【 悠久 】
◆mgoacoGROA




191 :No.36 悠久 (お題:旅) 1/2 ◇mgoacoGROA:08/03/03 01:08:42 ID:gz2gM+N8
「旅人さんはどうして旅をしているの?」
ふいに、少年がそんなことを聞いてきた。人懐こい笑顔をたたえ目の前の旅人を見やる。
突然話しかけられ、旅人は少し驚いたような顔をしていたが、やがて穏やかに言葉をつぐんだ。
「骨を埋める場所を求めてかな」
――その旅人は少し悲しそうに微笑んだ。


小さい頃によく聞かされたお話がある。
その歳の子供なら誰でも知っているような有名な話。
旅人さんはご存知ですかそのお話、学者と貴族の娘の悲しい物語を。

192 :No.36 悠久 (お題:旅) 2/2 ◇mgoacoGROA:08/03/03 01:08:57 ID:gz2gM+N8
「そうして彼女は死に、その学者も行方知れずになった。一説には世界の真理を知り神のもとへ召されたとも聞いておりますが、彼がどうなったかは誰も知りえません」
そういい終えると老人は冷め切った紅茶に手を伸ばし、一口だけ口に含んだ。
冷たく甘い液体が、長くしゃべった後の喉を潤す。不味い。
「なるほど、とても面白いお話をありがとうございました」
老人と向かい合うように座り、話を聞いていた青年が穏やかに微笑みながら礼を言う。
そろそろ荷物を整え、帰ろうと立ち上がりあいさつを言おうとした彼に老人が尋ねた。
「ところで、旅人さん目的の場所は見つかりましたか?」
目的の場所? 一瞬何のことかと思い聞き返そうとした彼の言葉を遮ったのは意外な言葉だった。
「骨を埋める場所は見つかりましたか」
信じられないといった表情を浮かべ青年はまじまじと老人の顔を見た。
「あなたはあの時の少年?」
「百年も前のことをよく覚えておいでですね」
肯定のかわりに、ほっほっほと笑いながら老人は目の前の青年を見た。
記憶の中の彼とほとんど違わないその旅人を。
しばし、ぽかんとしていた青年はようやく気を取り直し穏やかに窓の外を見た。
「ここはいろいろと想い出のある場所なんです、遥か遠い昔の」
そう言うと彼は遠くを見る様に、少し悲しそうに微笑んだ。





BACK−旅の女神◆InwGZIAUcs  |  INDEXへ  |  NEXT−間接キスはしてません。多分◆VXDElOORQI