【 VIP 】
◆04JNP5h0ko




23 :No.06 VIP 1/1 ◇04JNP5h0ko:07/10/14 01:29:10 ID:k5GFLHmN
 ある男が通貨偽造の容疑で逮捕された。
 男は長期にわたる極めて綿密な計画の下に、数万枚単位で精巧な通貨を偽造したのだ。
 実際それは大量に巷に流通され、今日に至るまでの半年間、誰の目にも偽物であることを見抜
かれないほど見事な出来映えであった。
 男が逮捕されたのは、挙動不審に気付いていた母親の密告による。
 犯行計画が詳細に綴られた男のメモを、ある日偶然に見つけてしまったのだ。
 以下はテレビの取材における母親とインタビュアーとのやり取りである。

「一日中部屋にこもりっきりで……ずっと何をやってるんだか、と思っていたんですよ」
「息子さんが普段いらしたのは、あちらの離れでしょうか?」
「元々は主人の作業所だったんですが、主人が亡くなってからは息子が独りで寝泊りしてまして」
「息子さんは何かお仕事をされていたのですか?」
「何をしてたんですかねえ……今まで家には一銭もお金を入れないで、まったく、私のパートの
稼ぎだけで何とか食べてきたようなものです」
「でもねお母さん、息子さんが偽造したお金は非常に精巧に作られたもので……」
「あんなお金どれだけ貰ったって嬉しくないですよ、人様にまで迷惑をかけて」

 しばらくして男は起訴され、裁判を受けた。判決は懲役二年であり、計画的な大量通貨偽造事
件にしては 軽い判決であるようにも思われた。
 判決が言い渡されたとき、男は勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべていた。
 医療刑務所に向けて護送されるとき、裁判所の玄関周辺に集まったテレビカメラは、男が大き
な白い紙を胸の前に掲げている姿を映し出した。
 カメラがズームアップすると、何かマジックで書かれている。
「壮大な 安価達成 VIP」と読めた。

 この事件は戦後日本の通貨偽造事件の中で、極めて特殊な事例として位置づけられた。
「偽一円玉事件」として広くマスコミで報道され、しばらくは物好きな大衆の話のタネになった
が、その真相を知る者は意外に少なかった。

  ――了 (注:自分が以前某所で晒したssを手直ししたものです)



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