28 :縛り 1/3 ◇0cvnYM3rjE :07/02/24 14:24:52 ID:TpwQVmsV
暗い、狭い、かび臭い。叫ぼうと思っても声は出せない。それはずっと前から。
いつからここにいるのかよく覚えていない、というよりも時間の経過が分からない。
外が寒くなって来たのは分かる。ここが建付けの悪い木のだから隙間風が冷たいのよ。
こんな事なら、ここに閉じ込められた時から何度冬が過ぎたか数えておけば良かった。
そうしておけば、ここに来て何年になるか分かったのに。
今までずっと、思い出を振りかえってばかりいた。だってそれしか出来なかったし、こ
れからもそうなのだと思う。未だに私は、あの人との思い出に縛られているのね。
荒んでいた私を拾ってくれたあの人。
一緒に怪異を退治した思い出。
いつのまにか意思を持った私は、そしてあの人に身分違いの恋をしていた。あれ、恋っ
ていうのは少し違うかな。一緒にいるだけで幸せだった。
うん、やっぱり恋だったのかもしれない。
でも、それも今になっては昔の話。もうあの人に合うことも一生無いのだと思う。
変わった奴だったけど、またいつか会いたいな、なんて未だに思っちゃう。
それにしても、女の子をこんな所に閉じ込めておくなんて、あの人間はどういう神経し
てんの? しかもこんな雁字搦めに縛って。変態だわ、変態。
お札は止めて、と言ったのにそれもベタベタ張ってくるし。私の本当の力が出せないじ
ゃない。力を押えられて苦しがってる姿を見てそんなに楽しいのかしら。
あ、解った。誰かが苦しがってる姿を見るのが好きなのね。やっぱり変態だわ。
まあ、そこも含めて好きだったんだけどさ。
29 :縛り 2/3 ◇0cvnYM3rjE:07/02/24 14:25:10 ID:TpwQVmsV
なんて言っても、あの人はここにはもういない。この世にね。
あの人は宮司だった。宮司が怪異退治。
私とあの人はこの国の怪異を退治して回ったおかげで、今の平和があると言っても過言
では、あるわね。さすがに。他にも私達みたいな仕事をしていた人もいたし。
結局、私はあの人によってこの木の小屋に閉じ込められた。妖力が強くなりすぎたって
事でね。正直、封印される直前の私は血が欲しくて仕方なかったし。
しばらくしたら、落ち付くと思うから。最後にあの人はそう言っていた。
でも、よくよく考えたらただ厄介払いされただけかもしれない。もう、あの人の事は忘
れようと思う。
外から、子供のはしゃぐ声が聞こえる。何かが小屋の外壁に当たる音も。
この感じは、雪合戦だ。
頼りない木の小屋に容赦無く雪玉をぶつけられる子供の気が知れない。やっぱり子供は
嫌いだ。あの人は私より子供を見ていたし、ってまた嫉妬してる。
突然、雪玉が当たる音と同時に、小屋の扉が開いた。
何年振りの外の世界だろうか。外は一面雪景色。子供の姿、そしてあの人、じゃない。
似ているけど、あれは誰だろう。
あの人に似た誰かに見蕩れていると、さらに追い討ちをかけるように雪玉がもう一発が
中に入って来て、私に当たった。切り殺してやろうか、外の子供。
いや、切り殺すわけには行かない。今の雪玉で私を縛っていたお札が取れたから。
力が沸いてきた。頭が冴えてくる。今ならなんでも出来そう。
ああ、あの人に似た彼は、きっとあの人の子孫だ。宮司の格好してるし。
子供と一緒に雪合戦をしている。子供好きなのだろう。あの人と同じ、ではないか。あ
の人は性的な意味で子供が好きだった。でも子孫さんの方はそう言う感じではなさそう。
30 :縛り 3/3 ◇0cvnYM3rjE:07/02/24 14:25:27 ID:TpwQVmsV
前言撤回。雪合戦の最中、転んで泣いた女の子を見てニヤニヤしてる。これは、あの人
より厄介かもしれない。
そんな奴斬り殺してあげるわ。と力を取り戻した私は普通の人間には聞こえない声を上
げた。私の声はある程度、霊力のある人にしか聞こえない。
キョトン、とした顔でこっちを見た。一応、霊力はあるみたいね。
神社のご神体となって数百年。妖刀は再び世に放たれた。
彼女を縛る思い出は、もう無い。
≪おわり≫