【 三枚の写真 】
◆3f0Xs6b.AU
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17 名前:三枚の写真(1/2) ◆3f0Xs6b.AU 投稿日:2007/01/29(月) 00:53:26.08 ID:w37tYNTj0
 夢をあきらめた昨日、知らない声の電話がかかってきた。
 内容は簡単だった。「明日、京町の『リヨン』に来てください。キバヤシゴローのことで話があります」
 僕は一言だけ尋ねた。「死んだんですか」
 答えはイエス。
 だから、僕は寂れた喫茶店リヨンでまずいコーヒーを啜っている。
 考える事は多い。だが、考える事もなくわかっている事も多い。
 ゴロー先輩は殺されたんだとか、今から来る奴は戦争から帰ってきたジャーナリストだろうとか、どうしよう
もない事ばかりだ。
 カランと時代錯誤なベルが鳴り、人が入ってきた。たぶん、待ち人だろう。
 その人物は予想に反して女だった。それも美人な。
 だが、厳ついショルダーバックが、はっきりと一般人との境界を作っている。
 僕は腰を上げて挨拶と自己紹介をする。
 女も軽い挨拶と自己紹介をした。名前はカンダキョーコ。
 キョーコは軽い口調で言った。「もう、戦争の終結について放送されていますか」
 なによりも、ゴロー先輩のことが気になっているのに、少しそれた事を言われるてカチンと来た。
 僕は口をゆがめて言う。「昨日の新聞くらい読みましょうよ」
 キョーコは驚いたように、少しだけ眼を見開いて、わかったわかったと、かばんから紙きれを取り出した。
 テーブルに並べられたそれは、三枚の写真だった。僕は右から順に見る。
 一枚目。談笑する兵隊。その後ろで車が爆発している。ちぐはぐな印象は爆発の瞬間だからだろう。
 二枚目。がっちりと手を握っている大人と子供。背を向けて走っているときに撃たれ、倒れる瞬間。
 三枚目。仰向けで倒れるゴロー先輩。目は閉じられ、何の表情も無い。
 やっぱりな。
 僕はため息をついた。予想通り過ぎる結果だった。
「全て私が撮影しました。明日、出版社に持ち込もうと思っています」
 キョーコは平坦な声で言った。もしくは、平坦になるように努力しているような声だ。
 僕はゴロー先輩を良く知っています。
 僕になんと言って欲しいんですか。
 なんで僕に教えてくれるんですか。
 いくつも言いたいことが出来た。
 だが、何よりも効果的な言葉がある。キョーコの顔を見据え、僕は言い聞かせるようにその言葉をぶつける。

18 名前:三枚の写真(2/2) ◆3f0Xs6b.AU 投稿日:2007/01/29(月) 00:53:43.09 ID:w37tYNTj0
「嘘でしょう」
 キョーコはビクリと身体を振るわせた。
 思い出すのは、ゴロー先輩が夢に共感した僕を誘ってくれた事。
 あの時にゴロー先輩のように、余裕を持った目で、観察するように眺める。
 目に見えてキョーコは取り乱した。「そうです! 嘘ですよ! 何もかも!」
 キョーコは一枚目と二枚目を大きな音を立てて叩いた。「これとこれはゴローさんが撮ったんです! でも、
まともなやり方じゃなくて! 自分で殺したんですよ! 車に乗ってる人も! 兵士も! この親子も!」
「だから!」とキョーコは三枚目にこぶしを振り下ろした。「ゴローさんを殺したんです! 悪いですか!」
 それならば、僕が言えるのはただ一言だけだ。「なにも悪くないですよ」
 僕は伝票を持って立ち上がる。
 もしかしたら、キョーコは僕に止めて欲しかったのかもしれない。
 世間に嘘をつく重圧に潰されそうだったのかもしれない。
 呆然と見上げるキョーコを興味の無い目で見る。「ただね、その写真をあるべきところに公開してください。
それが、ゴロー先輩と僕の夢でしたから」
 本物の反戦家で、偽のジャーナリストのゴロー先輩。あなたの写真が、世間に戦争を教えるかもしれません。
もしかしたら、戦争はあなたのような狂人を生むと、世界を震撼させるかもしれません。どのような形になるか
解りませんが、あなたの夢は叶いそうです。
 だけど、一緒にやろう嘘をついたのはひどいです。

<了>



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