朝ご飯を食べましょう」
それもそうだ。ご飯食べなきゃ力が出ない。ご飯を作るのは僕の役目だ。彼女は新聞を取りに行って、ついでにポス
トの傍にある牛乳二本を運んでくる。僕は、お湯を沸かしフライパンを温めて……。
29 :No.7 れっつ ぷれぐなんしー 5/5 ◇0CH8r0HG.A:08/03/09 14:58:52 ID:ZKn+Su6d
「んで、お父さんの調子はどうなの?」
子供は俺を見ている。俺の姿形ではなく、僕の全てを値踏みするように見ている。
場面がころころ変わるなぁ。
「そりゃ、子供の頃にあんなことがあったら、勃たなくなってもおかしくないけどさ」
お前は幸せだよ、と声をかける。何故って、クドコちゃんが母親だからだ。彼女はかなり変な子だけど、少なくとも
俺の母親を名乗っていたクソババァよりはずっといい女だ。ああ、いい女である必要は無いのか。いい母親だ、に訂正。
「どうでもいいよ、そんなの。とにかく、お父さんがその気にならないと、僕は貴方たちどころかこの世に生まれてく
ることすら出来ないんだけど」
そんなことを僕に言われたって困るよ。僕自身、現状に満足しているわけじゃないんだから。
「どうすればいいと思う?」
「そんなの知らないよ。僕の心の問題なんて、どこぞの心理療法士は言ってたけどね。そんな問題じゃないと思うな。
多分、長い間使ってなかったから、勃ち方を忘れたんじゃないのかな?」
僕は子供から目を逸らすように、瞼を下ろした。
「そろそろ、思い出せるといいね。忘れてばっかりって辛いよね」
このやろう。生意気にも優しい声を出すじゃないか。ああ……また……眠くなってきた。
「明日はお祝いだね、お父さん。さようなら」
うーん。何だろう、このなんとも言えない朝は。端的に言えば、インポは治ってた。で、パンツのあそこがドロッした
粘液で濡れてる。久しぶりですね、こんにちは。
どう見ても精子です、本当に(ry。何故治ったのか、そんなのは分からない。僕はパンツをそっとお湯を張ったバケツ
に漬けると、そのまま寝室にとって返しクドコちゃんに襲い掛かった。そりゃあもう獣の如く。彼女は寝ぼけ眼を擦りな
がらも一瞬で事情をさっすると、良かったねと涙をポロリ。いい女だな畜生。
もしかしたら、あの子はこのためだけにやってきたのかもしれない。僕のフグリの中で延々眠り続けるのに飽きちゃっ
たのかもしれない。一通り行為が終わった後、僕とクドコちゃんはバケツの中のパンツを見て二人で泣いた。多分僕らの
子供として生まれてくるはずだったあの子を想って泣いた。
あの子はお湯の中で、クドコちゃんの中とは違うそれでもその体には大きすぎる海で、元気に跳ね回ってるのかもしれ
ない。というかそうだったらいいな。