【 流れ星人生 】
◆4ltwcueyqq




6 名前: 流れ星人生 ◆4ltwcueyqq  投稿日: 2006/05/28(日) 23:58:31.25 id:c4zpy1ez0
あの日の午後、私は、お婆さんに話しかけている小学校低学年くらいの少年を見つけた。
ここ近辺の住宅地では珍しい数寄屋造りだったのと、
縁側に座ってるお婆さんと、話はまだかなと、目をキラキラさせた少年が微笑ましかったので、少し立ち聞きする事にしたんだ。


「ねぇ、お婆ちゃん。また、僕のおじちゃんの話、してよ」
「んーそうだねぇ、どこから始めようかい?」
「初めからー」
「うん、わかったよ」
そう言うと、お婆さんは少し目をつぶって黙っていた。
まとめ終わったのか、お婆さんはゆっくりと口を開いた。
「あの子が生まれたのは?」
「昭和四十六年四月二十一日!」
少年が元気良く答える。
「正解。じゃあ、その子の妹が生まれたのは?」
「昭和四十八年一月十三日!」
また少年は力いっぱい答える。
「正解。セイトが生まれた日は流れ星が少し降っていた、という話は覚えている?
 だから星に人で星人。人の字はどこから来たかというと、
 その流れ星が星人に力を与えてくれて、星の人に近いものになったような感じがしたからね。
 そしてその通り力をもらっていたようだったの。
 あの子はね、神童だった。何をやらせてもうまく出来るし、一度言った事は一度で学んだ。
 小学校に上がってから、あの子はバスケットに興味を持った。あの子はバスケットボール部に、二年生から入部したの。
 やっぱり最初はね、活躍は出来なかったみたい。体に筋肉がそれほど無かったから。
 でもね、鍛えたの、そうしたらあの子二年生の後半なのにレギュラーになったのよ」


流れ星人生 ◆4ltwcueyqq 投稿日: 2006/05/28(日) 23:58:53.33 id:c4zpy1ez0
そこで少し、お婆さんは話を止めると私のほうに顔を向けた。
「あなたも、そんなとこ居ないでこっち来なさいな」
私は驚いて舌を噛んでしまった。
「ひょろひいんでふか?」
「どうぞどうぞ」
お婆さんは少年が座っているの、と逆の方をとんとんと叩いて手招きした。
私が座ったのを確認すると、話を再開した。

「あの子は二年生の後半なのにレギュラーになったの、小さい体を活かして大会では良いシューターになったみたい。
 五年生くらいになると体つきもかなり良くなって、格好もつけてみたくなるのか自分のシュートを打った時に、シューティングスター!
 なんて叫んで有名になってしまって、大会ではシューティングスターコールが起きたりする事がたまに……。
 中学校に上がっても頭の良さは変わらず、そしてバスケ部にまた入ったの。
 小学校の頃の成績を知っているのか、最初からレギュラーに選ばれたみたい。
 そこでもやっぱり、大会でいっぱい活躍したの。私も応援に行ったわ。
 星人にパスを回す時に、星人!シューティングスター!って叫ぶ先輩も居たの。
 パスをもらった後は必ずと言っていいほどシュートを決めたわ。それからも活躍したんだけど、忘れられないのが中学校最後の大会。
 あの子も年頃で好きな子も出来たのか、「僕、この大会だけはどうしても優勝しなくちゃいけない」
 って言って、行った最後の大会。順調に勝ち進んで行って、決勝まで上がっていった。
 あの子はシューティングスターを何回も決めたわ。そして優勝もした。
 私はそれで安心して家に帰ったの。でもね四時になっても、七時になっても、帰ってこないの。
 待っていたら電話が来た。内容は息子さんは高井病院にいます、っていう。
 びっくりして急いで行ったわ。そうして案内されていくと、泣いている女の子がいたの。
 星人の手を握って、どうしてどうして、って泣いていたの。
 暫くして医者が来たの。手は尽くしましたが……って、私も泣き崩れたわ。星人を抱きしめて。」

私はそろそろ涙腺の限界が来ていた。


流れ星人生 ◆4ltwcueyqq 投稿日: 2006/05/28(日) 23:59:17.18 id:c4zpy1ez0
「後で聞いたんだけど、泣いていた女の子は、星人が好きな女の子で、優勝して少し後、告白して付き合う事になった子だったの。
 帰り道、二人で手を繋いで歩いていたら、女の子が向かってくる自転車にぶつかって、
 星人はその衝撃を吸収しようと思ったんだけど、うまくいかず、道路に出てトラックに跳ねられたという事だったみたい。」
お婆さんはそこで話を止めた。
私は泣いていた。
「可哀相……うぐひっぐ……。」

お婆さんが口を開いた。
「おしまい。続きなんて忘れてしまった。感想は?」
私はのろのろと口を開いた。
「流、れ星みた、いな少年だっ、たと思います……うぅ」
「そう。この話はフィクションで実在の人物とは関係ありません。なんてね」
私は驚いた。
「じゃあ、不幸な少年はいなかったんですね、良かった。」
「三ヶ月くらい前に、この子が何かお話してーって来たから、そのときに即興で作った第一弾の作品よ、私の」
少年が言う。
「ねえ、お婆ちゃん。明日も来ていい?」
「うん。いいよ」
「やったー、ばいばーい」
そう言うと少年はかなりの速さで帰っていった。

「私もまた、来てもいいですか?」
「どうぞどうぞ、いらっしゃいな」
「今度のは、流れ星のように一瞬キラリと光る人生の、主人公は勘弁してくださいね」
「善処するよ」
「それでは」
「またね」

私は出来れば流れ星ではなく、恒星のようにずっと輝き続ける人生を生きたいなと思う、この五月



INDEXへ  |  NEXT−無題 ◆xs2xxxmxdi