【 映画監督 】
◆8vvmZ1F6dQ




192 名前:映画監督 ◆8vvmZ1F6dQ :2006/04/23(日) 21:38:03.03 ID:uYcKVTBQ0
僕は映画が大好きだ。あの大スクリーンで、大勢の人と喜びや悲しみを分かち合えるのが大好きだった。
だがそれ以上に好きなものがあった。
映画を作ることだ。学生時代から、最初のうちはホームビデオ、しばらくしてから8mm映画を撮り始めた。
最初に作った、いわゆる処女作はどんなものだったか明確に思い出せる。僕が主演の、UFOSF映画だ。
今思えば随分と拙い演出やカットだったと思うが、全十四分のそれを完成させた時の喜びの記憶は今でも色褪せない。
それを原点とし、僕以外の俳優も集め、いろんなストーリーや人物や世界を8mmのフィルムに収めた。
友人に見せるだけでなく、映像の大会やコンクールなどそういった機会があればすかさず応募した。将来は映画監督になろうと思っていた。

夜の闇の中を、酔いの頭痛に耐えながら僕はふらふらと歩いていた。
営業付き合いというのも辛いな、と溜め息をつき、時計を確認した。午後十一時。
右手には家族への土産、左手には書類ケースを持ち家に向かう僕は、ごく一般のサラリーマンだった。
「ただいま」
もう寝ているであろう妻子に気を使いながら、ドアをそっとあける。予想通り玄関から続く廊下は暗い。
リビングへ行き、僕のための食事があることを確認してから土産をテーブルに置くと、僕は二階の自分の部屋へ向かった。
部屋のクローゼットをひらく。奥には、黒くて四角い鞄があるはずだ。僕はいそいそとそれを取り出す。
鞄のチャックをひらいて中身をとりだすと、それは銀と黒のコントラストが美しいビデオカメラだ。

193 名前:映画監督 ◆8vvmZ1F6dQ :2006/04/23(日) 21:38:21.96 ID:uYcKVTBQ0
レンズ越しに僕の目に届く、可愛い我が子の寝顔。彼は今回の映画の主演男優だ。
出来るだけ抑えてはいるものの、かなり明るい光が彼にとどいているはずだが、彼は暢気に寝息を立てている。
そんな彼だが、実は地球を守りにきたスーパーキッズなのだ。地球を侵略するUFOや未確認怪獣をやっつけてくれる。
今の寝顔は、怪獣が攻めてくるまでの、ヒーローの安息の時。映画には緩急がなくてはならないのである。
この映画の監督は主演男優の父でありカメラマンも兼ねるこの僕。夢の親子競演といったところか。
……と、なんだかそろそろ彼が起きてしまいそうだ。ライトをきり、僕は暗闇の中をさぐりさぐり部屋をでる。

その後僕は冷えた飯を食べながら、この映画の今後の展開を考えた。
最終的に、ヒーローはヒロインと結ばれたほうが後味がいい。じゃあ、ヒロインは誰にするか?思いつかない。
……ん?何故こんなことを考えているんだろう。ああ、そうだ。
僕は映画監督だからだ。

おわり



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