【 告白 】
◆PUPPETp/a.




335 名前:【品評会】告白 1/5 ◆PUPPETp/a. 投稿日:2007/01/27(土) 03:27:37.01 ID:9QINY3hn0
「あのね。多加子があなたのこと好きみたいなの」
 呼び出されて、そう告げられた。
 多加子は友人の一人だ。
 大学のゼミが一緒で、サークルも同じということもあり、話す機会が多い。
「多加子ってけっこうすぐに人のこと好きになっちゃうのよ。なんていうかな……」
 多加子と共通の友人である和美が言うには、多加子は寂しがり屋で優しくされ
ると誰彼構わず好きになってしまうらしい。
 そういう理由で高校の時も何人かと付き合い、そしてそれが重く感じるように
なり振られたということだ。
「それでね、彼女をあまり悲しませてほしくないの。だからよく考えてほしいと
 思って……」
 そう言うと彼女はその場を後にした。
 冗談かと思ったが、いつも快活な彼女からは信じられないような真面目な顔だ
った。
 彼女も多加子のことが好きだから、こうして忠告をするのだろう。
 とりあえず、今考えても仕方がないことだと同じようにその場を立ち去る。

336 名前:【品評会】告白 2/5 ◆PUPPETp/a. 投稿日:2007/01/27(土) 03:27:53.67 ID:9QINY3hn0
 今日の授業が全て終わり、家路に着こうとすると多加子に呼び止められた。
 友人たち数人で帰りに喫茶店でお茶を飲んで帰ろうという話らしい。もちろん、
その中には先ほどの和美の姿もある。
「よー! 今日もカワイ子ちゃんたち侍らせているな!」
 喫茶店に入ると、高校で同級生だった智之がいた。ここでバイトをしているの
だから、いても不思議ではないのだが。
「失礼な奴だな。客にそんな口のきき方をするとまた店長から包丁お見舞いされ
 るよ」
 そう言いながら壁際の大きめのテーブルに座る。注文して、しばし雑談をする。
 先ほどの会話を思い出し、少し多加子を見つめてしまう。
 彼女は確かにかわいい。明るく、人好きのする笑顔がまぶしい。まだ入学して
数ヶ月の付き合いだが、性格もいい子だと思う。
 こんな子を振るのだから、それは高校の時の彼氏が悪いんだと思う。
「――ちゃったよ。ねー聞いてる?」
 見ている間に話しかけられていたようだ。
 その小首を傾げる仕草もかわいらしい。
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた。なんだっけ?」
「だからね、私の友達が彼氏ができたんだって。いいなー、私も恋人欲しくなっ
 てきちゃった」
 溜め息を吐きながら、ちらりとこちらに目配せをする。
 和美が睨むような目つきでこちらを見ているが、素知らぬ振りを決め込もう。
 それからまたしばらくは歓談を楽しんで、喫茶店を後にした。

337 名前:【品評会】告白 3/5 ◆PUPPETp/a. 投稿日:2007/01/27(土) 03:28:09.34 ID:9QINY3hn0
 喫茶店から駅までは歩いて五分ほどだが、その間もおしゃべりは止まらない。
「あ! ゼミの教室に忘れ物してきちゃった!」
 しかし、おしゃべりを遮って多加子が言い出した。
 ふと、袖を引かれる感触を覚え、自身の腕を見ると多加子がつまんでいた。
「一人だと寂しいし、付いてきてほしいほしいなー……」
「それじゃ私も一緒に戻ろうか!」
 そう言うのは和美である。
「え! いいよ、悪いし!」
 大丈夫だよ、付いていくよの押し問答になったが結局は和美が折れた。
 ずっと袖を離さなかったということで、付いていく人間は決まっていた。
 みんなと別れ、二人で学校への道を歩く。
「ごめんね。無理言って付いてきてもらって」
「い、いいよ。どうせアパートに帰っても何もすることなかったし」
 和美に言われた言葉を思い出してしまい、不自然にならないように返事を返す。
「本当はね、忘れ物なんてしてないの」
 その言葉に体が反応するのがわかった。
 多加子が手を繋いでくる。そして正面に回りこみ、少し微笑みながら見つめて
きた。

338 名前:【品評会】告白 4/5 ◆PUPPETp/a. 投稿日:2007/01/27(土) 03:28:40.29 ID:9QINY3hn0
「その反応は知ってるみたいね。告げ口したのは和美かな? 私のこといつも一
 番に考えてくれるから……。何か言ったんでしょ?」
 どう返事していいのかわからず、見つめ合ったまま固まってしまった。
 彼女は俯き、重ねた手に軽く力を込めながら言った。
「知ってると思うけど……好き……なんだけど」
 耳まで赤くなっているのがわかる。
 それに対しての返事はというと、まだ頭も体も固まったままで何も口にはできなかった。
「すぐに返事くれなくてもいいよ。ただ――」
 真っ赤な顔をあげて、ジッと目を見つめてくる。
「付き合ってくれるとうれしいかな……って」
 そう言うと彼女は手を離し、急ぎ足で駅へと向かっていった。
 その場に残されたが、大学に用事があるわけでもない。しかし追いかけるよう
に駅へ向かうのも気まずい気がする。

339 名前:【品評会】告白 5/5 ◆PUPPETp/a. 投稿日:2007/01/27(土) 03:28:56.41 ID:9QINY3hn0
 結局はその足でまた喫茶店へ戻ることにした。
「なんだ。また来たのか」
「ちょっと考え事があってね」
 そう言って今度はカウンター席に腰掛けた。
「暇な奴だな」
 そんなことを言われながらブレンドコーヒーを注文し、少し考える
「で? 何を悩んでるのか相談してみたらどうだい?」
 そう言いながら、智之がカウンターの向こうに立っている。
「いや、告白……されたんだけど」
「へー、物好きな奴もいるもんだな」
「うるさいな」
 にやにやと笑うその顔にコーヒーをかけてやろうかと思ってしまう。
「それで、どうなのよ?」
 どうなのよと言われても、それで悩んでいるのだからどうもこうもなかった。
「ここだけの話だからね。さっき一緒に来てた女の子の一人……」
 智之の顔が固まるのがわかった。
「だって……、おまえ……」
 そう、私も女だというのが問題なのだ。



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