【 摩擦 】
◆5GYXdMXqOs




3 :No.02 摩擦 1/4 ◇5GYXdMXqOs:08/02/16 15:17:30 ID:xHXfIcR6
 人は何を基準に孤独と感じるのだろう、例えその感情が自意識過剰だとしても。
 孤独とは、一体何者なのか。

 集う人々は窮屈ゆえにその場特有の感情に偶に支配される、又その場の雰囲気つまり感情に呑まれ犯されるこ
とがある。集うだけに限った話ではないが人と人が交わり縁を持つということは窮屈に値すると考える。
 そんな中で痺れをきたした者から見えにくくてとても小さくて醜悪な摩擦が生じる。この摩擦は誰が気付く事
も無く自然に大きくなり、次第に擦れた面は火花を散らし、又その熱で溶けた面同士が半田の様な物で接着しあ
ったりする。その後の事を例えるなら電子回路内で接着した同士が順々に、着実に一つの物になる様に組上げら
れていく様な感じだ、それもベルトコンベアーで声を殺しながら黙々とパートのおばちゃんが電子回路の組み立
て作業をしている。
 例えで出たおばちゃんの作った電子回路は単純なエラーを起こす場合がある、それは反発であったり停止であ
ったりする。だが深刻なエラーが起こりえることもある。そのエラーは大抵が修復可能だが最悪電子回路自体が
機能を果たさなくなる場合もある。
 もし最悪な状況に陥ったときは、企業としては死活問題に発展する事もある。そこで企業としてはこの事を隠
蔽し何も起こらなかったことにして普段と変わらなく営業する。またこのようなエラーが起きた場合は同じよう
に処理される、もはや暗黙の了解の域に達しているといっても過言ではない。
 物事は摩擦によって動く、感情も行動も思考もそうだ。
 また摩擦は大きいほど窮屈の中では目立つ。目立つ物を人に例えるならリーダーだろうか。リーダーは強靭な
精神の持ち主でないと到底務まらないと考えるのならこの立場に立つ人もまた孤独と言えるのではないか。理由
としては極簡単なことでリーダーの他は、以外でしかないからだ。
 逆に考えてみた、目立つとは目に触るに近いものがある。そうなると目に触るものにはそれなりの扱いをされ
ることも必然、それも理不尽で醜い行為。

4 :No.02 摩擦 2/4 ◇5GYXdMXqOs:08/02/16 15:17:52 ID:xHXfIcR6
 対になるが相反するもの、上と下。

「この菊と名のつく白い花をご存知でしょうか」

 僕は「以外」の中に居た。
 私生活の中では特に問題も抱えずに平凡と呼ばれる、ぬるい世の中に彷徨っていた。部活や趣味に情熱を注ぎ
込んでいたわけではなく、かと言って何かに苦労していた訳ではない。
 それは唐突にやって来た。以外、平凡それらへの摩擦だった、始めは何てことはない摩擦熱を感じるわけでも
なく絹と絹が触れ合った程度の擦れだった。
 右手に持つシャープペンシルの持ち方が気に入らないのでむしゃくしゃした。このままでは気持ちが治まらな
い、無い頭を使って試行錯誤した結果、解体して分解してパーツをはさみで切ってプラスチックで出来ている部
分はすべて窓から外に向かって捨てた。まだ違和感を感じる、仕方がないので芯だけを取り出して全て紙に文字
を綴ってみる。
 文字の羅列には落ち着きが無く、文字道理ミミヅが這っていた。
 目は潤い鼻はひくつき頬は吊り上り口からは安堵の息が漏れていた、今にも唾液が氾濫してしまいそうだ。に
やけるのを我慢しながら左手の動脈を机の暗がりで指圧していた。下半身の興奮も足の痺れも目まぐるしい程の
痛みを伴ったがこの悦は終わりそうにない。
 今、面から火花が散った。

「こちらの菊の花言葉は、思慮深いだそうですよ」

 お前は「以外」の中に居る。
 薄々気づいてるんだろ、周りから見てる奴らが皆口を揃えって言ってるぞ。言葉自体には棘は少ないけど気味
が悪いやら近づき辛いってそんな事ばっか聞くんだよ。
 あの時みたいなお前は何処に行っちまったんだよ、明るくて誰に対しても気遣いが出来る優しかったお前は。
最近は夜中とか結構うろつてるらしいじゃないか。教室での奇行だって皆見てみぬ振りしてるけど正直、その行
動が癪に障ってる奴も少なからず居るんだ。気づいてくれお願いだから。

5 :No.02 摩擦 3/4 ◇5GYXdMXqOs:08/02/16 15:18:29 ID:xHXfIcR6
 あれは今から二週間前ぐらいだったか、お前が出入り禁止になっている屋上の扉を無理やり抉じ開けて外に出
たのは。目の前にした時は本当に驚いたよ、学らんはボロボロになっていて右手にはケーブルカッターを握り絞
めていたんだから。
 初めて出た屋上にはあって当たり前のフェンスが無くて、元よりあった空の広さに俺は不謹慎だが感動してし
まったよ。あの時のお前は金属のような無機質で温度の無い表情を浮かべて立ってたな、一体何を考えてたんだ
ろうな今でも俺には分からないよ。答えはお前に聞けば答えてくれたのかな。
 今日はいつもより早く家を出ていた。

「あら、いらっしゃい。何を御求めですか」

 アイツは「以外」からは既に逸脱していた。
 アイツが一週間ぶりに登校してきた、ぶっちゃけるとチョーウゼェんだよなアイツ。マジで俺様の視界から失
せろって感じだよ。いった何考えてるかわかんねーしよ、ギザいらつくんですけど。あ、これショロタンの真似
ね、オモレーな俺様って、心の中では隠しきれない俺のピュアハート。
「まぁよ、何かと調子乗ってから見せ付けてやんねーと駄目だよな。何にせよ俺がアイツをシメテやんよ」
「ははは、ほんと笑っちまうよ何だアイツ。
 校舎裏に呼び出して五人で囲ったら急にビクついてやんの、マジで見せたかったよお前らにも、その後はいつ
もの様にやろうとしたらよ急に逃げ出して笑ったね。可哀相だから逃がしてやったんだけど、やっぱ腹の虫収ま
んねーから明日またやってやるよ」
「おう、聞いてくれよ。あれから一週間たったんだけどアイツ全然学校に顔ださないんだよ。俺様にびびってん
だろうと思うんだけどさ、いい加減殴りたい。お前もそう思うだろ」

6 :No.02 摩擦 4/4 ◇5GYXdMXqOs:08/02/16 15:18:51 ID:xHXfIcR6
「畜生、タバコが切れちまった。ああイラツク、そうだアイツの上履きちょっと持って来いよ」
「ちんたらしてねーで早く寄こせや、その上履きちょっと手に持ってろ。そう、その位置だ」
「うおくっせ、何だこの臭い。焦げてんじゃねーかよコラ、まぁいいちゃんと持ち主ところに返しておけよ。そ
いつが無いとアイツも便所に入るとき不便だろうからよ。俺様っていい奴」
 この時、摩擦は火を伴った。

 学校チャイムが鳴った。
 ああ、もうとっくに気づいてたよ。僕は高校生だった、なんてことは無い今もちゃんと席の前に立って居る。
 只、机の上には真新しい花瓶に一輪の菊の花と爪先の焦げた上靴があった。これは何を意味するのかは大抵の
人には理解が出来ると思う。
 教室の扉が開く、先生が入って来た。教壇に立ち菊の花を一瞥てし口を開いた。
「もう知ってる奴も居るかもしれんが、昨日……」

<終>



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