799 名前:斜め読み 1/3 ◆qVkH7XR8gk 投稿日:2007/01/28(日) 20:50:55.82 ID:biBdCoZW0
「一時間で五百行ったらまんまんうp、と」
安物のファンが吐き出す唸るような音をBGMに、真っ暗な部屋にキーボードを叩く音
がカチャカチャと響く。ブラウン管の年代を感じさせるディスプレイがぼんやりと照らす
顔は、VIPでありがちなキモオタヒキニートを絵に描いたようなブサメンではなく、女
のしかも十代半ばぐらいのまだ幼さの残る顔立ちだった。
ピザでもなく、ブサでもない少女はどちらかと言えば可愛い――そう、分かりやすく言
うのなら、シャナに生き写しとでも。
「十五歳女VIPPERがニートどものために一肌脱いでやろうじゃないか、っと」
デジカメもキーボードの脇に置いて、すっかり準備万端という感じで磨り減った「RE
TURN」と印字されたキーを叩いた。
専ブラのスレッド一覧の更新を待って、自分の立てたスレがあることを確認すると満足
げに頷いた。がこがことボールの滑りが悪くなったマウスを動かし、スレを開く。
『スペックうp』
『昔のVIPは良かった。今のVIPは……』
『釣り宣言マダー?』
期待していたkskという文字が無いことに少し不満を覚え口を尖らせるが、少女はキ
ーボードに手を伸ばした。
「スペック……十五歳女、多分可愛いと思う。ひんぬーで悪かったな。あと釣りだと思う
なら帰っていいよ、と。このぐらいかな?」
一息で打ち込むと多少画面上のカーソルが遅れて文字を表示していく。
リターンキーを押すとスレが更新され、少し間を置いてディスプレイに反映されるが少
女の書き込みはまだたったの十五番目でしかなかった。
「む……釣りだと思われてるのかな」
ロールダウンキーを押して他の書き込みを見ると、小学生の語彙みたいな罵詈雑言に混
ざって少女が待ちわびていた一言があった。それはいわばうpスレがうpスレと認められ
た証のようなものだ。
800 名前:斜め読み 2/3 ◆qVkH7XR8gk 投稿日:2007/01/28(日) 20:51:24.40 ID:biBdCoZW0
『ksk』
『IDうpしる』
ぱあっと少女の顔が明るくなると、パジャマの上を脱ぎ捨ててペンダントライトの紐を
引っ張る。蛍光灯が幾度か点滅して、少女の貧しいボディラインを晒す。ブラジャーは付
けていないというより、まだ必要ないというほうが正しいのかもしれなかった。
デジカメにスマートメディアと電池が入っているのを確認。メモ用紙に自分のIDを書
くとそれを左手でちょうど胸が隠れるように構え、右手でカメラを構えた。
「んーと、何枚か撮って一番いいの上げればいいか」
ぱしゃぱしゃとフラッシュが光り、女神が一人誕生した。
「とりあえずうp」
いつも通りのところにアップロードすると、早速とばかりに書き込んだ。
『ちょwww本物の女神www』
『ひんぬーktkr!!!1』
『狂おしいほどにksk!』
パジャマを着る事も忘れ、少女はディスプレイの前でニヤニヤとしている。どこに貼ら
れたのか分からないが、画像を上げてから五分ほどで一気に百ほど進んでいた。
これは余裕だなと思って更新ボタンの連打とキー操作をする。読むばかりで書き込むの
が追いつかないほどの勢いが出た頃には、あと五十ほどで五百というところまで進んでい
た。
残り時間はあと十分。余裕だった。
「この辺りでいいかなぁ?」
頬に人差し指を当てて考え込んでいるようなポーズを取ると、あくまでそれは格好だけ
だったように数秒も間を置かずにキーボードを叩き始めた。
『>1が来たぞー』
『逃げるんじゃねーぞ>1』
『いつの間にか五百超えてるしwww』
『うp!うp!』
そんなVIPPERたちの言葉を尻目に、彼女にしては珍しく長文を書き込む。
801 名前:斜め読み 3/3 ◆qVkH7XR8gk 投稿日:2007/01/28(日) 20:51:42.07 ID:biBdCoZW0
釣りだとか言ってた奴までkskしててワロスw
ありがたくおまいらの馬鹿っぷりを眺めさせてもらったぜ
ただでおぱーい見れただけありがたく思うんだなwww
俺男だし、さっきのうpは妹に頼んで撮らせて貰ったw
妹フラグたったかな?www
じゃあなwww馬鹿共www
渾身の力でリターンキーを叩くと、それで満足したかの用に彼女は一つ大きく背伸びを
した。
スレには罵倒とも嘆きとも付かないような書き込みで埋め尽くされ、やがて『>1に失
望した。>800うpするよ』なんていう新たな女神が現れて緩やかに終焉へと向かって
いった。
台所で牛乳でも飲もうとドアを開けようとすると、手を触れるより前に開け放たれて少
女の前にはそれこそ絵に書いたようなヒキニートの男が立っていた。
「あ、お兄ちゃん」
「あれほど釣るなと言っただろう!」
「えー、アレでお兄ちゃんも釣られたのー?」
プギャー、と絵に描いたように兄を指差して笑うと、VIPPERのプライドをずたず
たにされた兄はその場にくず折れた。
そんな無様な兄の耳元に口を近づけて、鼻に掛かった極力甘い声で少女は囁く。
「お兄ちゃんになら……いいんだよ、その……ね?」
「え、マジで!?」
ものすごい勢いで顔を上げる兄を照れくさそうに伏目がちに見る少女。もう一度ゆっく
りと耳元に口を寄せる。
「釣りでしたwww」
とどめを指された兄は真っ白に燃え尽きて、身動き一つ取れずに廊下で小汚いオブジェ
になった。
少女は鼻歌混じりで台所に向かう途中で、「てへ」と漫画でもいまどき無さそうな笑い
を浮かべた。
このスレは千を超えましたwイヤッッホォォォオオォオウ!