【 神様、あの乳をもう一度 】
◆D8MoDpzBRE




5 名前:No.02 神様、あの乳をもう一度 1/3 ◇D8MoDpzBRE[] 投稿日:07/02/17(土) 01:01:12 ID:EA0rFSGq
 牛を見たければ、百科事典を当たってくれ。
 二十世紀の半ば頃から徐々に地球上をむしばんでいった環境破壊の波は、時代が進むにつれてその勢い
を加速させていった。そして多くの種たちは今、図鑑などでしか鑑賞することが出来ない。かつて地球上もっと
も栄えた家畜類の一種である牛でさえ、例外ではなかった。地球上から牛乳が消えた。
 ニューリング・ミルコフ博士は、この世界の現状を大いに憂える者の一人であった。その目的を果たすことは
できなかったが、博士は牛の保護にも尽力した。牛乳と女をこよなく愛し、「乳」と付く物にその全精力を注ぎ込
んで惜しまなかった彼は、ある日禁断の研究成果を世界中に向けて発信したのである。
 ――我、「牛乳を産む機械」の開発に成功せり!
 人工的に牛乳を合成する方法がついに開発されたのだ、と最初は誰もが思った。無理もない。この魅惑的
な白い飲み物から隔絶されること数年、人類の枯渇は代替品である豆乳などでは到底癒されず、この瞬間を
どれほど夢見ていたか分からない。だがミルコフ博士の発表は、一般人の思慮を遙かに超えたインパクトを
全世界へ投げかけた。
 ミルコフ博士が得意げに全世界のプレスへと公開した映像には、多数の女性の姿が映っていた。いずれも、
若い水着姿の巨乳だ。とにかく、全員が不自然過ぎるくらいに巨乳である。
「レイナ君。キミの自慢の牛乳を搾り給え」
「は……はい、博士」
 博士の呼びかけに対して、一人の巨乳が手を挙げる。全世界が固唾を飲んで見守る中、その女性はおもむ
ろに胸の水着を外し、豊満な乳房を露わにした。
「はっ、恥ずかしい……」
「馬鹿もん! 練習通りにやらんか」
 レイナが右の乳房を両手で掴む。肉がひしゃげて変形し、内圧が乳頭へ伝わる。「はぅん」という声と共に、
乳頭の先端から乳汁が飛び出し、猛烈な勢いで放物線を描いた。それは、記者会見場脇に設営されたシャン
パンタワーの頂点から、順々に下のシャンパングラスを満たしていき、淡雪のごとく白くきらめいた。
「博士、これでは人乳です」
 記者席から質問が飛ぶ。しかし、博士はこの声に対して堂々と頭を振った。
「これは人乳ではないぞ、諸君。この乳汁の成分や味は、牛乳のそれと寸分違わない。なぜならば、レイナ君
の乳には牛遺伝子がたんまり組み込んであるからだ。巨乳は、乳腺が驚異的な発育を遂げた証。専門的に
言うと、研究室内に保存されていた牛遺伝子の一部を、乳腺内に存在する外分泌細胞に対して直にトランス
プランテーション(移植)したと言うことになる。これぞ、究極の牛乳生産マシーンと言わざるを得ない」
 得意げに一演説ぶると、博士は頂点のシャンパングラスを手に取り、中の牛乳を一口に飲み干した。


6 名前:No.02 神様、あの乳をもう一度 2/3 ◇D8MoDpzBRE[] 投稿日:07/02/17(土) 01:01:44 ID:EA0rFSGq
 翌日の新聞を賑わせたのは、あろうことか博士へのバッシング記事だった。大半が、「女性を牛乳を生産す
るための機械とは何事だ」という、女性団体からの抗議を掲載していた。これに対し、博士が後日「牛乳を生
産できる女性こそが健全」と議論に火を注いだ結果、ますます彼の立場は危うくなってしまった。
 そしてある日、博士は忽然と謎の失踪を遂げた。殺されたのだとも、危険を察知していち早く逃げ出したの
だとも言われているが、真相を知る者はいない。残された他の「牛乳生産機」たちは行き場を失い、結局女性
団体の庇護の元にかくまわれた、とだけ報道された。事態はそれで沈静化するかに見えた――

 牛乳復活を夢見た人類の希望ははかなくもついえた。
 青年、クラウス・ウミノアワビッチもそんな牛乳への渇望を満たせないでいた一人であった。彼は、寂れた貧
民街に居を構える日雇い労働者として過ごしていた。家族とはとうに生き別れて、今は独り身である。
 クラウスにとって、牛乳は忘れられない飲み物だ。彼がまだ幼少の頃、ウミノアワビッチ家の食卓には必ず
温められたミルクが振る舞われていた。牛乳が一リットル当たり一ドル未満で出回っていた頃の話だ。
 ――クラウス、今日のミルクのお味はどうかしら?
 ――うん、おいしいよ! ナタリー姉さん
 姉の作ってくれるミルクの味は甘くてクリーミーで、こんな素晴らしいミルクをもらえる自分はきっと特別な存
在なのだ、とクラウスは感じていた。
 それゆえ、先日の報道によるバッシングでフイになってしまった牛乳復活劇を、彼はひどく落ち込んだ気持ち
で眺めていたのだ。そんなある日のこと、彼の元に驚くべき内容の噂が舞い込んできた。
「最近この界隈で、牛乳奪還運動をやらかそうとしている連中がいるらしい」
 ようやく、好機が訪れたらしい。クラウスは参加を即断した。
 あらゆる方面から募った情報から割り出された会場は、いかにも怪しい裏通りの階下にあった。
「諸君に集まって貰ったのは、他でもない」
 暗い地下室に、クラウスら屈強な男たち数十人を従え、上座から壮年の男性が話し始めた。白髪交じりのや
つれた顔貌からは、知性の香りがそこはかとなく垣間見える。壮年の男は、自らをミルコフ博士と名乗った。
「ついに、我が愛する巨乳たちの居所を掴んだ」
 博士の言葉に場が騒然とし、男たちが色めき立った。クラウスの鼓動も自然と高鳴る。
「ウオオー! 育ち盛りのこの筋肉に! この筋肉に熱き牛乳の血潮を!」
「ぼく、クラスでいちばん小さいので、ぎゅうにゅうのんで大きくなりたいです!」
 俄然盛り上がる会場を、博士が片手で静止する。
「諸君のほとばしる情熱は、今夜に迫った作戦決行の時まで取っておいて貰おう」


7 名前:No.02 神様、あの乳をもう一度 3/3 ◇D8MoDpzBRE[] 投稿日:07/02/17(土) 01:02:24 ID:EA0rFSGq
 薄暮が迫った議員宿舎前の草むらに、数十名の男たちが身を潜めていた。中にはテレビカメラを担いだクル
ーも混ざっている。都会の真ん中に建てられた官舎の周辺は、贅沢にも緑で彩られていた。
「突撃!」
 ミルコフ博士の掛け声が響き渡り、一斉に屈強な男たちが官舎へなだれ込んだ。慌てて警備員がそれを制
止にはいるが間に合わない。まさに、一瞬の隙を突いた格好となった。
 一行が、「搾乳室」と銘打たれた部屋の扉を乱暴に蹴破ったとき、その光景は突然彼らの目の前に開けた。
 この国の偉い政治家たちが、思い思いに女性の乳房に口を付けて、むさぼるように吸い続けている。並み居
る女性の全てがそれは立派な巨乳であったが、どの顔も一様にやつれており、政治家たちの愛撫に対して無
気力にその身を任せているだけであった。
「お前らが、先の牛乳騒動の黒幕だったという訳さ」
 ミルコフ博士が、唖然として乳を吸う口を止めた政治家たちを前に言い放つ。
「女性団体を上手く買収して攻撃の矛先をこの私、ミルコフに向けさせることで、全ての牛乳を独占しようと目
論んだわけだ。上手くいったようだな。お陰で私は研究所を追われ、お前らは牛乳の占有権を得た」
「それがどうした! お前など私の政治力で再び葬ってやるわ」
 なおも政治家の一人が反撃を試みる。しかし、ミルコフ博士は落ち着いた口調で、彼の耳元で囁いた。
「残念ながら、この一部始終は私の独断で、全国へテレビ中継させて貰ってる。テレビ局長には、牛乳飲み放
題一年分プラス、もれなく一人の巨乳付きで手を打った。旧知の間柄なんだよ、彼とは」
 ミルコフ博士の言葉にその政治家はうなだれ、膝から崩れ落ちた。他の者も同様に戦意を喪失している。
 会場を、勝利に湧く男たちの熱気が覆い尽くした。巨乳たちもまた喜びの輪に加わった。
「ナタリー姉さん!」
 歓喜に包まれた室内に、一際大きな声が響き渡る。それに呼応して、一人の巨乳が振り返った。
「クラウス……? クラウスね、何処に行ってたのよ。もう二度と会えないかと思ったわ」
「姉さんこそ、何故こんな所に……。そもそも、どうしてミルコフ博士の実験なんかに参加したんだい?」
 クラウスの質問に、ナタリーがうつむく。その物悲しげな表情は、同時に慈愛をもたたえていた。
「クラウス、あなたにもう一度美味しい牛乳を飲んで欲しかったからよ。昔のように、幸せだったあの頃のよう
に……。巨乳になりたいから、とか言う浅はかな理由ではないわね。はっきり言って」
 談笑する二人の元へ、ミルコフ博士が近づいてくる。彼らの顔を見渡すと、優しい口調で語り始めた。
「生き別れた姉弟が奏でる感動の再会劇か、素晴らしい。全てはクラウス君、貴方の勇気ある行動の結果だ。
で、突然で悪いのだが、是非、今回のエピソードをドキュメンタリーとして全国に放送させて欲しい。そのため
にもナタリー君、今から私とテレビ局長の所へ同行してくれないかね? 悪いようにはしないから」





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