【 真夏の島 】
◆4mIG5NNHcA




13 :No.5 真夏の島(1/3) ◇4mIG5NNHcA:06/12/16 19:24:10 ID:FUhKZpOX
容赦なく照りつける太陽の光に、身を焼かれるような感覚にとらわれながら、俺の意識は徐々に表層へと浮かび上がってきた。
まだ曖昧な意識の中で、小さく唸りながら、何とか体を起こし周囲を見回すと、ここが陸地で島なのであろうということがわかった。
恐らくここはひどく小さな島だ。そして島の中心部から外側にかけて大きく森が広がっている。
海はというと、浜辺から見渡す限り、無限に広がっている。海上に見えるものは何も無い。
そう、俺が乗っていた船は難破したはずだ。俺は波にのまれ真っ黒な海に落ちたのだった。
なんという幸運だろう、俺はこの海の中の点のような小島に流れ着いたのだ。
俺の意識は完全に覚醒し、自分が助かったのだという事を認識した。


おかしい。自分が広大な海の中の、この小さな島に流れ着いたのも、それ自体天文学的確立で信じがたいことだが、
何故だろう、この島に流れ着いたのは自分だけのようだ。
というのは、島を一周してみたが(それには一日もかからなかった。本当に小さな島のようだ)船の部品も他の乗客たちも見つからない。
どうやらこの島にたどり着いたのは俺一人らしい。こんなことがあるのだろうか。
あるとしたら、奇跡が起きたか、あるいは俺が幻を見ているのか、そのどちらかしか無いと思った。
もしかしたらこの真夏のような暑さが幻惑を見せているのかも知れない。

14 :No.5 真夏の島(2/3) ◇4mIG5NNHcA:06/12/16 19:24:47 ID:FUhKZpOX
この島には中心部の森から川が流れているので水には困らなかった。
また土地も豊からしく木々が豊かに生い茂っており、食べ物にも困らない。俺はとりあえず生きてはいけるようだ。
そして、この島はやはり無人島らしい。人の生活の気配が感じられないので予想はしていたが、
島を一周して確信となった。畑の類のものも見つからない。
何かの鳥のような生き物が飛んでいるのをこの前見た。獣の類はいるのかもしれない。
もし・・・何らかの人間がいる可能性があるとしたら、それはもう既に中心部の森の中だけのようなものだ。
しかし、うっそうとしていて到底人の入れるようなものじゃない。それに、火の灯りやその煙が見えたことも、一度も無い。


真夏だ。ここは真夏の島だ。俺は夏と戦っている。
俺は今まで夏の真実を知らなかった。ここでは夏の暑さは不快なものではなく、苦しいものであった。
孤独でもある。だが孤独に屈すると、俺は真夏に焼き殺されるだろう。
俺はたった一人真夏との孤独な戦いを強いられている。

15 :No.5 真夏の島(3/3) ◇4mIG5NNHcA:06/12/16 19:25:30 ID:FUhKZpOX
いつからか俺の時間の感覚は月日から朝昼夜になった。もうどれぐらいの時間が経ったか分からないし、興味の範疇で無くなった。
孤独な戦いはいまだ延々と続き、その間ずっと俺は正気を保とうと思い続けていたが、最近はそれすら自信がなくなってきた。
自分ひとりしかいない状況では、客観的に自分自身と他を対比させることが出来ない。
だから俺はもう狂うっているのかもしれないし、いままだ正気を保っているのかもしれないと思うのだ。
そしてここでは、いつかは夏が終わって、秋が来て冬になるというような事はない。
ずっと真夏なのだ。ここには夏からの逃げ場はどこにも無い。
唯一、俺が自分の意識さえ認識できないほど狂うか、もしくは死ぬぐらいが残された逃げ道なのかも、知れない。


ある朝、森へ入る事を決心した。
森へ入れば俺は恐らく死ぬだろう。理由は火を見るより明らかだ。
森は広い。しかも人間が入ったことが無いような森だ。何がいるか分からないし、加えて俺の服は軽装、武器の類も無い。
だがそれでも入るのだ。死んでもいいのだ。この島の中心から広がる森。島の中心には何かがあると思うのだ俺は。
川に沿って登っていこう。俺は呼ばれているのだ。
俺は、未知の森の中へ分け入っていった。






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