【 ただ一言を 】
◆6F74IPNEuU




38 No.13 ただ一言を (1/1) ◇6F74IPNEuU 06/12/09 13:24:38 ID:2hU/fa3Q
戦争を起こした。
資源枯渇というありがちな理由から隣国Aの資源を奪うために侵略し、一年かけて
我が国の領土とした。
しかしその数年後に我が国から新たなエネルギーが発見され、国内の批判の声も
あって奪った領土を隣国Aに返還した。
勿論私は身勝手な理由から戦争を起こした者として、復興までの物資と人員を
惜しむことなく与えた。彼らが食料を求めれば食料を与え、彼らが更に人を求めれば
軍隊を派遣し、かつて奪った資源も彼らに返した。
それでも彼らのわたしへの恨みの声は途絶えず、私は更に彼らに与えた。
ひたすら与える、与える、与える。
それが10年も続くと隣国Aも元の姿を取り戻し、自立できるほどとなった。
まだ恨みの声は多く、隣国Aの国民は私を責め続けたが、私は出来ることはやった。
私はそれ以上の恨みの声はどうやっても無くならないだろうと諦め、最後の物資を
彼らに与える承認の書類に判を押すと、この日の仕事は終え、私室で休んだ。
「覚悟ッ」
カーテンから剣を持った青年が現れ、ベッドに横たわろうとする私の胸を貫く。
白い髪に褐色の肌。その容貌はまさしく隣国Aの国民の特徴を現す。
私は突然の理不尽さに「何故」と息も絶え絶えにつぶやくと、青年は怒りを露に怒鳴った。
「何でたった一言が言えなかったんだ!」
剣は引き抜かれ、もう一度突き刺される。
私はなるほど、と理解した。
私が彼らに与えるべきは物資でも人員でもなく、たった一言、6文字の…。
「○○○○○○」
この言葉こそ私の隣国Aに行った過ちを認める、一番初めに言うべき言葉だったのだ。





BACK−無抵抗主義 ◆7wdOAb2gic  |  INDEXへ  |  NEXT−感情 ◆qCmNg7NQIE