【 Ctrl + A → Delete 】
◆Kq/hroLWiA




45 :No.09 Ctrl + A → Delete (お題:奇) 1/4 ◇Kq/hroLWiA:08/03/02 13:39:52 ID:5KYolZuF
 青柳文華(あやか)が、放課後、クラスのゴミをゴミ捨て場に持って行った時のことだった。
 ふと視線を校舎の窓に向けると、廊下を歩く見知った姿に気が付いた。文華の幼稚園時代からの幼馴染である、
時枝直行だった。
 直行の前には、彼を先導するように、もう一人の男子生徒が歩いていた。その男子生徒の髪は、何処かの星の
戦闘民族のような金色をしていて、耳には、遠目にも分かるくらい大きなピアスがジャラジャラとつけられていた。
 そんな目立ちすぎる格好の男子生徒に、文華は心当たりがあった。一学年上、二年の不良問題児、雨夜秋人。
高校生とは思えないほどの威圧感を持っており、教師からも恐れられている存在だ。
 そんな不良生徒の後ろを、何故幼馴染の直行は着いて行っているのだろう。文華は疑問に思いながら、二人の
姿を目で追った。やがて、二人は廊下の角を曲がり、文華からは見えないところへと行ってしまった。
 二人が消えて行った場所は、普段から人通りの少ない場所だ。
 何をしているのだろう。
 訝しみつつも、文華は、空っぽになったゴミ箱を持って教室に戻った。


 掃除当番の仕事を終えると、文華は文芸部の部室へと向かった。彼女は文芸部に所属しているのだ。ちなみに、
直行も文芸部に入っている。
 部室の扉を開くと、すでに二人の部員が会議用の長机に着いていた。部長の草壁奈々と、二年生の数野祐介だっ
た。二人は自前のノートパソコンを前にして、すでに執筆活動を始めていた。会誌に載せる小説の締め切りが近
いのだ。
「やぁ、アヤちゃん」
 部長のあいさつに、軽く会釈で応える文華。祐介の方は、文華に軽く一瞥をくれただけで、またすぐにパソコン
画面へと目線を戻した。
 文華は長机のいつもの場所に着くと、他の二人同様、自前のノートパソコンを取り出して、電源を入れた。
 OSが起動し終えると、文華は一つのアプリケーションソフトを起動させた。



――会誌に載せる分の小説を、すでに書き終えていた私は、やることもないので、パソコンに最初から入って
いるミニゲームをして時間を潰すことにした。

46 :No.09 Ctrl + A → Delete (お題:奇) 2/4 ◇Kq/hroLWiA:08/03/02 13:40:07 ID:5KYolZuF
 用意された方眼の中から、数字をヒントに隠された爆弾を上手く避けて安全なマスだけを開いていくという、
単純な内容のゲームだ。
 適当にマウスをクリックしながら、私はあることを考えていた。ゴミ捨て場で見た、幼馴染の直行のことだ。
 雨夜秋人の素行の悪さは、一年の私達の間でも、たまに話題に上るくらい悪い。そんな奴と、直行がどういった
理由で会っていたのだろうか。
 直行は馬鹿だ。あまり判断力が良いとは言えず、よく他人の言動に流されて変な厄介事に巻き込まれることが
ある。
 そんな愚図でアホな直行だけど、あんな掛け値なしの不良と自ら関係を持つような、そこまで馬鹿な奴じゃない
はずだ。
 直行から雨夜に声をかけるということは、ないと思う。だとしたら、考えられるのは逆。雨夜の方から、直行
に接触してきたということだ。
 何故、年下で面識もないはずの直行に。何のために。
 一番可能性としてあるのは、やはりカツアゲだろうか。直行は、見た目かなり貧弱だ。一応体育の成績はそこ
そこらしいけど、少なくとも体育会系とは言えない。
 頭の悪そうな顔をしているし、不良からすれば、良いカモになると思われたのかもしれない。
 そういえば、今日は直行、来るのが少し遅い気がする。いつもなら、私と一緒に部室に来るか、遅くとも私が
来て少しすればやって来るのに。
 私が、少し不安気に部室の扉を見つめた、その時だった。扉が開き、直行が入ってきた。何故か、右頬に青痣
が出来ている。
 直行は、奈々さん達にあいさつもせずに、一直線に私のところにやってきた。
「な……なに?」
「文華、二年の雨夜秋人って知ってるか?」
 私の横に立った直行は、真っ直ぐに私の目を見て言ってきた。私は、思わずたじろぎして、答えた。
「う、うん」
「あいつに、今日呼び出されたんだ。それで、あいつが文華に一目惚れしたとか言って、幼馴染の俺に仲介役を
頼んできたんだ」
「そ、それは……」
「けど、俺断った」
「どうして?」という言葉は、かすれて上手く声にならなかった。けれど、言いたかったことは伝わってくれた。
 直行は、私の両肩にそっと手を乗せると、強い意志の籠った声で、言った。

47 :No.09 Ctrl + A → Delete (お題:奇) 3/4 ◇Kq/hroLWiA:08/03/02 13:40:25 ID:5KYolZuF
「文華のことが好きだからだよ」
 言い終わるのとほぼ同時に、直行が私の体を抱きしめた。心臓が一度激しく鼓動し、そしてその後は、まるで
長距離マラソン走を走り終えた後のような激しい激動が続いている、」
「俺、お前のことが大好きなんだ。だから、仲介なんて、出来るわけないだろ」
「ぁ……うん。私も……直行のことが、s――



 突然部室の扉が開いて、キーボードを激しくタイプしていた文華の指が停止した。
 入ってきたのは、直行だった。頬に痣はなく、代わりに手にA4用紙の束を持っていた。
 直行は、部室内の皆に軽く一度あいさつをすると、部長のところへと向かった。部長に、持っていた紙の束を
渡し、説明をする。
「これ、ある人物から、会誌に載せてもらうよう頼まれたんですけど……」
 部長は直行から原稿を受け取ると、それを読み始めた。五分ほどしてから、部長は顔を上げた。
「なるほど、恋愛小説ね。文章も綺麗で、結構面白そうだわ。内容は乙女チックで、まるで少女マンガみたい。
女子から人気がでそうね。誰が書いたの?」
「それが、匿名希望で、絶対に名前は明かさないで欲しいとのことです。どうです、載せられますか?」
「副部長と田村先生と相談してみるわ。まぁ、多分大丈夫でしょう」
「ありがとうございます」
 直行は軽くお辞儀をして、文華の隣に置かれた椅子に座った。彼の定位置だ。
 文華はあくまで無表情に、直行に向かって質問を投げかけた。
「あの小説って、書いたの、もしかして雨夜秋人……?」
 すると、直行は驚きに目を見開いて、小声になって文華に訊き返した。
「な、何で分かったの?」
「……なんとなく」
 そこで、直行は、文華の前のパソコンの画面に気づいた。文書作成ソフトが起動されており、何か小説らしき
ものが書き綴られえていた。
「新しい小説? どんなの書いてるの?」
 次の瞬間、表示されていた文章が、全て消えてしまった。文華が目にもとまらぬ早業で、削除してしまったのだ。
「え? ど、どうして消すの?」

48 :No.09 Ctrl + A → Delete (お題:奇) 4/4 ◇Kq/hroLWiA:08/03/02 13:40:51 ID:5KYolZuF
「うるさい。死ね馬鹿。今のは小説じゃない」
 直行は、頭の上にはてなマークを浮かべて文華の顔を見た。
「事実は小説よりも奇なり……」
「……?」
 ブツブツと呟きながら、文華は人差し指でキーボードのキーを押していた。

――あいうえおかきくけこさしすせそ……――

おわり



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