【 魔女のいる国 】
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15 名前: 竹やり珍走団(東京都) 投稿日:2007/04/14(土) 00:29:59.49 ID:VX2n8nM40
 あるところに、――という国がありました。
 とても平和で良い国なのですが、少々危ない目にあうことがあります。
 なぜなら、この国には、人間を襲う化け物がいるからです。
 ですが、国民たちはそれを些細なことだと思っています。
 なぜなら、この国には、魔女様という化け物を追い払ってくれる人間がいるからです。

 国の外れに化け物の巣があることは、国民なら誰もが知っていることです。
 勇気ある者が巣穴に踏み込んだ際、バラバラにされた人間の死体を見つけたことで、それはもう国では騒がれました。
 しかし、国民たちはしょっちゅうこの近辺にやってきます。
 化け物の巣の近くに、噂の魔女様の家があるからです。

 今日も、国民の何人かが食べ物や金品を持って、魔女様の家の扉をたたいていました。
 しばらくすると、扉を開けて、黒い高帽子に黒い衣服を着た女性がでてきました。絵に描いたような魔女です。
 魔女様の姿を見るなり、国民たちは、
「おお、魔女様だ!」
「お変わりなく、なんとお美しいこと!」
「きゃー、魔女さまー!」
 ……盛大なお迎えです。
 国民たちの代表が、かご一杯の食べ物と布で包まれた金品を手渡すと、魔女様はにっこりと笑いかけてくれます。
「アリガトウ」
 片言な口調で、魔女様は答えました。それだけで、国民たちはまた騒ぎ出します。

16 名前: 竹やり珍走団(東京都) 投稿日:2007/04/14(土) 00:31:01.03 ID:VX2n8nM40
「キャー!」
 突然の悲鳴に、国民たちは首を右へ左へやると、誰かが言いました。
「ば、化け物だー!」
 なんとタイミングが悪いのでしょう。
 巣穴のある方角から、何匹かの化け物がこちらに向かってくるではありませんか。
 鬼のような形相で向かってくる化け物の姿に、国民たちは慌てて逃げ出します。
 すかさず、魔女様が間に割ってはいりました。
 黒い粉がはいった小瓶を、化け物たちがいる方に向けて投げつけます。小瓶は音をたてて壊れ、粉が一面に広がりました。
 続けて、魔女様は懐から取りだしたマッチに火をつけ、ポイと投げます。
 すると、粉がまかれた場所は不思議なことに、次々と爆発していくのです。
 すごい音がするものですから、慌てふためく国民たちも思わず耳を押さえてしまいます。
 爆発の凄まじさに、化け物たちはこれはたまらんと巣穴へ逃げ帰っていきました。
 爆発が止む頃には、拍手と歓声が代わって鳴りだしました。
 国民の代表が軽い足取りで魔女様に近づき、手をとって、ありがとうございますを連呼しています。
「また明日も、手土産を持って参ります!」
 国民たちが皆、魔女様とかたい握手をかわすと、来た道を戻っていきました。
「アリガトウ」
 魔女様は、おそらく誰にも届いていないぐらいの声で言いました。

「いやー、それにしても、いつ見ても素晴らしい魔法だ」
「本当ですね、一瞬であんな大爆発を起こすなんて。見ましたか? 化け物たちが慌てて逃げる様を!」
「はっは! あれは笑えるな!」
「それに、魔女様はとてもお美しいですわ。お帽子に隠れた金色のお髪に白いお肌、青いお目に高いお鼻……」
「やっぱり、外国から来たお客様だって噂は本当なのかもしれませんね」
「でも、魔女様っていつからこの国にいらっしゃるんだ?」

「さあ?」「知らないわ」「まあいいじゃないか」「そうですね」



17 名前: 竹やり珍走団(東京都) 投稿日:2007/04/14(土) 00:31:55.51 ID:VX2n8nM40
 化け物の巣穴の奥深く。なにやら鉄をたたく音が聞こえます。
 そこで、化け物たちは人形を作っていました。
 金色の髪に白い肌、青い瞳に目鼻の整った顔立ち。人間が見れば、うっとりするような美人の人形です。
 赤い化け物が言います。
「おうい、そっちのパーツはできたかね」
 青い化け物が答えます。
「ちょっち待っとくれ……ちょちょいのー……っし、完成だ」
 そういって、青い化け物がパーツを投げ渡しました。
 赤い化け物が受け取ったパーツを人形に取りつけると、人形はかたかたと音を鳴らしだし、なんと動き始めたではありませんか。
 しばらくすると、人形は口を開きました。
「ワタシハ、ダレ、ダレ?」
「おまえは魔女だ。わしらを退治する、魔女様だ」
 赤い化け物はやんわりと答えると、黒い衣服を人形に着せてあげました。最後に黒い高帽子をかぶらせて完成です。
「アリガトウ」
 魔女様は、片言な口調でお礼を言いました。

 そうした頃、巣穴に戻ってくる黄色い化け物がおりました。何か担いでいます。
「おうおう、ちゃんと出来ているようだね」
「おうおう、ちゃんと持ってきたようだね」
 化け物たちは言葉を交わしあうと、黄色い化け物は担いでいたものを投げ捨てました。
 すぐさま、青い化け物が新品の魔女様を担いで、巣穴を出ていきます。
「それにしても、火薬の威力がちょいと強くないかね。あれじゃ、本当に死人がでちまうよ」
 体のあちらこちらに火傷を負った黄色い化け物が、ぐったりとした様子で言いました。
「あれぐらい派手にしてやらんと、人間を騙すのは難しいって言ったのはおまえさんだろう」
「ぬー、そうだったか?」
 とぼける仲間に、赤い化け物は呆れ顔です。
 捨て置かれたものをちらりと見て、顎を掻きながら、むう、と一声。
「やはり、長く持っても半年が限界かね」
「まだまだ改良の余地はあるさあ」
 だといいがね、と答えた赤い化け物は、捨てられた魔女様をバラバラにしました。

18 名前: 竹やり珍走団(東京都) 投稿日:2007/04/14(土) 00:32:42.85 ID:VX2n8nM40
 人間たちは、食べ物などを作ることができますが、何かと争えるほど強くはありません。
 彼らは、生きるために魔女様という用心棒に頼り、化け物たちを追い払ってもらう代わりに食べ物や金品を献上します。
 魔女様の名声は国を超え、国外でも知れ渡るほどのものですから、隣国が攻めてくるということもないのです。

 化け物たちは、機械を作ることができますが、食べ物の作り方を知りません。
 彼らは、生きるためにこうして人間そっくりな魔女様を作り、人間をだまして食べ物を手に入れます。
 土地を広げることも耕すこともせず、作り方を学ぶ必要もないので、とても楽なのです。

 それは、少し形の歪んだ共生なのですが、誰もそうとは理解していないのでした。

 この国が平和である間は、魔女様がいなくなることはありません。
 そして、化け物もまた、いなくなることはないのです。

 遠い昔から続き、まだ形を変えて続いているかもしれない、――という国のお話。


 おわり



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