27 名前:友情哀歌(お題:花) ◆NoxMiNDgA2 :2006/05/07(日) 00:43:51.75 ID:/dmzZ+CJ0
休み時間、私は今日も大量に貰ったラブレターを抱えて鏡華の元へと向かう。
ラブレターは私宛では無く、全て鏡華宛だ。
「鏡華さんに渡して下さい」とか言って、いつも男子達は私にラブレターを押し付けて去っていく。正直、鬱陶しい。
本気で鏡華の事が好きなら自分で渡せよ。その程度の勇気も無いクズ野郎が恋愛感情なんて持つんじゃねぇ!
そう思うのだけど、気弱な私がそんな事、口が裂けても言える訳が無い。
嫌なのに、結局何も言えずに受け取ってしまう。
「これ、また預かってきたよ」
鏡華の机にラブレターの束を置く。
「ありがとう。でもあたし、恋愛とか興味無いんだよなぁ。断るの面倒臭い」
鏡華はラブレターの束を鞄にしまい、
「あたしは朽葉さえ居てくれれば、それだけで満足なんだ」
私と鏡華は小さい頃からずっと一緒だった。
鏡華は美人で明るくて、勉強でも運動でも何でも人並み以上に出来る、素晴らしい女の子だ。
しかし私は不細工で根暗で、能力的にも何の取り得も無い。
私は鏡華の事が大好きだけど、鏡華と一緒に居ると凄く惨めな気分になる。
一体、鏡華は私のどこが気に入っているのだろう。
もしかして、引き立て役が欲しいだけ?
──いや、違う。鏡華はそんな子じゃない。
「次の授業、家庭科だよ。調理実習、楽しみだねっ」
鏡華が白い歯を見せて笑う。
「う、うん。頑張ろうね……」
私は愛想笑いをした。
調理実習の献立はポテトコロッケだった。
生徒は六人ずつの班に分かれて、みんなそれぞれに作業を始める。
28 名前:友情哀歌(お題:花) ◆NoxMiNDgA2 :2006/05/07(日) 00:44:20.68 ID:/dmzZ+CJ0
出来上がり間近になり、私は食器を用意しに行こうとした。
その時、私は足元に置かれていた椅子の存在に気付かず、つまずいてバランスを崩してしまった。
倒れ行く私の目の前には熱された油が迫っていた。
「危ない!」
走ってきた鏡華に私は突き飛ばされ、派手に転ぶ。
「きゃああああああああああ!」
同時に物凄い悲鳴が聞こえた。
見ると、床には逆さまになった鍋が落ちていて、中身らしき熱そうな油がそこら中に飛び散って湯気を上げていた。
肉の焼けたような臭いがする。
そんな中で、鏡華が顔を押さえて苦しげに転がり回っていた。
「鏡華……」
私は呆然とその光景に見入ってしまい、動く事すら出来なかった。
あの後すぐに鏡華は救急車で病院に運ばれた。現在は入院中だ。
面会謝絶だとかでなかなか会わせて貰えなかったけど、今日やっと医者から許可が下りたので、私は花束を持って病院に来ていた。
鏡華の病室の扉をノックすると、「どうぞ」と声が返ってきた。
扉を開ける。首から上が包帯でぐるぐる巻きになった人がベッドに座ってこちらを見ている。
「朽葉、来てくれたんだ」
弱々しくかすれた声で、包帯の人が言う。
これが鏡華? 私の知っている鏡華は、もっと澄んだ声の持ち主だったはずだ。
「ご、ごめんね……私のせいで、こんな……」
「いいって。朽葉が無事なら、あたしはそれでいいんだよ」
鏡華はぎこちなく笑う。
鏡華の頭に巻かれた包帯の、目、鼻、口の辺りだけ少し隙間があって、皮膚が見える。
赤黒いような変な色になっていて、気持ち悪い、と思ってしまった。
29 名前:友情哀歌(お題:花) ◆NoxMiNDgA2 :2006/05/07(日) 00:44:43.12 ID:/dmzZ+CJ0
包帯に隠れている他の部分も、全部そんなふうになってしまっているのだろうか。
醜い。これなら私の方が、まだマシだよね。
「あ、そうだ。私、お花買ってきたんだ。飾ってもいい?」
花束を見せて私が訊くと、鏡華は嬉しそうに頷いた。
水の入った花瓶に花を丁寧に入れて、ベッドの横にある机の上に置く。
花は、醜い鏡華の隣に置かれた事によって引き立てられ、とても美しく見えた。
「鏡華……私達、ずっと友達でいようね」
これからは、あんたが劣等感を味わう番よ。
私は込み上げてくる感情を抑え切れずに、大声で笑った。
【終】