【 豆粒ほどの大きさのまま死んでいく子供の夢 】
◆/sLDCv4rTY




23 :No.6 豆粒ほどの大きさのまま死んでいく子供の夢 1/2 ◇/sLDCv4rTY:08/03/09 14:52:30 ID:ZKn+Su6d
 けあなから、僕の毛穴から子どもが生まれた。ぼくの頬の毛穴から、豆粒ほどの大きさの子どもが生まれた。
床に落ち、いっしょうけんめいに手足をうごかすその子どもは、
くさった豆粒のような生臭いにおいのする、ちいさなちいさな、人間の子ども。
 子どもは、急激に成長した。
十秒もたたぬうちにハイハイを過えて二足歩行を始め、
カメラでズームしていくように子どもは大きくなっていった、ぼくは、恐くなってそいつをトイレに流した、トイレは、
ゴボウゴボウと鳴って、もはや青年に成長したそいつを渦のなかにひきずりこんでいってぼくは
ざまあみろとそいつに向かって罵倒の言葉を浴びせた。
 ぼくが下劣な言葉で呪うようにそいつを罵っている時にもそいつは成長しつづけていてぼくはそいつが渦に消えて見えなくなる前に
一瞬チラリとそいつのフケた中年のかおを見た、ぼくは、そいつの消えていったトイレに向かって罵り続けた。

 そいつのフケた中年の顔は、ぼくより何かを知っている、疲れ老いた顔だった。


 ……それからずっと罵り続けて三日目の朝に、こんどは額の毛穴からまた一人子どもが出てきて、ぼくは、また、
そいつを掴み急いでトイレにほおりこんで流そうとしたが水は流れなかった、たぶん、詰まっているのだ。中で、老人が、今も成長し続けて。
 みずが、逆流する、あふれる、あふれる。
もはや青年に成長したそいつをみずの中からつかみとって床に叩きつけて罵りながらぼくはいくどもいくども踏み潰した。
 罵って、罵って、罵りつづけた。
 その子どもの躯から床へと流れる血の色は、狂ったように赤かった。
ダンダンと踏み潰しているうちに、ぼくの目から、すこし涙があふれてきた。
 涙をこぼしながらぼくは、もう乾きかけて粘っこくなった血を糸にして引いて、そいつを、なんどもなんども踏みつけた、急に、
クラクラと吐き気がしてきて、水が溢れそうな便器に、吐いた。口から夥しい数の小さな手足を吐いた。
 嘔吐物は小さな人間の手足が黄ばんだ胃液のなかに混じりそれはうごめいていて、ぐぐ、恐くなって、ぼくは、
必死にトイレに流そうとレバーをガチャガチャとひいた、そしてながれずに、その無数の手足は便器からあふれた。
 みずが、逆流して、手足が、あふれる。
(うう、ぐぐ。
食べてなんかいない!、いないんだ!、ただ、ぼくは、踏み潰しただけだ!、ぐぐぐ)

24 :No.6 豆粒ほどの大きさのまま死んでいく子供の夢 2/2 ◇/sLDCv4rTY:08/03/09 14:53:17 ID:ZKn+Su6d
 

 その狭い個室の中で、手足たちはその身をゆっくりとくねらしながら大きく成長していった。
 ぼくはただ罵ることしかできなかった。
もう、喉は枯れて声は出ていなかった。
 ぼくは狂った狭い個室の中で、無表情に大きくなりつづける巨大な手足たちに向かって、ただ、罵りつづけることしかできなかった。
もう、目も見えていなかった。すべての感覚は徐々に消えていって、まだらな虚無だけがまとわりついた。
 ぼくは、なにかに向かってなにかをさけんでいた。
ぼくは、その虚無の個室の中で、自分が誰かの毛穴から豆粒のようなカタチで生まれてきたことを思い出した。
ぼくは、生まれてからずっと、虚無の中でいきてきた。
ぼくは、だれかに言いたかった。
ぼくは、
ぼくは、
ぼくは、

ぐぐ、ぐっゲ、ェ
<了>



BACK−望まれる子、望まれぬ子◆g1EyPC6OAw  |  INDEXへ  |  NEXT−れっつ ぷれぐなんしー◆0CH8r0HG.A