【 君は咲く花 】
◆4lTwCuEYQQ




56 名前:君は咲く花 ◆4lTwCuEYQQ :2006/05/07(日) 07:07:39.30 ID:leWZFD1I0
今、俺は病院にいる。
俺と亜樹の子供が生まれたんだ。
かわいい女の子だった。
名前はまだ付けていない。
せっかくだから、亜樹に恋するまでの過程を綴ってみようかと思う。


俺は亜樹の高校に二年生の一学期後半に転校した。
自己紹介では「初めまして。佐倉 恭です。千葉のS高から来ました。
         趣味は料理。よろしくお願いします。」ぐらいしか言わなかった。
転校生というのは、やはり注目されるのか、三日間ぐらいは質問攻めに会った。
今思い返すと、その中に亜樹はいなかった気がする。
十日ぐらい経ち、皆の熱が冷めてきた頃の放課後。亜樹が話しかけてきた。
「初めまして。私、四条 亜樹。よろしく。」
「ああ。よろしく、四条さん。」
「恭くんってさ好きな食べ物ある?」
「ああ、母さんの作るシチューはうまいな」
「わたしもシチュー好きなんだけど、恭くん作れる?」
「いや、うまくは作れないかな。」
「ふーん。でさでさ〜……」
この後、亜樹にメールアドレス等、色々聞かれた。
「そうそう、近くに調理実習があるんだけどさ、恭が作ったの分けてくれない?
 一緒の班になれたらそれが一番いいんだけど。」
「ん、そうだな、分けるよ。亜樹と一緒の班になれた方が確かにいいんだけど。」
いつの間にか亜樹に引き込まれて二人とも呼び捨てになっていた。
思えばもうこの時からかなり惹かれていたと思う。
だから俺はシチューを練習しようと思ったんだ。

57 名前:君は咲く花 ◆4lTwCuEYQQ :2006/05/07(日) 07:08:01.44 ID:leWZFD1I0
調理実習の班決めでは、亜樹と離れてしまったけど。
俺の実力を見せられるって事でよかったと思う自分がいた。
班で話し合って課題はクレープになった。
その日から調理実習までの十数日クレープを練習した。
調理実習の時、亜樹が見ているのに気付いて、失敗しないように適度にプレッシャーを自分にかけた。
何度も反復練習した工程を今一度なぞる。今までで一番うまく出来た。
俺はそこでずっと見ていた亜樹を呼んだ。
「亜樹、出来たよ。」
「ん。…………おいしい。」
「よかった。」

調理実習も無事に終わり、中間テストも終わった三日後ぐらいに、亜樹は言った。
「ねえ、恭。ゲーセン行こう!」
「ゲーセン?」
「そう、ゲーセン。テストで溜まったフラストレーションを恭を格ゲーでめちゃくちゃにして発散するの!」
「俺が負けるって前提だな、それ。」
「だって恭が私に勝てるわけ無いじゃん。」
結局、亜樹に引き摺られ。格ゲーではボロ負け。
亜樹はすっきりした顔をしていた。

ゲーセンから十日後、亜樹は言った。
「恭。公園行こう!」
「どこの……ああ、新しく出来た東中央自然公園?」
「あったりー。」
公園に着くと亜樹は、はしゃいでいた。
「恭、綺麗だよ〜。」
「ああ、綺麗だな。」
たくさんのキクの前で綺麗に微笑む亜樹はまるで、季節はずれだが、明るく元気な向日葵のような笑顔だった。
その笑顔に俺は…堕ちた。

58 名前:君は咲く花 ◆4lTwCuEYQQ :2006/05/07(日) 07:08:22.97 ID:leWZFD1I0
三学期の前半。今までずっと研究してたシチューが完成した。最高傑作だった。
これを亜樹に食べさせるか等、どうするか迷っていて、自分の部屋で悩んでいたら。
母さんが食べてしまって、今まで生きてきて一番おいしいシチューだったよ。と感想をもらったら。
もう腹は決まった。

五日後、亜樹に七時に来てと伝えた。
急いで家に帰り、シチューを作った。
亜樹が来た。亜樹にシチューをよそった。
亜樹は一口食べると顔中でおいしさを表現してくれた。
食べ終わったら告白しようと思っていたら。
半分ぐらい食べ終わったところで亜樹が涙を流した。
俺は動揺した。何か行動起こそうと思ったら。
……亜樹に先に告白されてしまった。
言おうと思っていた言葉が出てこなく、だけど真剣に好きだという事を伝えた。
嬉しくて涙が出てきそうになった。

「ねぇ、恭。」
「ん?なんだ?」
「あの子にシチュー、教えてあげようね。」
「なぜだ?」
「だって、あのシチューが無かったら、私たちこうしていなかったかもしれないじゃない。」
「それはそうかもしれない。」
「だから、あのシチューを教えてあげて、大切な人に食べさせてあげて欲しいのよ。」

と、亜樹は三年前に見たあの、向日葵のような笑顔でそう言った。
                                              fin



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