【 妄想家族 】
◆/7C0zzoEsE




89 :No.21 妄想家族 (1/4) ◇/7C0zzoEsE:07/02/04 23:25:39 ID:YvSIN2jt
この家族は、とても仲が良いものだった。
他が羨むほど。ケンカ一つしたことが無い。
 私はそれを誇りにしていた。
この世で最高の家族だと信じていた。
 しかし、ある日両親の会話を聞いてしまった。
養子である息子の、将来の安否を憂いでいる二人の会話。
 その時は、耳を塞いで逃げてしまい
話の詳細を聞きそびれてしまった。
 自分のことではないのかと、
怯えながら幾夜かも過ごした。
 しかし、次第に頭の熱が冷めてくるにつれ、
その結論は無いに至った。決定的な証拠は無いのだが。
 兄と私。そして両親の顔を見比べれば分かる。
瓜二つとまでは言えないが、私のたれ目には
確かに親の面影があり、兄は狐のように見事なつり目だった。
妹は本より疑いようも無いため、
誰が養子であるかは一目瞭然であった。

90 :No.21 妄想家族 (2/4) ◇/7C0zzoEsE:07/02/04 23:26:01 ID:YvSIN2jt

 それ以来、私は兄につっけんどんな態度をとり続けた。
避けられている理由も分からない彼は、
どこか物寂しげな様子であった。
その姿を見るたびに胸が痛んだ。
 しかし、駄目なのだ。
血が繋がっていない、それだけでこの完璧な
家族の弊害と思ってしまうのだ。
邪魔とすら感じてしまう。
 それがどれだけ残酷な事を意味するかは、
私に分からないはずが無かった。
 しかし兄を避けずにはいられなかった。

 また、ある日、初めて兄とケンカした。
理由はとてもつまらないこと。そして私の一方的な言い草だった。
兄は静かに謝るだけ。最近の私達の不仲にうろたえていた両親も、
これはどうかと私を制した。
 たまったものじゃない。これでは私が厄介者ではないか。
そう頭に血が上った私は思わず、
「何だい! 血も繋がっていないくせに!」
 兄に向かい、そう叫んでしまった。
妹も寝ていたためか、口が過ぎた。
 慌てて口を塞いだが、後の祭り。
両親は、押し黙って俯いている。
兄も少しうなだれて、枯れるような声で
「お前……そうか、いつから知ってたんだ」
 と、話し始めた

91 :No.21 妄想家族 (3/4) ◇/7C0zzoEsE:07/02/04 23:26:23 ID:YvSIN2jt
「ごめんな、騙すつもりじゃ無かったんだ。
いつかは話すつもりだった。親父達も、もっと
しっかりした席で言いたかっただろうけど。
俺達に血のつながりが無いなんて」
 話の雲行きがおかしくなってきた。
私は言いようの無い不安に駆られていたが、
全てを話すように兄に告げた。
「俺の本当の親は病で倒れた。
里香の両親は交通事故で、
お前のは……分からない。逃げたのだと思う」
 始めは言ってる意味が分からなかった。
内容を理解しようとすると頭痛がする。
兄は続ける。
「親父は四十過ぎて身寄りの無い独身男。
お袋は子供の生めない体つき。
そこで、政府が社会のできそこないを寄せ集めて、
作為的に作り上げたのが俺達一家だったんだよな」
 私は倒れないでいるのに精一杯だった。
目の前が真っ暗になる。この人は一体ナニを言っているんだ。
「でも、どうだ。他と劣らない、素敵な家族だったじゃないか!」
「やめろっ! 黙れ!」
 私は髪を掻き毟って、世界一の我が家から逃げ出した。
兄が慌てて追いかけてくる。

92 :No.21 妄想家族 (4/4) ◇/7C0zzoEsE:07/02/04 23:27:03 ID:YvSIN2jt
 気が狂ったように笑いながら、速度を上げて走り続ける。
今まで私を支えてきたものは、全て幻だったのだろうか。
 いや、あの日、今この時のように、
庭で兄と二人、追いかけっこをして遊んだ。
転んで、笑って。妹が作ったパイをほおばりながら、
木漏れ日が目に染みる中、微笑みながら茶をすする両親。
 あの幸せな一時は、
決して夢なんかでは無いはずだ。

――なあ、そうだろう。兄貴。

 ふと立ち止まり後ろを振り向くと、
遠くからこっちに向かい、叫びながら走る兄の姿。
 道路の真ん中で立ち尽くす私に、
クラクションを鳴らし急ブレーキをかけたトラックも突っ込んでくるが、
どうしてもこれ以上走る気にはなれなかった。

             (了)



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