【 姉のいる夏 】
◆kCS9SYmUOU




71 :時間外No.04 姉のいる夏 1/3 ◇kCS9SYmUOU:07/07/30 09:49:10 ID:4TqnL4zX
 別に大した問題じゃないさ。ああそうさ。だから落ち着け、俺。
 タイシタモンダイジャナイヨー。オォーウ。サムライ、ニッポン、フジヤマ、ゲイシャ。
 ……っといかんいかん。日本語もおかしくなってる。いやおかしくはないか。
 ここで大きく深呼吸。スーハースーハーいい気持ち。焦ることない。冷静に。冷静に……

 なんてことない。ただ俺に生き別れの姉がいただけじゃないか。
 ふぅ落ち着いた。では早速話を聞こうじゃないか。え? 親父殿。

「何で黙ってた!」
 どすんと思い切りちゃぶ台を叩く。振動で上に置いてあった湯のみがぶっ倒れ、中身の
あっついお茶が俺の足にかかる。
「だわっぢい!!」
 あまりの熱さに思わず立ち上がる。しかしその瞬間……
がつん!
「いってぇ!!」
 ちゃぶ台のふちに脛をぶつけてしまう。痛さと熱さ。刺激のダブルパンチ。俺は半分涙目に
なりながら悶絶する。親父はそれを見ながらほくそ笑んでいた。あの野郎、あとで髪の毛を五〜六本抜いてやる……!!
 そのまましばらく沈黙が続いた。そして俺がようやく回復すると、親父が重い口を開いた。
「いや、隠してたわけじゃないんだけどね。お前訊かなかったし」
 当たり前だ。最初から情報がないんだからな。それに俺は「あーあ、生き別れの姉ちゃんとかいねーかなー」
なんて妄想をしたりするような男ではない。いたって硬派なのだ。訊くほうがおかしい。
「それになんだ。別に困らないだろ。ねーちゃんいなくてもさ」
「まぁ……それはそうなんだが。でもいたほうがいいに決まってる」
 俺はすこし俯いてぼそぼそと呟く。なんだか恥ずかしいような気がしたからだ。
「なんだお前。姉萌えなのか? それは知らなかった。とーちゃん初めて知りました」
「違う。断じて違うぞそれは。俺はどちらかというと妹のほうが……って何を言わせる」
「お前の萌え属性なんぞそんなことはどーでもいい。はいはい、話を戻すぞ」

72 :時間外No.04 姉のいる夏 2/3 ◇kCS9SYmUOU:07/07/30 09:49:27 ID:4TqnL4zX
「アンタが振ったんだろうが! ……ったく。で? その姉ちゃんは今どこにいるんだ?」
 俺はとりあえず姉の所在を訊くことにした。まぁ大概俺が物心つく前に離婚したかーちゃんの所だろうが。
しかし待てよ? 俺は何度もかーちゃんの所へ遊びに行ってる。ついこの間も行ったばかりだってのに、姉の
姿など影も形も見ちゃいない。というか存在を感じていない。どーいうことだ?
 そんなことをつらつらと考えていると、親父がさもあらんといった感じで言った。
「離婚したかーちゃんの所だ」
「そうだろうとは思ってたけど、なんで俺が行った時いなかったんだ?」
「そりゃお前、隠れてたんだろ。恥ずかしがり屋だからな。あの子は」
 そんな理由ですかそうですか。しかし恥ずかしいからといって完全に気配を消すとは。恐ろしい子……!
「ふぅん。じゃあさ、その姉ちゃんってどんな感じなんだ? 写真とかねーのかよ」
 少しだけ興味が湧いてきた。まぁ絶世の美女とかじゃないだろうけど、ちょいと気になる。なんせ自分の
姉なのだから。
 すると親父は「ちょっと待て」と俺に手で合図して、懐をまさぐった。そして少しごそごそしてから、一枚の
写真を引っ張り出した。
「おうおう、これだ。ホレ」
 そう言うと親父は、俺に写真を差し出した。俺は期待と共に写真を見る。どんなのだろう。不細工だと嫌だな。
「ぬ? こ……これは!!」
 その写真の中には、一人の可愛らしい少女が映っていた。長いサラサラの黒髪、小さい顔。どこかの高校の制服を
着ていたが、その上からでもわかる抜群のプロポーション。そしてはにかんだような表情がなんとも可愛らしい。
 その写真を食い入るように見ていると、親父が補足説明を入れていく。
「名前は智子。歳はお前の二つ上の十八歳で、高校三年生だ。性格はしとやかでそつがなく、更に文武に秀でており、
いつも成績はトップだそうだ。郷一、お前とは大違いだな」
「うるせぇほっとけ」
 親父の最後の言葉に反論しつつ、写真を食い入るように見つめる。可愛い。こんなのが俺のねーちゃんだなんて……!
感激だ。俺は生まれて初めて親父に感謝しようと思う。ありがとう親父。アンタは最高だよ!

73 :時間外No.04 姉のいる夏 3/3 ◇kCS9SYmUOU:07/07/30 09:49:45 ID:4TqnL4zX

「で、だ。」
 そんなことを考えていると、親父が神妙な面持ちで俺に向かい合う。なんだ? こんな時に。
「お前にもう一つ、いいことを教えておいてやる」
 なんだろうか。……まさか! 姉ちゃんがここに来るとかか!? コレは期待できますぞ!!
「実はな、智子にお前のこと話したら、えらく気に入ったとかで、夏休みの間こっちへ来るそうだ」
「マジですか!」
「マジですよ。よかったな郷一。それともう一つ」
 え? まだあるの?
「お前な、実は智子と血が繋がってないんだよ。もちろん俺とも、かーちゃんとも」
 ……え?
「所謂養子ってやつだな。だから、やっちゃっても大丈夫だぞ! よかったな!」
 親父はグッ! と親指を立てた。物凄くいい顔で。
「え……ええええええええええええええええええええええええ!!??」

 波乱の夏がやってくる。しかし一度に二つもメガトン級の事実を知った俺に、もはや怖いものなどなかった。
 幸せの光が、見えた気がする。

END



BACK−月にスカート、乙女に恋◆O8W1moEW.I  |  INDEXへ  |  NEXT−木造二階建下宿の姉◆59gFFi0qMc