【 買うもの買われるもの 】
◆A9epGInhJg




2 :No.01 買うもの買われるもの 1/3 ◇A9epGInhJg:08/01/26 13:18:56 ID:19pLuUKv
「では次の品です」
 富豪達が集まる地下のオークション会場に役員の声が響き渡る。
 特別なコネを持つ人間だけに入る事を許された薄暗い会場だ。
「これから紹介しますのは、どれも二つとない宝石でございます」
 目の前の台にずらりと宝石が並べられる。
 今度の品はキュドーの気に入るものだった。
 これらはとある大富豪が持っていた宝石だという。
 しかしその大富豪は最近、買っていた恨みを一度に全て晴らされ、多額の借金を背負った。
 窮地に立たされた元大富豪は借金の足しにと宝石をオークションに流したらしい。
 キュドーはあらためて宝石を見た。全部で九つある。
 大きさはそれぞれかなりまちまちだ。燃える様な赤い宝石が一番大きい。
 しかしキュドーは、それよりもかなり小さい青い宝石の美しさが気に入った。
 全体的には青いといえるが、ところどころ白い模様が入っている。
「皆さんそろそろよろしいでしょうか。あまり見つめすぎると商品に穴があいてしまうかもしれません。
おっと、言い忘れましたが、この宝石にはある秘密がございます。それは見事競り落とされた方だけにお教え

します」
 周りの人々の目に複雑な色が浮かぶ。キュドーも役員の言葉に疑問や疑惑を頭にうかべた。
 しかし宝石にどんな秘密があるというのか。身に着けているものを幸福や不幸にするのだろうか。
 まさか、この宝石を持っていたために元の持ち主は破滅してしまったのか。
 キュドーの心に不安が広がる。しかしそんな考えをもったのはキュドーだけではないようだ。
 この場を離れたものさえいる。えてして金持ちは自分の身の安全を優先する。
 もしかしたら考えすぎかもしれない。聞いてみたらなんだそんなことかと思うような秘密かもしれない。
 どんな秘密かと好奇心が膨らみ始める。
 役員が言った言葉は、身の安全を考える者には商品の値段を下げかねないが、野心家や好奇心の強い者には

価値を高める。

3 :No.01 買うもの買われるもの 2/3 ◇A9epGInhJg:08/01/26 13:19:22 ID:19pLuUKv
 キュドーは野心家だった。周りに残っている人々もそんなような連中だろう。
 これは思っていたより値が上がるかもしれない。
 右手の汗をそっとぬぐう。
 競りが始まった。

「もういませんか。――はい。では最高額は、キュドー・コーエン様です」
 周りから拍手される。キュドーは軽く右手を上げてそれに応じた。
 なんとか競り落とせた。
 しかし、今日のオークション用に持ってきた金はもうほとんど残っていない。
 しかたなく家に帰ったキュドーは、役員の話を思い返した。
 馬鹿な話だと思う。役員が言っていたのはまるで現実とは思えない。
 キュドーは役員の話はほとんど信じずに、ただ目の前の宝石の美しさに目を奪われていた。

「おや、この宝石こんなところにあったのか」
 この宝石をオークションで手に入れてから二十年になるだろうか。
 いつしか興味も薄れ、棚の奥にしまっていた宝石をキュドーは見つけた。
 お気に入りだった青い宝石はいまだ輝きを失っていない。
 やはり、あの役員の言った事は嘘だったのかもしれない。
 懐かしい宝石の輝きに時間を忘れる。
 ――不意に、宝石の一部が赤く光りだした。
 キュドーが驚いている間にも、その光はどんどん宝石を飲み込んでいく。
 光が消えたとき青かった宝石は灰色の塊になっていた。
 キュドーは目の前の光景に目を見開いたまま膝をついた。
 役員の言っていた事は本当だったのだ。
 この中で戦争でもあったのかもしれない。
 だがどうしようもない。キュドーにとっては宝石のひとつを失っただけだ。
 ほかの八つの宝石をキュドーは大事そうに見つめた。

4 :No.01 買うもの買われるもの 3/3 ◇A9epGInhJg:08/01/26 13:19:54 ID:19pLuUKv
「落札おめでとうございます。お約束どおり宝石の秘密をお話します。
こちらは地中から掘り返したような普通の宝石ではございません。
ある特別な素材で遠い銀河の星を包んでいます。
左から太陽、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星と名をつけています。
さらに、この地球にだけはさまざま生物が観測されています。
それゆえに何かが起こるやも知れません。
どうぞこの神秘を手のひらで鑑賞くださいませ」



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