【 とっておきのおまじない 】
◆.J1VnvKG1A




14 :No.13 とっておきのおまじない ◇.J1VnvKG1A:07/06/16 06:50:33 ID:OAnyhwac
 さて、どうしたものかと思案に暮れる。時刻は四時過ぎで早くしないと陽が暮れてしまう。とは言うもののこのまま立ち去る訳にも
いかないだろう。そんな事をすればこの少女の両親が心配して探しにきてしまうかもしれないんだから。
 ここは街中にある小さな公園、そこでこの子は泣き続けていた。私がさっき通りかかった時から泣いていたから、多分もう一時間以上
も。そしてその少女に声を掛けようなんて私らしくないことを考えて、足はもう完全に少女の方へと向かっている。何でだろう、昔の私
を見ているようで放っておけないとか? 
 「どうしたの?」
そう声を掛けると少女はびっくりしたように私を見上げて、
「だれ?」
それはそうだろう、見知らぬ人にいきなり声をかけられたんだから当然の反応と言えるだろう。
「私? 私はそう、魔法使い、かな」
魔法使い、か。自分で言って吹き出しそうになってしまった。何だって、こんな季節に長袖のシャツを着ていて、しかも全身暗い色なん
だもの。そこいらの作り物よりもらしいかもしれない。私の答えに訝しむように眉を顰める少女は。良かった、泣き止んではくれたみたいだ。
「当ててあげよっか? そうだな、友達と喧嘩したとか?」
見たところ怪我はないし、出任せでそんな事を言ってみる。すると彼女は驚いたように目を見開いて固まってしまった。どうやら図星らしい。
 そこから少しずつこの女の子の話を聞いてみるところによると、要約すると彼女は友達と喧嘩して泣いていたらしい。詳しく言うと明日転校
すると言う友達と遊んでいて、ふと別れたくないと思った彼女はその友達が大事にしていた人形を隠してしまったと言う事。その友達は怒って
帰ってしまったらしい。なんとも、ありがちと言えばありがちな話だろう。そうしてもう会えなくて良いのかと聞くと向きになって会えなくて
言いなんて答えるんだからますます昔の自分を見ているようだ。
 「じゃぁ、もう遊べなくて良いんだ?」
もう会えなくても良いんだ、と我ながら意地悪な質問をする。すると案の定、彼女はいやだ、あえないなんていやだと泣き出してしまった。
「なら、とっておきのおまじないを教えてあげる」
昔教えてもらったおまじないを彼女に教えて、その友達に言えるかと聞くと、うん! と飛び切りの笑顔で元気に走り去ってしまった。そんな
所も昔の私とそっくりだ。
 私も昔、似たような事があって泣いていた。するとどこからか女の人が来て私にこんなおまじないを教えてくれたんだ。
「ごめんなさいって、素直に謝れば良いよ。大丈夫、きっと仲直り出来るから」
素直に謝れば、後は素直に話せるんだから。昔の私に似た少女に手を振って思うのはあの時のお姉さんで、彼女は今も元気に暮らしているだろ
うか。私にとっておきのおまじないを教えてくれた、あの魔法使いのお姉さんは。

                             -fin-



BACK−間違えた呪文◆SoZw6RpjQs  |  INDEXへ  |  NEXT−Fall in One◆NA574TSAGA