【 崖からの世界 】
◆XWlJoipayI




#navi(BNSK/週末品評会/8th)

58 :「崖からの世界」 ◆XWlJoipayI :2006/05/21(日) 23:30:48.69 ID:0gnQD9TN0

 もうなにもしたくない。勉強もアルバイトも何もかも。
 数メートル先が見えない、そういうほどではないが、数キロ先だろうかは霧か雲によって白く霞んで見える。
表現は可笑しいかもしれないが、曇った眼鏡のレンズから世界を見ているようだ。
 綺麗に晴れれば街の向こう側に海が見えるらしい。しかし海は見えない。
見える物と言ったら僕たち人間の造ったビルなど、そして日本の人口密度の比にならない程の勢いの木々達。
 季節は五月中旬。植物の緑が生き生きして見える。その姿が僕をイラつかせる。
 お前らのような知性を持たない生物のくせに、なんて思ってしまう。知性を持たないが故にそんな生き生きできるのか?
いや、持たざるものにはそんなこと関係無い、嬉しいだとか苦しいなんて感じられないだろ。そう自分に言ってみた。
持っているせいでこんな苦しいのなら、こんなもの消えて無くなってしまえ。とも思ってしまう。
 もうこんなこと考えるのは辞めよう。今日は植物に愚痴を言いにきたんじゃない。やりたいことがあってここに来たんだから。
 今僕の立っているところ。それは、崖。


59 :「崖からの世界」 ◆XWlJoipayI :2006/05/21(日) 23:32:14.33 ID:0gnQD9TN0

 サスペンス物のドラマに出てくるような下が海になっている場所ではなく、山にあるような崖だ。
崖の傾斜は直角とまではいかないが、七十度から八十度といったところだろう。
 しかし落ちてしまえば奇跡でも起きない限り――
 でも僕はここから飛ぶんだ。
 意を決する。
 ゆっくり地面を蹴る。次第に強く、早く。早くなってきたもう少しだろう。 よし、いった。
 下にあるもの。それはさっきまで僕をイラつかせていた木々達。顔だけじゃない全身に風を受ける。少し強く感じるがそれが気持ちいい。
 僕は飛んでいる。


60 :「崖からの世界」 ◆XWlJoipayI :2006/05/21(日) 23:34:11.75 ID:0gnQD9TN0

 「よっしゃ、うまくいった。」
 今回で何回目なんだろうか、飛ぶ前はやはり緊張する。緊張していたから植物達に当たってしまうのだろうか。
 ハンググライダー。これのおかげで僕は鳥の様に空を飛べる。空を飛んでいると嫌なことすべて消えてなくなってしまう。
いやそういった感じではなく、そんなことよりこの世界を満喫させてくれ。こうだろう。僕たち人間は小さい、そして人間の造った物も小さい、しかし地球の創った物は大きい。
 勉強・金・友人関係・ルックス、そんなものどうでもいい。そう思える。
 急に僕は叫びたくなった。何でなのか、それはわからない。でも叫びたい、叫んでみたい。よし、叫んでしまおう。
 「ばかやろおおおおおおおおおおおおおおおおおお。」
 叫んだ後少し恥ずかしかったが、やはりどうでもいい。
 人間がばかなのか? それとも僕だけがばかなのか?
 やっぱどうでもいい。

 完



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