【 ねこ大好き 】
◆NpabxFt5vI




73 :ねこ大好き ◆NpabxFt5vI :2006/05/14(日) 23:31:24.78 ID:/iiA9Uyw0
三つ目の角を右に曲がると、彼女の家だ。
毛並みを整えて、門の上で彼女を待っている。
猫は気紛れと思われがちだけど、本当は規則正しい生き物なんだ。

それは、彼女も一緒で、長い時間を待たされる事は無かった。
まるで、前もって約束していたように、スーツ姿の彼女は玄関を出て、門の上の僕を見る。
りりしく胸を張って座りなおすと、胸を撫でてくれる。

ああ、今日もみそ汁のいい匂いがする。
美人で、料理の上手な女の子。
知らず知らずのうちに、ごろごろと喉がなってしまう。
煮干からダシをとったみそ汁と、彼女と石鹸と香水の匂いが混ざって、
あまり人間には分からない匂いかもしれないけど、僕にはいい匂い。
んー、いい気持ち。

あと五分、と思って塀の上でひっくり返って頭を差し出す。
めったに野良猫はこんなポーズはしないけど。
りっぱなヒゲだというように、僕のヒゲも優しく撫でてくれる。
変わらない毎日の儀式――
ん? なんだか、変な匂いがする。
知らない匂いだ。何だろう?
良く匂いをかいで見ると、なんだかとても不安になった。
1秒だけ、彼女は手を止めて、何か考えているみたいだった。
とりあえず、僕はその匂いを舐めとろうとした。
へんだな、この匂い、とっても怖い。
ああ、と気づいた時に、その匂いのする男の人が、家の中から出てきた。



74 :ねこ大好き ◆NpabxFt5vI :2006/05/14(日) 23:31:49.59 ID:/iiA9Uyw0
部分的に白髪の入った髪の男性だ。彼女の父親だろう。
血の気が無くて、顔色が悪い。僕は本能的に知っている。これを何ていうか。

ぺらぺらの服の父親は、僕の方をちらりと苦しそうに見たので、
流浪の猫の力強さを分けるように、もう一度胸を張って座りなおした。
仕方が無いことだけど、どうか、せめて、苦しまない旅立ちを。
やだな、彼女は何時か、泣くんだろう。

しろい車が赤いサイレンを鳴らしてやってくる。
やっぱり猫には怖いその音を、じっと我慢する。
無理をしても、一人で乗り込む父親をじっと見送る不安を支えたかった。

ねえ、どうしてこんなに辛いのかな
こんな風に、そばにいることしかできなくて。
大好きな君に、何もしてあげられなくて。
好きなのは僕だけで、君には僕はただの野良猫にしか映らないけれど。
きみが帰ってくる時は、せめてこの門の上で待っていよう



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