【 混沌の聖戦 】
◆BLOSSdBcO.




11 名前:混沌の聖戦 1/5 ◇BLOSSdBcO. 投稿日:2007/01/20(土) 15:33:00.85 ID:BYC39mhu0
――おい聞いたか、隣の町が壊滅したって話
――ああ、奴らの仕業らしいな
――奴ら?
――この世界の果てにある混沌の国、そこに住むならず者達さ
――そんな奴らがいるのか!
――奴らの名は……VIPPER

 この世界には様々な国がある。その中に数十倍の町があり、数百倍の人々が住んでいる。
 世界の住人は自由に国々を行き来し、いくつもの町を旅する。情報の集う国があり、人々が交流する国や、
学問を極めんとする国、欲望を満たす為の国まである。
 そんな多種多様な国の中でも、世界中から異端視される国があった。その名は『VIP』。
 世界中の情報を持ち寄り、世界中の娯楽を取り込み、世界中の人々が住まう、混沌の国。
 VIPに染められた者は他国で次々に問題を起こし、彼らは『VIPPER』と呼ばれ世界中で嫌われている。
 だがそれでもVIPの持つ混沌の根底、「面白いが正義」という思想に魅了されたVIPPERは多く、彼らはVIPの
敵には団結して立ち向かった。その攻撃、俗に『突撃』と呼ばれる破壊活動に晒された町は、たった数時間で
焦土と化す。
 それ故に、表立って彼らを批判する事は世界のタブーとされていた。

 そんなVIPに、ある日とんでもない情報が飛び込んできた。
「世界終焉の危機! 全世界の預言者が一斉にお告げを受ける」
 初めはまた誰かの悪戯だろうと思っていたVIPPERも、自らの目で世界を周り新たな情報を得るうちに、
それが何の冗談でもない真実だと知った。
――世界を統治する『ウンエイ』の長、『ヒロユキ』が危ないらしい
――『カイシャイン』という魔王がこの世界を滅ぼそうとしている
――このままでは世界はあと二週間で崩壊する
 絶望的な情報が次々とVIPにもたらされる。面白くないものは価値がない、そう言い切るVIPPER達が混乱し、
慌てふためく。その様は、彼らを異端視する他国も同じだった。

12 名前:混沌の聖戦 2/5 ◇BLOSSdBcO. 投稿日:2007/01/20(土) 15:33:43.43 ID:BYC39mhu0
 一時的な混乱が収まった後のVIPPERの反応は千差万別。あえて分類するならば、「何とかなるさ」と考える
楽観派と、早々に別れの挨拶をする悲観派が大半を占めた。
 だがしかし、ならず者の集団VIPにも、世界の危機に立ち向かう義侠心に溢れた者達がいた。
 彼らはどうすれば世界を守れるのか、自分達に何が出来るのか、VIPの片隅で喧々諤々の議論を交わす。
――『カイシャイン』に突撃だ!
――いや、下手に刺激したら余計に世界の危機を招く
――新たな世界を作ってもらえるよう、『ウンエイ』に頼めば?
――そう簡単に今の世界を捨てられるかよ
――結局は何もしなくても大丈夫だって
――もし大丈夫じゃなかったら、何もしなかった事を悔やむことになるぞ
 議論はまとまらない。それも当然。彼らは元々全く違うところで育った人間が、楽しい事を求めて集まった
だけの集団なのだから。他国のように大きな指針がない混沌の無法地帯で、考えが一致する方が珍しい。
 時間がない。それは誰にも分かっている事だった。では何をしたら良いのか。それは誰にも分からない。
 そんなもどかしい状況を打破したのは、一つの発言だった。
――『ショメイ』するか……?
 この一言に皆が沈黙した。『ショメイ』、それは突撃という実力行使が得意なVIPPERには縁遠い言葉。
VIPだけでは足りないほど、多くの人の力を借りて繰り出される究極魔法。
――出来るのか、俺達に
――そもそも効果はあるのか?
――効果はあると思うが、それで世界の崩壊を防げるかは分からない
――でも、それ以外に方法はないんだ
――やるしかないんだ
――俺達の力で、世界を救うんだ!
 世界崩壊まで残り十三日。混沌の国VIPにおいて、ならず者達が世界を救う為に動き出した。

14 名前:混沌の聖戦 3/5 ◇BLOSSdBcO. 投稿日:2007/01/20(土) 15:34:21.22 ID:BYC39mhu0
 活動の滑り出しは順調だった。世界を救いたいのは誰もが同じ。VIPに立てられた本部には『ショメイ』に
協力したいという者が次々と訪れた。その数は目標とする人数の五分の一に達し、活動初日は大成功と言える。
本部のVIPPER達は「自分達でもやれるんだ」と歓喜に包まれた。
 ところが、翌日はほとんど協力に来る者が現れなかった。次の日も、その次の日も。
 頭を抱えたVIPPERは、本部に集まって話し合うことにした。
――どうなってるんだ?
――あと十日しかないというのに
――調子が良かったのは初日だけか
――皆、ちゃんと他国でも告知してるよな?
――それなんだが……
――他国に行って『ショメイ』に協力してくれと言うと、「VIPは信用できない」と断られるんだ
――何だよそれっ!
 彼らは気付いた。初日に協力を申し出た者は全てVIPPERであり、それ以降は他国の住人が協力をしてくれない
為に一向に『ショメイ』が集まらないのだと。
 だが、それが分かったところで対処方法が分からない。嫌われている原因は過去の所業のせいだ、今更取り
返しがつかない。
 結局VIPPERじゃ駄目なのか。そんな誰かの言葉に暗い雰囲気が漂い始め、一向に協力者が現れないままに
時間だけが過ぎていった。

――俺、『カイシャイン』に突撃してくるよ
 世界崩壊まであと一週間となったこの日、ある男がそう言い出した。
――何考えてんだ!
――そんなことしたら、余計に世界崩壊を早めるぞ
――VIPPERの突撃は、するべき時にするもの
――無駄な突撃は、ただの馬鹿のすることだ
 皆は彼を止めようとする。それでも、彼の世界を愛する心は誰にも抑えられなかった。
――俺はこの世界を救いたい
――例え、この命に代えても
 彼はそう言い切ると、ただ一人、突撃の準備に取り掛かった。

15 名前:混沌の聖戦 4/5 ◇BLOSSdBcO. 投稿日:2007/01/20(土) 15:35:01.45 ID:BYC39mhu0
 翌日。彼の帰還を待ち焦がれるVIPに、その突撃の顛末が伝えられた。
――『カイシャイン』に嘆願した男、世界への愛を切実に訴え
――聞き入れられないと分かると、一言だけ叫び

――自らの腹を切って……絶命……

 VIPを沈黙が包んだ。
 一人のVIPPERが、世界の為に命を賭けた。
 他の国の誰にこんな事が出来る?
 出来ないだろう。
 楽観する者にも、悲観する者にも、『ウンエイ』にすらも、出来はしないだろう。
 これが、誰にも出来ないことをやってのけるのが、VIPだ。
 誰の為でもなく、面白い事の為に全てを投げ出せるのが、VIPPERだ。
 沈黙は破られる。
――俺達に出来ない事は無い
――俺達にしか出来ない事がある
――俺達がやらなきゃいけない事がある
――俺達は、VIPPERだから
 一人の勇者の死が、VIPを一つにした。今までの祭りや突撃とは規模が違う。混沌の国そのものが動くのだ。
 それは世界の為。
 それはVIPの為。
 それはVIPPERの為。
 過疎になっていた本部に、再び活気が戻った。様々な国から勇者の情報を聞いたものが訪れ、協力を申し出た。
他のVIPPERも各国に散り、そこで懸命に『ショメイ』への協力を訴えた。
 初めは懐疑的だった他国の住人も、勇者の話を聞き、あるいはVIPPERの必死の説得に応じ、次第にVIPを応援
してくれるようになった。
 世界のほんの一握りのVIPPERが始めた活動は、協力者が他の人にも協力を呼びかけることで雪だるま式に
世界中へと広がっていった。
 混沌の国が、ならず者の集団が、世界と一つになった。

16 名前:混沌の聖戦 5/5 ◇BLOSSdBcO. 投稿日:2007/01/20(土) 15:35:32.85 ID:BYC39mhu0
――いよいよ、だな
――準備は良いか?
 世界崩壊の前日。目標としていた数倍にも及ぶ『ショメイ』を集めたVIPPER。
 その強大な力を手に、『カイシャイン』との直接対決に出立しようとしていた。
 もし『ショメイ』が効かなければ、世界は崩壊する。
――さぁ、行こう
――世界を救うために!
 世界中が固唾を飲んで見守る中、実行部隊は本部を出た。
 『カイシャイン』に突撃した彼が、最後に残した言葉と共に。

                     ◆

「便器から尻が抜けない」
「妹が俺の布団に入ってきた」
「凄い発見した!」
「文才無いけど小説書く」
 今日もここには様々な人が集う。
 ここは混沌の国。
 ここには笑顔があり、涙があり、怒りがあり、喜びがある。
 ここには世界の全てがある。
 僕はならず者。
 僕は面白くない。だけど僕らは面白い。
 僕は何も出来ない。だけど僕らは何でも出来る。
 ここはVIP。
 僕はVIPPER。
 一人じゃ無理な事も、皆で集まれば何とかなる。
 そう、それが……
                 ――それがVIPクオリティ!

                                            (^ω^)



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