【 彼女 】
◆4BDlDTMTLY




49 名前: ◆4BDlDTMTLY :2006/04/23(日) 08:42:37.23 ID:YXa8NJFY0
──ごめんね。

そんな言葉で僕は彼女に振られてしまった。
これからの彼女の人生に、僕は必要なかったらしい。
それどころか、邪魔でさえあるようだった。

もう決して若いとは言えない2人にとって、この別れはよい方向に作用するのか。
その答えはこれから先、別々に歩む道の中で見つかるだろう。

僕は彼女を送り出すような気持ちで、笑って去った。
彼女の夢は前から知っていたから。
彼女に夢を諦めないでいて欲しかったから。


スクリーンの中の彼女は、やっぱり綺麗だった。
細い肩が、長い髪が、大きな瞳が、僕の胸を締め付ける。
同時に、様々な思いが僕の中を駆け巡った。

初めてのデートは動物園だったな。
なかなか動かないパンダに、彼女は一生懸命話しかけていたっけ。
遊園地に行ったのに、急に雨が降ってきたこともあったな。
1本だけ傘を買って、2人で寄り添って歩いたっけ。
そうそう、彼女がお弁当を作ってきてくれたこともあったっけ。
あの卵焼きは、今まで食べた中で1番おいしかったな。

想い出を辿ると、最後はいつも彼女の悲しい顔で終わる。

50 名前: ◆4BDlDTMTLY :2006/04/23(日) 08:43:07.62 ID:YXa8NJFY0
──ごめんね。

あの時、彼女を傷つけまいと笑った僕が、今は僕を苦しめている。
踏ん切りをつけたはずの気持ちが、内側から壊れていくような気がした。

コメディタッチの映画が終わった館内ロビーは、大勢の人の明るい声が響く。
その中で僕だけ1人、違う表情。
周りの人が不思議そうにこっちを見ている。

でも僕は、この涙を止める方法をまだ知らない。



               終わり



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