【 純愛低俗LSD 】
◆QIrxf/4SJM




43 :No.12 純愛低俗LSD 1/5 ◇QIrxf/4SJM:07/06/03 17:36:44 ID:crgj2D09
 朝が来たんだあッ!
 わたしはお布団をガバッと跳ね除けて、ビシッ! とグリコのポーズで飛び降りた。
 とけいはぐるぐる逆周りをして、靴はカタカタわたしをせかす。
 とにかく急がなくちゃ、めがねを拭く暇もないわ。
 洗面器は空を飛んで、顔拭きタオルが私の顔を真っ赤に塗った。
 鏡に映る自分の顔がまっかっかっかっか! 今までここにいたはずのわたしはどこいった? あなたはだあれ?
 黒焦げトーストに青かびクリームをぬったくって一気に食べる。パパのたばこにミルクをぶっかけた。
 真っ白の名札を帽子につけて、裏返しに被ってレッツゴー!
 とにかく急がなくちゃ、くつひもを解く時間もないわ。
 真っ赤なわたしがランドセルを担いで走り出す。教科書が羽ばたいて案内してくれる。
 こんこん、こんにちは。となりのキツネくんが朝の挨拶してきた。
「おっはよーう!」わたしはダッシュでキツネくんのしっぽを踏んづける。
 こんこん、こんちくしょーッ! といってキツネくんがずっこけた。
 うししし、馬鹿ね。とギュウちゃんが笑い転げた。
 嘘っぱちストリートが、Tシャツ路に突き当たって核兵器がズドン!
 ほら、わたしの学校が見えてきたよ。
 キンコンカンコンコンキンキン。ゆがんだ下駄箱に帽子と靴を投げ込んだ。
 早くしなきゃ、上履きが先に行っちゃうよ!
 こんにゃく畑の廊下を走って、プリッツを一本食べる。メロン味のポッキーが、わたしの穴に入ったよ。
 みつばちの扉を開いて、ナゾナゾだらけの教室に転がり込んだ。
 ハテナだらけの教室で、ビックリだらけのテストが始まった。
 となりのプリンちゃんは腹筋をしながらこう言った。「おにくがやわらかいのよ」
 そしたらビックリ、みんながプリンちゃんのために腹筋を始めたんだあッ!
 だからわたしは腕立て伏せをしたよ。
 三時間目はEngrishの授業。どでかい鉤鼻の先生が教鞭でバシバシとキツネくんを叩いてる。
 先生が誰もいない席を指差して言った。「明日くん、三ページ目を解いてきなさい」
 天井からなめくじが降ってきて、わたしのノートに文字を書いた。
「オール・ユア・ベース・アー・ビロング・トゥ・アス」―――どういう意味?
 ついにやってきました七時間目! プールの授業はずっと楽しみにしてたんだ。こんなに熱い秋の夜長じゃ、サボテンがぐったりしちゃうもんね。
 スケスケスクール水着でばしゃばしゃ泳ぐ。わたしもスケスケ、それでヌレヌレ。だからバンソーコーを貼っといたよ。

44 :No.12 純愛低俗LSD 2/5 ◇QIrxf/4SJM:07/06/03 17:37:13 ID:crgj2D09
 六時間目は待ちに待った修学旅行。わたしはねずみ色のリュックを背負ってチュウチュウ言った。そしたらネコくんがわたしの頭をがぶりと噛んだ。
 にゃんにゃんうんにゃん、まっずいなあ。とネコくんはわたしを吐き出した。
 するとよだれが綺麗に飛び散って、いっぱい虹ができたんだ。
「きれいだね!」
 わたしが言うと先生が言った。「虹の橋を渡りましょう」
 てくてく歩いた虹の上、キツネくんは寝転んで、プリンちゃんは腹筋してる。
 そのときわたしの頬が、ぽって熱くなった。
 前からきみが来たんだあッ!
「おいしいおいしい目玉焼き。卵焼きにハムエッグはいかが?」きみはわたしを見つめてる。
 わたしは顔を真っ赤にして、「フレンチトーストくださいな」って言ったんだ。
 そしたら、きみはわたしに顔を近づけて、くちゅくちゅってしたよ。
「あ、ごめんね、フレンチキスだった」きみは申し訳なさそうに頭をかいてキツネくんをぶった。
 わたしはキツネくんのしっぽで顔を拭いた。なのに顔は真っ赤なまんまだ。
 こんこん、こんのやろぉーッ! って言ってたけど、二人で無視したよ。
 きみがどっかへ行ってしまうと、わたしは虹から飛び降りた。だって体が火照ってしょうがないんだもん。
 着地するとそこは音楽室だったよ。ガイコツ人間がエリーゼのためにを弾いている。
 わたしはリコーダーを吹いてセッションした。人体模型は素敵なダンスを踊って、塩酸がこぼれちゃった。
 しゅわしゅわ塩酸、どろどろ硫酸。混ざってエンピツくんが現れた。
 エンピツくんはボールペンをくわえて言った。「カレンダーはどこ?」
 わたしは地獄を指差して、エンピツくんに教えてあげたよ。「奈落の底って可憐だあッ!」
 あ、忘れてた! そろそろ給食の時間じゃない。
 わたしはキツネくんから取ったしっぽに乗って、すべって教室に戻ったんだ。
 給食当番のマリー・アントワネットちゃんが言った。「ケーキは無いわよ」
 けっこうけっこう、こけっこっこう。とニワトリちゃんがパンを食べた。
 わたしはフルーツもりだくさんのカレーと、チョコが隠し味のしょうゆをもらった。
「みなさん、割り箸は折りましたか?」先生が言った。
「はぁ〜い」と皆が返事して、朝の会がはじまった。窓ガラスがカァカァ鳴いて、夕日の上を飛んでいったよ。

45 :No.12 純愛低俗LSD 3/5 ◇QIrxf/4SJM:07/06/03 17:37:38 ID:crgj2D09
 やっと学校が終わって、わたしは帰り始めたんだ。
 わたしの後ろの方で、素敵ダンディ坊やが言った。「こうもんをしめとかなくちゃな」
 閉まっている校門をよじ登って、ビスコのスマイルですってんころりん。
「あのさ、」プリンちゃんが覗き込んで言った。「明日くんってかっこいいよね」
「そんな子、いないじゃない」とわたしは言った。
「明日くんが見えないなんて、アスファルトがけたけた笑っているわ」とプリンちゃん。
「おにくがかたいのね!」わたしは走り出した。
 嘘っぱちストリートを左に曲がって、ホント喫茶で焼酎カルヴァドスを飲んだ。
 明日くんなんか、クラスにいないわ。なんておかしなプリンちゃんなの。
 おとなウィスキーをぐいぐい飲んで、ふらふらしていたら、となりのウサギくんが真実コーヒーをこぼしちゃった。
 そしたらとなりのとなりのキツツキくんがわたしに言った。
「お前は本当にゲロを吐きそうになるほど気持ち悪い顔をしているなあ。大ッ嫌いだ!」
 わたしはとても嬉しくなって、キツネくんのしっぽをプレゼントした。
「でもね、わたしはきみが好きなの」といってフっちゃった。
「とってもうれしいよ」とキツツキくんは絶望してた。ごめんね。
 キツツキくんを見送っていたら、なんだかわたしも告白したくなったんだ。
 とにかく急がなくちゃ、頭の中から言葉が飛んで行っちゃうわ。
 嘘っぱちストリートを歩いて、ジュースを流した。きみは一体どこにいるんだろう。
 そしたらYシャツ路の信号の上にきみは立っていたよ。
「おやおや、真っ赤な顔をしてどうしたの?」きみはパピコをかじって飛び降りた。
「わたし、きみに言うことがあるの」心臓が飛び出して、爆発したけど頑張って言ったんだ。「わたし、きみのことが好きなんだあッ!」
 そしたらきみは、衝撃を受けたみたい。おろおろよろよろ後ずさって、後ろからきたトラックにキツネくんがひかれちゃったんだ。
 こんこん、こんなことってーッ! って言葉はとても切なかった。
「まいったな」きみは頭をかいてわたしを見ている。「明日くんに言葉を貸しちゃった」
 わたしはびっくりして飛び上がった。「明日くんなんて見たことないよ」
「大丈夫、きっとみつかるさ。ぼくの言葉は明日くんが持ってるんだ」
「仕方がないなあ。明日くんをさがしてくるよ」といってわたしは走りだした。

46 :No.12 純愛低俗LSD 4/5 ◇QIrxf/4SJM:07/06/03 17:38:08 ID:crgj2D09
 とにかく急がなくちゃ、長靴にはきかえる余裕もないわ。
 走れ! 走れ! 嘘っぱちストリートを駆け抜けろ!
 ホント喫茶の隣にホンネ書店、ホンマ整骨院を通り過ぎて、校門にぶつかった。
 校長先生がはげ頭をぼりぼりかいている。
 わたしはめげないんだ。明日くんをみつけるんだ。
 ラブ・イズ・マネー。愛はお金で買えるの? そんなの嘘っぱちよ!
 プリンちゃんが腹筋してる。ネコくんががぶりと噛んでる。キツツキくんが嘘をついてる。
 みんなはいるのに明日くんはどこ?
「本当のことを言うよ。明日くんなんて存在しないんだ」とキツツキくんが言う。
 とにかく走らなきゃ、キツツキくんなんて知らないわ!
 ビター・スウィート。愛はどこ?
 早く明日くんを見つけなきゃ、愛は待ってくれないの。言葉はきまぐれだから、お空を飛んでどっかへ行っちゃう!
 明日くんは一体ダレなの? わたし? あなた? それともきみ?
「明日くんはやわらかくもかたくもないわ」とプリンちゃんが言った。「でも、かくれんぼが得意なのよ」
「明日くんはケーキをたくさんもってるわよ」マリー・アントワネットちゃんはよだれをすすった。「ザルツブルガーノッケルンとか、ユメのかたまりよ」
「明日くんはとっても明るい子なんだ。でも、ぼくには真っ暗に見える」とエンピツくんが言った。「明日くんのこと、好きになれそうかい?」
「そんなことを言われたって、どこにもいないんだ」わたしはすごくつらくなった。
 走らなくちゃいけないのに、サンダルが逆走している。靴下の中のプレゼントが、どろどろになった。
 テレビに映ったカサノヴァ・スネークが、ドキドキするようなイカれた人生を歌っていた。
 屋根の上のカカシくんがカプカプと笑っている。水槽の中を疑問符が泳いでる。窓ガラスが「アホウ」と鳴いた。
 地面が裏返しのガムテープになって、わたしの足は飛べなくなった。
「そんなに落ち込むなよ」ウサギくんが言った。「例えば、ぼくはどこにいるかな?」
「ここにいるじゃない!」わたしは叫んだ。
「そのとおり!」みんなが言った。
 頭の中にもやもやが現れて、お尻に火がついた。足の裏はすべすべになった。懐中電灯はとっても頑張っているけど、てんとう虫に負けそうだ。
 嘘っぱちストリートを右に曲がって、右に曲がって、右に曲がって、右に曲がった。
 ブラック・ラブ・ホールに宇宙が吸い込まれて、マックスコーヒーが超苦い。

47 :No.12 純愛低俗LSD 5/5 ◇QIrxf/4SJM:07/06/03 17:38:35 ID:crgj2D09
 真っ青の太陽が、真っ赤な山の奥に埋まっていく。
 探さなきゃ、マイラブは明日くんがきっと持っているんだ。
 嘘っぱちストリートの上をカレンダーが走ってて、エンピツくんがひぃひぃ追いかけてた。
 真っ黒なドラゴンがあらわれて、食べかけのビスケットを残していった。食べこぼしがきらきら光ってる。
「もうちょっとなのに、見つからないんだ」
 涙がぽろぽろこぼれおちた。
 風がさらさらと吹いて、わたしをなぐさめてくれたけど、明日くんがいなくちゃ、きみには会えないよ。こわいもの。
 わたしの涙が凍りついて、とてもきれいな橋ができた。
 とてもつらいけれど、氷の橋を渡ったんだ。
 そしたら向こうから、きみがやってきた。
 きみはハンカチーフでわたしの目元を拭ってくれた。
「よかった、見つけたんだね」
 わたしはびっくりしちゃって、あたりを見回したんだ。だけど、明日くんなんていなかった。
「ううん。明日くんはみつからなかったよ」
「なに言ってるの? いるじゃないか」きみは微笑んだ。「そっか、近すぎて見えなかったんだね」
 きみはポケットの中から鏡を取り出した。
 わたしは鏡を覗き込んだ。
 今気付いたけど、こんな泣き疲れた顔をきみに見せてたなんて、恥ずかしいな。
「ほら、ここにいるよ」きみは鏡の中を指差した。
 わたしはきみの指先にある、黒くてとてもきれいな宝石を見た。
 あ!
「わたしの中に明日くんはいたんだあッ!」嬉しくなって、きみに抱きついた。
「―――ぼくも、好きだよ」きみは言った。

 わたしたちは、手を繋いで嘘っぱちストリートを歩いた。とっても気持ちがいい。
「なにをうたっているの?」きみが言った。
「しっぽのかえうたよ」わたしはそう言って、キツネくんのお墓に線香をあげた。

 いつも存在はきみの中。
 いつも真実はあすの中。ちゃんちゃん。



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