21 名前： ◆8OeRHv0OkE [] 投稿日：2006/05/14(日) 13:42:53.44 ID:qB2Cy5whO
僕は猫を飼っている。
この中古物件に越して来た日に、庭を三毛のオス猫がうろついていたので、僕はさくらえびを２､３匹投げてやったら、警戒する事も無く猫は食べにきた。
翌日も庭にいたので、さくらえびを投げてやる。毎日そんな事を繰り返していた。
ある日僕は買い物に行かなければいけなくなったから、縁側にさくらえびを５、６匹撒いて出掛けて行った。
その日、僕が買い物から帰って来たらその猫が当たり前の様に僕の家の中をうろついていたのだ。
僕は縁側沿いの窓を開けっ放しにしていた自分の不用心さに呆れながらも、猫を風呂にいれてやった。
以来、猫は僕の家にしばしば出現し、台所のさくらえびを適当に漁り、夜になったらまた僕の家に来て眠る様になった。
おかげで僕は縁側沿いの窓を開けっ放しにしておかなければならないので、不用心なまんまの生活だ。
この猫を僕が飼っているか飼っていないかは微妙な問題だと思う、猫は食事は何処かで食べてくる様だし、僕が上げているさくらえびは、ほんのおやつ程度の物だ。
だけど、この中古物件で僕と猫が共同生活を営んでいる事は確かだった。
22 名前： ◆8OeRHv0OkE [] 投稿日：2006/05/14(日) 13:43:33.05 ID:qB2Cy5whO
さて、最近になって気付いた事がある。
猫は、夜に僕の家に来て適当にその辺りで眠り始める。
僕も猫が来ると、そんな時間かと思って寝る準備を始めるのだが、どうやら猫は僕が寝静まった深夜、何処かへ出掛けて行っている様なのだ。
昨日、深夜に目覚めた僕は寝る前に猫がいたはずのスペースと開けっ放しの窓を見ながらそう思った。
だから今日は猫の後をつけてみる事にする、野暮な事かもしれないけど、この好奇心ばかりは押さえられない。
そして、夜が訪れた。
僕はコーヒーを一杯飲んだ後、狸寝入りを始める。
猫はなかなか動かない。
３時間もして、狸寝入りがただの寝入りに変わりそうになった時、猫は目を覚ました。
僕は薄目でそれを見守る。
猫は縁側の方まで走って行き、ダンボールに飛び乗り、器用に体を伸ばして夜は閉めてある縁側沿いの窓の止め具を外してしまった。
猫はそこから外へ出て行く。
僕は不用心極まりないな、と思いながら体を起こし、それを追う。
深夜に悠々と道を歩く猫と、壁や電柱に隠れながらそれを追う僕。
猫がメスじゃなくてもなんだか犯罪を犯している様な気がした。
やがて、猫は空き地へ着いた。
23 名前： ◆8OeRHv0OkE [] 投稿日：2006/05/14(日) 13:44:57.22 ID:qB2Cy5whO
僕は電柱に隠れながら空き地を見守る。
そこには僕のルームメイトも含め、沢山の猫がいた。
最初は皆はそこかしこでじゃれ会いながら時間を過ごしていたが、やがて一匹がよく通る声でニャアと鳴き、皆はじゃれ会うのを止めた。
殆どの猫は半円の形に整列し、３匹の猫を取り囲む。
その３匹の中に僕のルームメイトはいた。
先ほどニャアと鳴いた猫がまたニャアニャアと鳴き、ルームメイトとその正面に座っていた猫は頷いた。
僕もつられて頷いた。
そして、例の猫がニャアと小さく言ったのを皮切りに、僕のルームメイトともう一匹の猫の討論が始まった。
ニャアニャアと何かを主張しあい、周りの猫は野次を飛ばす。
僕はハラハラしながら事の成り行きを見守る。
やがて討論は終わった、どちらが勝ったのかは分からなかったけど、ルームメイトとその討論相手は互いに握手の様な事をした。
その瞬間、列の中の一匹が何かを呟く。
途端に猫達はどっと笑いだした、どうやら面白い冗談か何かを言ったのだろう。
内容が分からないのが僕には歯がゆかった。
24 名前： ◆8OeRHv0OkE [] 投稿日：2006/05/14(日) 13:45:35.67 ID:qB2Cy5whO
討論も終わり、猫達は散り散りになる。
僕のルームメイトも僕の家の方へ歩いて来る、そして、電柱の影にいる僕と目が合った。
僕は「お疲れ」の一言でも言おうとしたが、なかなか言葉が出てこない。
そんな事をしている内にルームメイトはさっさと顔を逸らし、家路を辿って行った。
僕が家に帰ると既にルームメイトは眠っている。
僕は窓を閉めた後、隣りに寝転がる。
「……あの猫の中に、毎回僕の家のゴミ袋を荒らす奴がいるなら、次会った時ちゃんと言っておいてくれよ」
僕はこれだけは言おうと帰途でずっと考えていた事を言う、ルームメイトは、目は閉じたままで小さくニャアと答えた。
〔完〕