【 第六感 】
◆7wdOAb2gic




173 名前:第六感1/2 ◆7wdOAb2gic 投稿日:2006/12/23(土) 04:46:29.39 ID:h2UlgbHF0
「あんた達、遅刻するわよ、早く起きなさい!」
 一階から、妻の絵美が大きな声をあげている。あと五分したら妻が、子供部屋を目指して、
ものすごい勢いで階段をあがってくるのは、毎朝繰り返される我が家の恒例行事だ。
 今日もやっぱり、シナリオ通りに進行し、妻が子供部屋に突入、二人のねぼすけのふとん
をひっぺがした。
「もうちょっとだけ……」
「だーめ」
 紗希と達也があきらめたのか、もぞもぞと動き出す気配がした。小学五年生の娘と二年生の
息子。俺の自慢のかわいい二人組だ。
「たつ、朝ごはん食べよ」
「うん」
 妻が一階に降りた後、紗希がお姉ちゃんらしく達也をうながした。隣の部屋で繰り広げら
れた、微笑ましい光景を想像すると、自然に頬がゆるんでくる。
 二人がパタパタと階段を降りる足音を聞きながら、ゆっくりとベッドから身を起こした。
「ニャア」
 猫のイタローが朝の挨拶にきた。こいつも入れて自慢の三人組だな――と霞がかかったよう
な頭でぼんやり考えた。

174 名前:第六感2/2 ◆7wdOAb2gic 投稿日:2006/12/23(土) 04:47:44.53 ID:h2UlgbHF0
イタローに先導され一階に向かうと、紗希と達也は、食堂のテーブルに並んで腰をかけてい
た。朝食はトーストとベーコンエッグだった。二人とも、もそもそと機械的に口を動かしなが
ら、牛乳でなんとか流しこんでる様子だった。
「朝はパンより、白いご飯のほうがいいんじゃないか」
 妻に向かって言ってみたが、流しでガチャガチャと大きな音を立てながら、食器を洗ってる
為、聞こえなかったようだった。また改めて言えばいいかと思い直し、居間のソファに腰を下
ろして、テレビで流れているニュースを眺めはじめた。
 虐待やいじめ自殺など、親としては心配になるような話題ばかりだが、明るく素直なうちの
子達は大丈夫だろうと考えた。しかし、最近遊んであげられてないから、今度ゆっくり家族み
んなで過ごす時間も作らなければならないと、肝に銘じておいた。
「ごちそうさまー」
「早く支度して、すぐに出るわよ」
 集団登校の時間が迫ってるらしく、妻が子供達をせきたてた。五分後、慌しく三人が玄関を
飛び出してから、自分も身支度のため洗面所へ向かった。
 髭を剃ろうと思い、鏡に顔を近づけた。しかし、どこを探しても自分の姿は鏡には映ってい
なかった。
 そういえば――急速に自分の置かれている状況が把握できると、なんともいえない寂寥感と
耐えきれないほどの孤独に身を包まれた。

「俺は一年前に死んだんだ……」





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