【 親友 】
◆faMW5pWHzU




2 :No.01 親友 1/4 ◇faMW5pWHzU:07/07/21 10:10:10 ID:b7cZijFg
「ねえ、私とサナってさあ、親友だよねっ?」
「……うん、みっちゃん」
 そう。私達は親友だ。
 どんなことでも相談できるし、どんな状況でもお互いに無条件で味方になれる唯一の人間だ。
 そしてお互いの心の内も、その全てをわかりあえていると、彼女は思っているのだろう。
 だが、違う。彼女は知らない。
 私の胸に渦巻く、この、どす黒い感情の存在を――――。
 その無邪気な微笑みを、滅茶苦茶にしてやりたい。
 その華奢な身体を、蹂躙してやりたい。
 彼女の全てを、汚し尽くしてしまいたい。
 もしも私が裏切った時、彼女はどんな顔をするのだろうか? それを想像するだけで、私は絶頂に達してしま
いそうになる。
「どしたの、サナ?」
「えっ?」
「なんだかぼーっとしてるみたいだったけど。大丈夫?」
「ああ、うん……大丈夫……だよ」
 彼女はまた、微笑んだ。私のよく知る、天使の笑み。
 その笑顔が、私だけに向けられるものならば、どんなにいいだろうか。
 だが、それは叶わぬ願い。彼女が人間で、私と彼女以外の人間がこの世に存在する以上は。
「おーい、みっちー! いるかー!?」
 無粋な声が、私達の神聖な空気を穢す。
 見ると、同級生の野卑な男がこちらへ向かってくるところだった。
 こいつは初めて会った時から、彼女を馴れ馴れしい名で呼びつける。厚かましいにも程があると思う。
「なによ山倉! でっかい声で呼ばないでよ、恥ずかしいから!」
「おお、いたかみっちー。あ、サナっちもいるじゃんか、ちょうどいい」
「ちょっとあんた、合コンの人数合わせとかならよそでやってよね。サナに手ぇ出したら私が許さないわよ?」
「馬っ鹿なに言ってんだ、委員会の連絡事項だよ。二度手間になんなくてちょうどいい、って言っただけだ」
「どーだかね。あんた常にしまりのない顔してるから、エロい事しか頭にないように見えるんだよねー。ねぇ
サナ?」
「え? う、うん」

3 :No.01 親友 2/4 ◇faMW5pWHzU:07/07/21 10:10:42 ID:b7cZijFg
「し、しまりのない顔って、おまえ! 言っていいことと悪いことがあんぞこらぁ! そしてサナっちも! そっこー同意してんじゃねぇー!」
 彼女が、また笑った。
 それは、誰に向けた笑み? 私へ、それとも目の前にいる、この男への?
 この男は、邪魔者だ。いつも私達の間に割り込んでくる。
 私達の仲が引き裂けるはずもないが、目障りであることに変わりはない。
 それに何かの間違いで、こいつが突然彼女を襲わないとも限らない。
 ああ、彼女を私だけのものにできたら、こんな心配はしなくて済むのに。
 むりやり襲ってしまおうか――――そう考えたこともある。
 だが、この世界には誰が作ったのか知らないけれど、厄介な決まり事がある。それを乗り越えてまで彼女を私
 のものにする方法は、残念ながら現時点では思い浮かばなかった。
 けれど、それでもいい。私達は親友で、この世で一番近い関係。
 彼女が私だけのものにならずとも、私が彼女の一番である限り、それでいい。そう思っていた。
 
――――――――それを聞いた時、世界の砕ける音を、確かに聞いた。
 彼女が、付き合っている、らしい。あの、男と。
 私に報告、してきた。とても、嬉しそうに。
 一番だって。私は親友だから、誰よりも一番に、私に伝えたかったんだって。
 そう言って、私に向かって、私の知らない笑顔で。
 ……そんな一番、いらない。私が、本当に欲しい一番は――――――――。
 
「おお、久しぶり。こんなとこでどしたん?」
「え、あいつから聞いたの? いや〜参ったねこりゃ」
「そうなんだよねぇ。あいつから告白してきたんだけどさ、いやまさか両想いだったとはね」
「あいつさ、付き合ってみると、今まで気づかなかったような一面が見えたりしてさ。それがまたかわいいんだ
よねぇ。なはは、のろけ話になっちまうな、どうも」
「ま、お前も早いとこ良い彼氏見つけなよ。じゃ俺、ちょっと用があるからこれで――――」

4 :No.01 親友 3/4 ◇faMW5pWHzU:07/07/21 10:11:11 ID:b7cZijFg
 
 うふふ、ふふ。
 これで、邪魔者はいなくなった。あまりの歓喜に、思わず口の端が吊りあがる。
 私の手は、肘まで真っ赤に染まっていた。
 汚らわしい。早くきれいにしないと。
 それから、彼女に早く、伝えないと。彼女には、一番に伝えないといけない。
 親友だから。私達は一番近いんだから。なんでも一番に、伝えなくっちゃ。
――――私達の仲を邪魔する奴が、いなくなったことを。
「みっちゃん……?」
 声がした。私が誰よりもよく知っている声。
 振り向くと、なぜか顔を真っ青にして震えているサナがいた。
「あーサナぁ! 今、サナに会いに行こうと思ってたんだよぉ!」
 サナに笑いかける。けれど、彼女の目はこちらを見ていないようだった。
「……山倉……くん……?」
 少しむかっとした。親友の私が目の前にいるっていうのに、それを無視してこんな奴を優先するなんて。
 だけど、許してあげる。サナは親友だもん。それくらいのことじゃ、私達の友情は壊れないよ。
 再度サナへ、飛びっきりの笑顔で話しかける。
「ねえサナ、喜んでくれる? とってもいい知らせがあるの!」
「……みっちゃん……山倉くん……、…………どうしたの…………?」
 また無視された。だけど、今度は視線が私の方を向いている。正確には私の真っ赤な手に、だけど。こちらを
見てくれてちょっと嬉しい。お返しに、なんだか元気のないサナも嬉しくさせてあげよう。
「聞いて聞いて! あのねー、私、邪魔者をやっつけたの!」
 ひっ、と息を呑む音が聞こえた。
 あれ? もっと喜んでくれると思ったんだけど。
 むしろ、サナの震えがさっきよりひどくなっている気がする。
 まるで何かに怯えてるみたい。可哀相なサナ。大丈夫、私が守ってあげるよ。
「大丈夫だよ。サナ、私がいるから。私達は親友だよ。私だけは、いつだってサナの味方だよ……」
 言いながら、サナに近寄る。サナが安心できるように、優しく笑いながら。
「こ、来ないで…………!」
 サナが、何か言った。

5 :No.01 親友 4/4 ◇faMW5pWHzU:07/07/21 10:11:45 ID:b7cZijFg
 『コナイデ』って聞こえたけれど、どういう意味だろう? 『来ないで』のはずがあるわけはないし。
 サナは、相変わらず震えていた。何がそんなに怖いのだろう? 何にそんなに怯えてるのだろう?
 ……ああ、そうか。きっと、この世界が怖いんだ。私と一緒になれない、この世界が。
 私といつまでも一緒にいられないことに怯えてるんだよね? もっと早く気づいてあげればよかった。
 だって私は、この世界から逃げ出す方法を知っているのだから。
「ねえ、サナ?」
 サナは返事をしなかった。ただ、子犬のように震えて立ち尽くすばかり。
 返事する暇も惜しいほど、待ち遠しいのかな。ふふ、サナは子供なんだからなぁ。
「安心して? すぐに済むからね」
 そう言って、私は赤に染まったナイフを取り出した。
 その瞬間。
「いやああぁぁああああああぁああぁあぁぁああああああああ!!」
 サナは天をつんざく様な叫びをあげたかと思うと。
 私の持っていたナイフを取り上げて。
「…………あれ?」
 私の首筋に突き刺した。
 鮮血が迸り、呼吸が苦しくなる。
「……あーなんだ、私が先? サナは臆病だねぇ……だいじょぶ、私が先に行って、待ってるから……」
 と、手を伸ばす。けれど、私の求めた感触はそこにはなくて。
「…………ねえ、サ、ナ……あと、から……ぜっ、たい、来て、よ……? やく、そく、し、てよ…………」
 意識が遠のいていく。
 その途中、サナの声が聞こえた。
「…………山、倉、くん、をっ、よくもっ…………! 死ねっ、死ねっ、死ねっ、死ねっ、死ねっ…………!」
 ……声と一緒に、ぐさっ、ぐさっ、と何かを刺すような音が。
 …………こんなのは幻聴に決まってるけれど、もしもサナが後から来てくれなかったらどうしよう?
 いや、そんなことはありえない。私達は親友だ。いつでも一緒。来てくれるに決まってる。
 ありえないことはありえないんだから、考えても無駄だ。
 ああ、サナ、早く向こうで会えるといいね―――――――――――――――――
 
 …………………………最後ノ/光景ハ/彼女ノ/トテモ/キレイナ/紅イ/紅イ/舞イ散ル/花ビラ。



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