【 税金合体!箱物ロボ! 】
◆VXDElOORQI




78 :No.19 税金合体!箱物ロボ! 1/5 ◇VXDElOORQI:07/09/03 01:13:11 ID:LzGzdCYB
 重々しい音を立てて真っ白に塗装された鋼鉄の腕が、同じく真っ白に塗装された寸胴の鋼鉄の胴体
から取り外される。その腕は天井クレーンで吊るされ、ゆっくりと下ろされる。
「昇降機、まだ導入してもらえないの? あれがあればいちいち胴体に上って腕を取り外すなんてこ
としなくても整備できるのに」
 胴体から身軽にするすると降りてきたツナギ姿に作業帽をかぶった少女が、天井から徐々に床に近
づいてくる腕を眺めながらが文句を漏らす。
「ちょっとお兄ちゃん聞いてるの?」
 作業帽の後ろから伸びるポニーテールが、少女が振り向くと同時にさらりと揺れる。
「聞いてません」
 少女が振り向いた先には、少女と同じようにツナギに作業帽姿の兄と呼ばれた青年、アキラも天井
から降りてくる腕を眺めていた。
「もう!」
 頬をぷくっと膨らませ抗議をするが、アキラは気にする様子を見せず立ち上がり歩き出す。
「ほら、ミサ、整備始めるぞ」
 少女、ミサはまだ頬を膨らましたままアキラの背中を追いかける。
 天井クレーンはすでに動きを止めていた。

「よし、異常無し。ということにしておこう」
「あるわけないよ。この前、整備してから動かしてないんだもん」
 ミサは整備をするわけでもなく、コンテナの上に座り、足をブラブラと揺らす。
「そうは言ってもな。俺達は整備士なんだから、整備するしかないだろ。こんなの暇つぶしだよ」
「お兄ちゃんは操縦士兼整備士じゃん」
「操縦士って言っても、操縦する機会なんてないんだから意味無いだろ。出番もないのにこんなデカ
ブツ動かせるか『日本の科学力を世界にアピールし、なおかつ防衛の最後の砦にする』なんてアホ臭
いお言葉で生まれたんだ。出番がないのも当然と言えば当然だけどな」
 簡単に工具の片づけを終えたアキラもミサの隣に腰を下ろす。
「まあ実際は不況の工業産業を潤すための公共事業だけどな」
「箱物ってやつだねー」
「だから作るだけ作ってあとは予算無し。だから昇降機も無し。人員も俺たち兄妹だけ」
「世知辛いねー」


79 :No.19 税金合体!箱物ロボ! 2/5 ◇VXDElOORQI:07/09/03 01:13:28 ID:LzGzdCYB
「巨大ロボットでも攻めてこないもんかねぇ」
「ないない。そんなの」
「だよなぁ」
 二人は揃って「はぁ」とため息をついた。
 アキラはラジオのスイッチを入れ、残りの片づけをするため、コンテナを降りる。。
 いつもならパーソナリティーがくだらないハガキを読んでいる時間のはずが、今日はやけに騒がし
くがなり立てている。
『ビル街に突如現れた巨大ロボットは! 現れて以来微動だにしません! いったいなんのために現
れたのでしょうか!』
 二人は『巨大ロボット』という言葉に顔を見合わせる。

「合体ッ!」
 ミサはコンテナの上で仁王立ちになり、大声で叫ぶ。
「いいから手伝え!」
「手伝うって言ってもねー……」
 天井クレーンでゆっくりと持ち上がっていく腕。まだまだその腕が本来あるべき場所に戻るには若
干の時間が掛かりそうだった。

 ミサが胴体に腕を取り付け終えると、すでに胸の位置にある操縦席に乗り込んでいるアキラに腕を
取り付けたことを報告する。そしてミサは器用にするすると胴体を降りていく。
 ミサが降りたことを確認したアキラはエンジンに火を入れる。ガルンとエンジンが音をあげ、背中
に伸びる二本の排気管が黒い煙を吐き出す。
 そして取り付けが終ったばかりの腕を少しだけ動かす。ギシと少し軋んだような音をたてたが問題
なく動いた。
「ところでさぁ」
『ん?』
 両肩に取り付けられた外部スピーカーからアキラの声。
「どこからも出動命令来てないんだけど」
『バカ野郎。ロボットに対抗するにはやっぱり』
「ロボットだよね」

80 :No.19 税金合体!箱物ロボ! 3/5 ◇VXDElOORQI:07/09/03 01:13:47 ID:LzGzdCYB
 ミサはニヤリと笑う。
『わかってるじゃない。行くぞ!』
 アキラは勢い良くそう言うとロボットを発進させる。アキラの勢いとは裏腹にロボットはまたも、
ギシと音を立て、ゆっくりと一歩を踏み出した。


 ビル街の真ん中に黒いロボットが立っている。
 団栗のようなずんぐりとした黒い体に手足が生え、団栗の帽子がある位置には目のように赤い光が
二つ灯っている。その黒いロボットは周りを旋回する無数のヘリコプターを気にする様子もなく、た
だじっと立ち尽くしている。
『待たせたな!』
 遠くからアキラの声が響く。その大音量にビルのガラスがビリビリと震える。避難の済んだビル街
に、ビルと同じような高さの人型のロボットが二機立っている。
『まーってたぞ!』
 黒いロボットの外部スピーカーからしゃがれた声が響く。
『うお、本当に待ってたのか』
『お前が噂の税金無駄遣いのロボットだな! 確か名前は……名前は……』
 アキラが乗っている全身真っ白なロボットには実はまだ名前がなかった。作ることのみが目的で、
作った後のことなど、誰も考えていなかった。
『箱物ロボだ!』
『まんまじゃねーか! もうちょっと考えろ! 僕は丸一日考えたんだぞ!』
『うっせ! 今考えたんだよ! じゃあお前のその真っ黒いロボットの名前言ってみろよ!』
『ブラックロボだ!』
『まんまじゃねーか!』
『うるさい!』
 そう言うとブラックロボはその足は初めて動かし、箱物ロボに一歩近寄る。
 箱物ロボも同じように一歩踏み出し、お互いの距離を詰める。お互いあまり早く動けない。だが、
ゆっくりと、確実に距離を詰めていく。
 箱物ロボも、ブラックロボもお互い丸腰のため、武器はお互いの機体のみ。
 あと一歩でお互いの拳の射程に入るというところで、二人は動きを止める。


81 :No.19 税金合体!箱物ロボ! 4/5 ◇VXDElOORQI:07/09/03 01:14:07 ID:LzGzdCYB
 先に動いたのはブラックロボだった。
『お前を倒して! 僕は、僕は、就職するんだー!』
 ブラックロボはプシューと全身から煙を噴出す。そして拳を繰り出してきた。
『言ってる意味がわかんねーよッ!』
 すぐさまそれに反応した、箱物ロボも同じように拳を繰り出す。
 だが、先に動き出したのはブラックロボ。お互いそう素早くは動けない。つまり先に動き出したほ
うが圧倒的に有利だった。
『勝った!』
 ブラックロボのスピーカーから勝利を確信した声が漏れる。
 そのとき、メキメキと何かが引き千切れるような音が辺りに響いた。
『あ』
 箱物ロボの腕が、出撃前にミサが取り付けた腕が、取れた。見事に。
 腕は拳を繰り出した勢いそのままに、真っ直ぐブラックロボの顔面に叩き込まれた。
『び……ぎゃ』
 叫び声ともノイズとも取れるような声がブラックロボのスピーカーから漏れる。そしてそのまま崩
れ落ちるように膝をつき、そのまま動かなくなった。
『み、見たか! 必殺! 自爆式ロケットパンチの威力を!』
 アキラが後出し必殺技叫びをすると同時に、再びメキメキという音と共に、箱物ロボの足が折れた。
 箱物ロボもブラックロボと同じように倒れ、そして動かなくなった。


ラジオからニュースが流れる。
『半年前に起きたロボット襲撃事件の裁判がついに始まりました。犯人の供述に寄れば、動機はなん
と就職出来ないので自分の力を世に知らしめたかったとのことです。就職できなかった理由は、面接
になると緊張してなにも言えなくなってしまう。というなんとも幼稚なものでした』
 そのニュースをモップ片手に聞いていたアキラがため息をつく。
「アホくさ……」
「そうだねー」
 受付と書かれたカウンターに座っているミサもため息をつく。
「お客さん来ないねー……」

82 :No.19 税金合体!箱物ロボ! 5/5 ◇VXDElOORQI:07/09/03 01:14:25 ID:LzGzdCYB
「こんな博物館に誰が来るんだよ」
 あの戦いのあと、箱物ロボは大破。修理費用は莫大になるということから修理は行われず、ここロ
ボット博物館に壊れた状態そのままに展示されることになった。
 だが、そのロボット博物館もまた――、
「やっぱ箱物行政はダメだねー」
「まったくだな」
 箱物であった。





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