【 にゃあ 】
◆VXDElOORQI




96 :No.31 にゃあ 1/4 ◇VXDElOORQI:08/02/24 23:58:48 ID:jZBIcH1D
 日曜日。俺が朝飯を食べ終え、コーヒーを啜っていると、妹が起きてきた。
 いつもなら水玉模様の買うときにサイズを間違ったのか、成長を見越したのかは不明なだぼだぼパ
ジャマ姿の妹が、もうすでに着替えを済ましていた。
 上は白地にピンクの水玉模様のキャミソール。下は青を基調としたチェック柄でミニのプリーツスカ
ート。ここまでいい。この服も何度か着ているところを見たことがある。だけど、なんで部屋の中なの
にニット帽をかぶっているんだ。
「おはよう」
 とりあえず朝の挨拶。
「お、おはよう……にゃ」
 にゃ?
「なんで部屋の中でニット帽かぶってるんだ?」
「な、内緒だにゃん」
 にゃん?
 なんだこれ。語尾がおかしいぞ。気のせいか?
「朝飯……食う?」
 俺が不審に思っているのを察知したのか、妹はコクンと頷くだけで返事をした。
 俺は席を立ちキッチンに向かう。妹の追及はとりあえず後回しだ。
 食パンをトースターに放り込み、タイマーを回す。その間にフライパンを温め、卵を落とす。ジュ
ーっと音を立て卵に火が通っていく。
 とりあえずトーストと目玉焼きでいいだろう。というかそのくらいしか俺には作れない。
 チンとトースターが食パンがトーストになったことを告げる。トーストを皿に移し、しばらくして
目玉焼きも焼きあがった。
 それと牛乳、砂糖たっぷり入ったコーヒーを作り、食卓に戻ると妹はまだボーっと突っ立ていた。
「なにやってんの? 座れよ」
 皿とマグカップを食卓に置いてから、俺は椅子を引いて妹に座ることを促す。
 妹はなぜか俺に背中を見せないように、ずっと俺に体の正面を見せながら横歩きで移動し、恐る恐
る椅子に座った。
「にゃっ! 冷たいにゃ!」
 座った瞬間、妹は小さく悲鳴を上げ、すぐに立ち上がった。
 頬を赤く染めて、お尻を押さえている妹。

97 :No.31 にゃあ 2/4 ◇VXDElOORQI:08/02/24 23:59:59 ID:jZBIcH1D
 俺が訝しげに妹に視線を送ると妹は慌てた様子で、椅子に座りなおし「にゃ、にゃんでもないにゃ
ん」と恥ずかしそうに言った。
 椅子に座り、冷たいと叫ぶ。どこが冷たいのか。おそらくお尻だろう。さっきもお尻押さえてたし。
なんで座っただけでお尻が冷たいのか。確かに家のダイニングチェアは木製で座布団を敷いていない。
それでも普通はそこまで冷たくない。悲鳴を上げて驚くほどじゃない。最悪でも一枚の布越しだから。
でも、もし一枚もなかったとしたら。布越しではなく、直に冷たい椅子に座ってしまったとしたら、
驚いて悲鳴の一つも上げてしまうかも知れない。
 俺が考えているあいだ、妹は朝飯を食べている。
 マグカップを両手で大事そうに持ち、ふーふーと冷ましてからそっとコーヒーに口をつける。それ
でも熱かったのか少し口に含んだだけで「にゃっ!」と小さな悲鳴を上げる。そしてまたふーふーと
冷ましにかかる。
 そんな微笑ましい様子を眺めながら、俺の中でたどり着いた考えを妹に言うか悩む。
 ちょっと聞くの恥ずかしいな。でもまあ気になるし……。
「パンツ履いてないの?」
 思い切って聞いてみた。
「……そんなこと、あるわけないにゃん」
 露骨に目を逸らす妹。ますますあやしい。
「じゃあ証拠にスカート自分でめくってパンツ見せて」
「お兄ちゃん。それって変態発言だにゃん」
「じゃあその場で脱いで見せて」
「同じことだにゃん」
「じゃあやっぱりスカートをめくって見せてもらうしか……」
「にゃんでそうにゃるにゃん!」
「じゃあ俺がめくろう。いや、自分で自分のスカートをめくって兄にパンツを見せるってのがいいん
だから、俺がめくったら意味がないか……。やっぱり自分でめくってくれ」
「変態だにゃ! ここに変態がいるにゃん!」
「ダメ?」
「ダメにゃん」
「どうしても?」
「どうしてもだにゃん」

98 :No.31 にゃあ 3/4 ◇VXDElOORQI:08/02/25 00:00:20 ID:Ky7Xcr2N
「じゃあそのニット帽脱いでよ」
「それくらいにゃらいいにゃん」
 妹は頭にかぶっていたニット帽を脱ぐ。脱いだ瞬間、今まで押さえつけられていたそれがぴょこん
と愛らしく現れた。
 妹の頭に生えていると思われるそれは間違いなく――猫耳だった。
「し、しまったにゃ! お兄ちゃんのわにゃにゃ!」
 妹は相変わらず脳味噌が幸せのようだ。
 俺は慌ててニット帽をかぶり直そうとする妹に素早く接近し、ニット帽を奪取。そしてそれを履い
ていたジーンズの中に隠す。ジーンズのナニのあたりがもっこりと膨らんで、少し誇らしい気分になる。
「にゃんでそんにゃところに隠すにゃん! せめてポケットに入れてほしいにゃん!」
「取れるものなら取ってみろ。なんなら社会の窓をフルオープンにして取り易いようにしてやろうか?」
 俺がジッパーに手をかけるとすぐに妹が「いいにゃいいにゃ! そんなことしにゃいでいいにゃ!」
と言ってきたので俺は渋々ジッパーから手を離す。
「お気に入りだったのにひどいにゃ! あとで焼却処分にしにゃいといけにゃくにゃったにゃん!」
 地味に酷いことを言って肩を落とし俯く妹。俯いたことで頭が少し俺のほうに傾く。俺はさっと手
を伸ばして、猫耳を両手で優しく掴み、もみもみすりすり。
「にゃ! だめにゃぁ、さわっちゃだめにゃぁおにぃにゃぁん。にゃっ、にゃあ……」
 妹が妙に艶っぽい声を出す。でも猫耳のなんとも言えない触り心地に触るのをやめられない。
 なでなでもふもふ。
「にゃぁ……にゃからにゃめらってぇ。ちから……ぬけちゃうにゃぁ……」
 妹は座っていた椅子からずり落ちてしまった。やりすぎたかと慌てて妹に近づくと、そこには呆け
た顔で床にぺたんと座り込んでいる妹と、ゆらゆら揺れている尻尾があった。
 耳があるんだから尻尾があってもおかしくはない。いや、あるべきだ。ないとおかしい。
 俺は妹の側に座り尻尾を掴み、もみもみすりすり。
「にゃにゃ! しっぽもにゃめにゃのぉ……おにぃにゃん……」
 なでなでもふもふ。
「にゃめてぇおにぃにゃん……にゃめてよぉ……もうにゃめてよぉ!」
 その瞬間、妹の尻尾がびゅんと唸り、俺の頬をびたんと叩いた。
 痛い。すごく痛い。
 俺は頬を押さえて床にうずくまる。しなりが効いた鞭のようになった尻尾の威力は中々に高かった。

99 :No.31 にゃあ 4/4 ◇VXDElOORQI:08/02/25 00:01:04 ID:Ky7Xcr2N
「お、お兄ちゃんがいけにゃいんだから。にゃめてっていったのに」
 痛みが引いても俺はすぐには起き上がらなかった。痛がっているフリをしてそっと目線を動かす。
 ああ、やっぱり……。
 俺は起き上がり、妹を見つめ、一言。
「やっぱりパンツ履いてない」
「み、見たのにゃ?」
「安心しろ。見たのはお尻だ。前は見ていない」
「そういう問題じゃにゃいにゃ!」
「え? 前を見てほしかったの?」
「そんにゃわけにゃいにゃ!」
「そもそもお前がパンツ履いてないのが悪い」
「パンツで尻尾が締め付けられるのがいやだったんにゃからしょうがないにゃ!」
「いやいや、俺はノーパンも嫌いじゃないぞ?」
「そんにゃこと聞いてにゃいにゃ!」
「テレるなよ」
「テレてにゃいにゃん!」
「え? ノーパンなのにテレてないの?」
「テレてるにゃ! もう! こんにゃことににゃったのも全部、あいつが悪いにゃん!」
「あいつ?」
「昨日、道でぶつかったあいつにゃん! ぶつかったら『ごめんにゃさいにゃ』とか言って謝ってき
たにゃ! 変な言葉使いだと思ったにゃん! 絶対あいつからうつされたんだにゃ!」
 うつされたって病気じゃあるまいし。あれか。猫耳病か。まさかね。そんにゃことがあるわけない。
「お兄ちゃん! その目は信じてにゃいにゃ! 本当にゃんだにゃん!」
「いやいや。信じてる。信じてるにゃん」
 あれ? 語尾がおかしいような。
 妹が驚きに満ちた目で俺のことを見つめ、頭を指差している。にゃんでそんな目で俺を見るんだ。
 まさか! 俺は慌てて洗面所に駆け込み、鏡を見る。そこには……猫耳が生えた俺が写っていた。
「にゃ、にゃんじゃこにゃー!」

おしまい



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