【 優しさ 】
◆/sLDCv4rTY




2 :No.01 優しさ 1/1 ◇/sLDCv4rTY:08/02/16 15:16:38 ID:xHXfIcR6
 どこか遠い世界には、あたりまえのように家などを建てて、沢山のカエル男やカエル女が暮らしている。
そのなかの一人の、緑色のカエル男は、夜、家の庭に迷い込んできた一匹の野良人間に、くい物をやった。
くい物をやったけれどその人間は、それを食べようとはしなかった。食べないまま、その人間はそこにいた。
 向かいの家の犬小屋では、首輪に繋がれた裸の女が肌色の体をまるまらせ、ぐっすりと眠っていた。

 その人間は次の夜にも庭に来た。カエル男は、こんどはお金をやってみた。
長い間一人暮らしの彼には、すこしお金が貯まっていたのだ。
けれど、その人間はお金も取ろうとはしなかった。
お金という概念が、わからなかっただけではないのだろう。くい物も服も、いらないようだった。

 毎日その人間は、夜になると庭に来た。汚い体で。無愛想な顔で。そしていつも一人で。
何も持っていかないのに、毎日。
カエル男はいつも、何かを投げてやった。そしてやはりその人間は、何も取ろうとはしなかった。
 ある夜、独り身の淋しいカエル男は、さっき投げて落ちたままのくい物とお金と、庭ににずっといる人間をみていた。
カエルの皮膚をもった男はある夜に、ずっとその人間をみていた。……

 次の夜もその人間はやってきた。
またいつものように、カエル男は何かを投げてやろうとした。けれど、ふと、そのあやまちに気づいた。
……。
 あやまちに気づいてカエル男は、その人間に、ごめんね、といった。
そして、もうなにかをやって手なずけようなんて、思わなかった。
ぼんやりと優しく、星がきらめいていた夜。
時間の流れはゆっくりで、進んではいないかのよう。
そうしてその人間は、初めてわらって、いいよ、といった。
 庭には、二本足で立っている二人。
 向かいの家の犬小屋には、首輪に繋がれた裸の女がぐっすりと眠っている。

 ――今までは淋しかった夜。
二人は月明かりのなか、いろんな話をした。



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