【 ある事件と俺の悪夢 】
◆CFP/2ll04c




2 :No.01 ある事件と俺の悪夢 1/2 ◇CFP/2ll04c:08/02/23 17:50:29 ID:D6mzPUyE
 俺は「からだ」のことを考えるとき、ある事件のことを思い出さずにはいられない。
 人間は心と体どちらが主なんだろうか?

 その事件とは、数年前の夏、ある地方の専門学校生が、思いを寄せていた同級生を
絞殺して死体を犯し、山中で首を吊って自殺したというものだ。
 彼は理性で自分の欲望が抑えることができず、体が命ずるままに何の罪もない彼女を
害した。
 彼女が絶世の美女であるかというと、テレビや新聞で見た彼女の顔は、ある程度の水準
にはあったが、まだ幼さが抜けきらず、どこにでも見られる普通の女の子だった。
 白昼の教室で彼女と二人きりになった時、彼は犯行に及んでいた。
 それ以前に彼は、彼女になんらかのアプローチをしていたのだろうか?またその日教室で
愛の告白のようなものはあったのだろうか?
 ともかく彼が、彼女に襲いかかったことだけは、動かしがたい事実である。
 ビニール紐で彼女を縊り殺した彼は、彼の体の欲するがまま、彼女の死体を凌辱していた。
 ついさっきまで彼と会話をしていた彼女の死体。
 おそらく、彼女の顔には苦悶の表情が浮かんでいたであろう。いや、そんな生易しい言葉
では表現できまい。歯を食いしばり、口の端から血は流れ、目は飛び出さんばかりに、自分の
生命の火を消そうとする者を、ありったけの憎しみをこめて睨みつけていたはずだ。
 胸を掴んでも、性器に触っても、彼女は何の反応も示さない。前記のとおり凄まじい形相を
している。おそらく彼女の排泄物で、そこらじゅう汚れていただろう。
 それでも彼の体は目的を達成していた。この事実に俺は慄然としてしまう。その行為の最中
彼を突き動かしていたのは、頭なのか体なのか?
 彼の体が果ててしまった後、主導権を取り戻した彼の頭は、なにを思ったのだろうか。
 やっと想いを遂げられた満足感。なんてことをしてしまったのかという後悔。
 たぶんこれは後者であろう。後の彼の行動を鑑みると、俺にはそのように思われる。

3 :No.01 ある事件と俺の悪夢 2/2 ◇CFP/2ll04c:08/02/23 17:50:54 ID:D6mzPUyE
 彼は、彼女の死体を教室に残し、扉に鍵をかけて逃亡する。自分の死に場所へと向かって。
 そう遠くはない山の中で、縊死することを彼は選んだ。その場所は彼にとって、どんな思い出
があるのか俺にはわからない。
 事件の日から十数日後、彼の死体は発見された。真夏ということがあり、ロープにぶらさがって
いたはずの、腐りかけた彼の体は、自らの重みに耐えきれなかった。頭と体が分離したまま、地面
に横たわっていたという。
 彼も死後に自分がそんな姿になるとは、思っていなかったのでは無かろうか。
 この象徴的な光景を想像すると、俺にはそこに、とても重大な何かが、隠されているような気が
してならない。

 以下は俺の悪夢――

 緑が生い茂る山の中、あたりは蝉の声で満たされている。太い木の枝に垂れ下ったロープ。地面
には頭と体が別々に転がっている。
 突然、ムクリと体が起き上がる。首から上はない。蝉の声はピタリと止む。緑の中をしっかりと
した足取りで体が歩き出す。頭はそこに残したまま、体は山を下りて行く。
 農作業をしている初老の女。体は彼女に音もなく近付き、背後から首を絞めあげる。倒れた女に
体が覆いかぶさる。幾度か律動した後、体は立ち上がる。初老の女はピクリとも動かない。
 頭のない体は再び歩き出す。前方にはランドセルを背負った少女。体は少女の首を絞め犯す――

 いまだに体は俺の夢に出てくる。出会った女を片っ端から、縊り殺し、犯している。
 俺の中にそのような衝動が眠っていないか、最近自信が無くなってきた。

                完



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