【 そばにいる 】
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47 名前:そばにいる(1/10) 投稿日:2006/11/28(火) 03:36:30.72 ID:vKlo6TvX0
「被害者は、新田真一。二十三歳。○×大学に通う学生です。このマンションには一人で
住んでます。第一発見者は彼と交際中の下村幸さん。午後五時頃、彼女が新田に何度も電
話をしたのに、全く出なかったため様子を見にきたところ、部屋の鍵が開いており、血ま
みれになって倒れている新田を見つけた。とのことです。死因は検死解剖しないと詳しく
は分かりませんが。おそらく、何度も腹を刺されたことによるショック死か、もしくは失
血死。背中に一箇所、腹部に推定二十箇所。どれも包丁のような鋭利な刃物で、深々と刺
されています」
 と、これがここ一時間ほどで、新米刑事の御手洗太一が今回の殺人事件について調べた
ことである。
 白いテープが床に人の形を作っている。新田真一の遺体がここに倒れていたことを示す
ものだ。そのテープをしゃがんで眺めていた森山刑事は、太一の説明が終わると、立ち上
って腰をぽんぽんと叩いた。森山の背は太一より少し低く、髪の毛はほとんどが白く染ま
っていた。
「殺し方から考えると、恨みによる殺害だな。玄関先で殺されてるってことは、被害者が
犯人を室内に入れたところでグサ。犯人は知り合いってことだな。背中に一箇所刺し傷が
あるってことは、被害者が犯人に背を向けたところで刺して、倒れた後に腹に刺しまくっ
て殺した。といったところか」
「へぇ〜」
「ん、どうした?」
「いや、そんな一気にわかって、凄いなって。古畑任三郎みたいですよ」
「アホか。これくらい誰でもわかるっての。てか、なんで古畑なんだよ」
「僕好きなんですよ。古畑」
 太一のことは無視して、森山は奥の部屋へと入っていった。
 現在の時刻は午後八時。殺人現場となった新田の部屋では、多くの鑑識官が犯人につな
がる証拠探しに躍起になっていた。
「被害者の大学での交友関係は」
「下村さんの話だと、テニスサークルに入っているそうです」
「たぶんそのサークルメンバーの中に、被害者からいやがらせを受けてたやつがいるはず
だ。そいつが犯人だな」
「え? そ、そんな簡単に決め付けていいんですか?」

48 名前:そばにいる(2/10) 投稿日:2006/11/28(火) 03:37:08.46 ID:vKlo6TvX0
「いいんだよ、それで。おら、分かったらとっととサークル内にあやしいやつがいないか
調べてこい」
 森山が太一の背中を勢いよく叩いた。太一が背中をさすりながら森山に非難の目を向け
ると、森山は逆に太一を睨み返してきた。
「聞こえなかったのか。早く行ってこいと言ってるだろうが」
 太一はしぶしぶ森山に従うことにして、部屋を出て行った。

「どうだ、あやしいやつはいたか」
 時刻は十二時を回っていた。鑑識による調査は一通り終わり、今新田の部屋には森山と
太一しかいない。
「下村さんに話を聞いたところ、被害者がいつも同じサークルの狭山幸人という男をから
かっていた。という証言を得ました」
「そいつが犯人だな」
 本棚から取り出したハードカバーの小説をぱらぱらとめくりながら、森山は言った。
「先輩、そんな簡単に犯人にしていいんですか?」
 太一はバスルームの中を覗いてみた。浴槽のふたを開けてみたが、浴槽は空だった。ぐ
るりと浴室を見回す。水滴は全く残っていない。丸一日、もしくはそれ以上長い間、この
浴室は使われていないということだろう。
下村に話を聞いたところ、新田は、ここ数日ずっと下村の家に泊まっていたらしい。新田
がこの部屋に帰ってきたのは夕方四時頃。着替えを取りに行ったのだと、下村は証言して
いた。
「いいんだよ。いいか? 捜査はまず疑うことから始めるんだ。ちゃんとメモっとけ新米」
 太一はバスルームから出ると、洗面台を見てみた。こちらも水滴は全くついていない。
「それにしても、ちょっと強引というか、なんというか……証拠はまだ何もないんですよ?」
「俺の長年の勘が言ってるんだよ。狭山が犯人だ。ってな。それに、証拠はなければ作れ
ばいいんだよ」
 いつの間にか森山は太一の前まできていた。じとっとした森山の視線が太一に向けられ
る。太一は思わず息を呑み、すぐに視線を逸らし台所の流しに向けた。流しには、うっす
らとだが埃が積もり始めていた。
「証拠を作るって、どういうことですか」

49 名前:そばにいる(3/10) 投稿日:2006/11/28(火) 03:37:55.44 ID:vKlo6TvX0
「そのまんまの意味だよ」
「まさか、証拠を捏造するんじゃないですよね?」
「さーてな」
「先輩!」
「今日は帰るぞ」
 太一のことは無視して、森山は部屋から出て行った。
 一人残された太一は、しばらく考えるように立ち尽くした後、森山の後を追って外に出
た。

 ドアホンを鳴らすと、その部屋の主はすぐに出てきた。
 ドアが開いた途端、バカでかい音量のロックミュージックが太一の鼓膜を揺さぶり、太
一は思わず顔をしかめた。
 出てきたのは、いかにも不良そうな青年で、年は二十三くらいだろうか。太一は男に警
察手帳を見せると、昨日の事件について質問をしてみた。
「さぁ? 知らないっすね。四時頃だったら家にいたけど、何にも聞こえなかったっすよ」
「そうか。ありがとう」
 ドアが閉まり、爆音が太一の耳から離れると、太一はため息をして階段を下りていった。
一つ下の階には被害者の新田の部屋がある。太一はその階のさらに一つ下まで下りた。
 新田の部屋の真下にある部屋の前に立つと、太一はドアホンを鳴らした。しかし、しば
らくしてもその部屋の主が出てくる様子はない。
 太一はもう一度ドアホンを鳴らしながら、表札を見上げた。表札には、「花田幸太郎」
と書かれている。
 二回目を押してからしばらくして、ようやくドアホン越しに男の声が出た。
『はい?』
「すみません。警察のものですが、上の階で起こった事件について、ちょっとお話をお聞
きしたいのですが」
『……警察、ですか?』
「はい。あの、もしかして、上で事件があったことご存知じゃありませんか?」
「あ……いえ、知ってます。すみません、今起きたばかりで、今出ます」

50 名前:そばにいる(4/10) 投稿日:2006/11/28(火) 03:38:56.27 ID:vKlo6TvX0
 ドアホンが切れてから少しして、ドアが開いた。出てきたのは、こちらも二十三歳くら
いの青年だった。ジャージ姿で坊主頭だった。目が半開きになっていたが、一応意識はは
っきりとしているようなので、太一はさっそく昨日のことを聞いてみた。
「昨日の夕方……ですか……そういえば、四時頃に上の部屋から口論が聞こえたような気
がします」
「口論ですか?」
 太一は手に持っていた手帳にメモを取った。
「はい。男同士が言い合うような声でした」
「なるほど。ありがとうございました」
 太一が手帳を仕舞うと、花田は頭を下げて扉を閉じようとしたが、太一が何かを思い出
したように「あ、すみません。こちらへはいつ越してきたんですか?」と訊いてきたため、
あと少しで扉が閉じるところで花田の手が止まった。突然の質問に花田はすこし戸惑った
が、すぐに「一週間ほど前です」と答えた。
「すみません。ありがとうござました」
 太一がお辞儀をすると、今度こそ扉が閉められた。
 太一は、今度は階段を上がると新田の部屋に入った。鑑識による調査はもうすでに完全
に終了しているので、今は誰もいない。
 静まり返った室内を、太一はぐるりと見回してみた。明かりがついていない室内は殺人
があったということもあってか、異常に不気味に感じられた。
 太一が奥の部屋に入ろうと足を進めたとき、突然彼の携帯電話が鳴り出した。液晶には
つい先日教えてもらった森山の名前が表示されていた。「あちゃー」と声を漏らして、太
一は通話ボタンを押した。こちらが「はい」と言う前に、森山の罵声が耳を貫いた。
『何やってるんだお前は!』
「す、すいません。今、被害者の部屋にいます」
『何勝手な行動とってるんだ! お前が変なことしたら、教育係の俺が怒られるんだよ!
とっとと狭山の家に来い馬鹿野郎!』
 電話が一方的に切られると、太一は急いで新田の部屋を後にした。

「犯行推定時刻の午後四時に、狭山は近くのコンビニに行ってます。監視カメラにも写っ
ていたので、間違いありません。狭山はシロですよ」

52 名前:そばにいる(5/10) 投稿日:2006/11/28(火) 03:39:23.53 ID:vKlo6TvX0
「いいや、あいつはクロだ」
 警察署の喫煙室内で、森山と太一が、森山の挙げた狭山犯人説について話し合っている。
「お前の言う監視カメラの映像。俺も見たが、あれは映像が不鮮明だ。狭山本人かどうか
判別ができない」
「狭山ですよ」
「違う。狭山は犯人だ。だから、やつがその時間にコンビニいるはずがない」
「あの時間帯の不審者の目撃証言はまったくありませんでした。狭山と新田の家は相当離
れていますし、それらしい証言があってもおかしくないはずですよ」
「偶然だ」
 森山は明らかにいらいらとしていた。ああ言えばこう言う後輩にムカついているのだろ
う。煙草の吸殻を灰皿の中に捨てると、すぐに新しい煙草を一本取り出し、口にくわえ火
をつけた。
「なんでそんなに狭山にこだわるんですか」
「勘だ。刑事としての」
「……勘で逮捕はできませんよ。証拠が必要です。証拠が」
 森山は、深いため息と共に煙草の煙を勢いよく吐き出した。仕方ないといった感じに森
山は太一を見た。
「証拠なら、いずれ必ず出てくる」
「……どういうことです」
 太一は煙草を吸うのを止め、ポケットに手を突っ込むと森山を見つめた。森山は太一か
ら視線を逸らすと、煙草を吸い、再びため息と共に煙を吐いた。
「今日、狭山の家にあがっただろ。その時に、クローゼットにあった狭山の服に、被害者
と同じ血液型の血液をつけてきた。いずれ、あれが決定的な証拠となる」
 太一の目が見開かれた。
「な、なにやってるんですか!? 証拠の捏造ですよ、それ!」
「いいか、犯人は狭山だ。俺はそうだと信じている。だったら、少しでも早く犯人を逮捕
し、処罰する必要がある。必要な処置だ」
「あなたはいつか必ず処罰される」
「うるさい。新米は黙ってろ」
 森山はそう言うと、喫煙室を出て行った。

53 名前:そばにいる(6/10) 投稿日:2006/11/28(火) 03:39:54.05 ID:vKlo6TvX0
 残された太一は、ポケットの中に手を入れ、四角い“それ”の感触を確かめ、笑みを浮
かべた。

 二日後。
 ここは、警察署内にある留置所にある面会室だ。
 ガラス越しに向き合っているのは、森山と太一である。
「処罰されるって言ったでしょ」
「貴様……」
 森山が憎しみのこもった目で太一を睨んだ。

 昨日の早朝、マスコミ各社、それと警察署長宛に、それぞれ封筒が郵送されてきた。
 中身は、森山本人の声による証拠捏造をほのめかす言葉が録音されたカセットテープと、
これまで森山が証拠捏造をしたと思われる事件の一覧。そして、手紙が一枚。
 手紙の内容は、「森山の証拠捏造はこれまで怪しいのはいくつもあったが、確実な証拠
がなく公表できなかった。公表してもうやむやにされる危険があったからだ。しかし、今
回ついに証拠を得たため、この封筒を送った」といった感じのものであった。
 捏造がされたであろう事件の一覧には、その事件の容疑者の名前が何人も書かれていた。
 大野瑞穂・広兼靖史・志村真二・中村準・山田龍之介・御手洗大輔・白石香里・沢村弘
樹・武田祐一・村田雫・安部康弘……
 その数はおよそ二十人。もし、これらが全て証拠の捏造によるものだとしたら、これは
とんでもない不祥事だ。警察はもみ消しをしようとしたかもしれない。が、マスコミにも
封筒が送られていたというのがそれを不可能にした。もみ消しは不可能。警察は、その日
の内に森山を懲戒免職処分にした。また、刑法第百四条、証拠隠滅等の罪の疑いで森山を
逮捕拘留し、謝罪会見を行った。

 太一は深くため息をしてから、森山を睨んだ。
「一つお話をしてあげましょう」
「お話……だと?」
「はい。あなたが冤罪逮捕した人の中の一人、御手洗大輔って知ってますか? あれ、僕
の父です」

54 名前:そばにいる(7/10) 投稿日:2006/11/28(火) 03:40:33.91 ID:vKlo6TvX0
 森山の表情が変わった。驚きと戸惑い、二つの感情が顔に滲み出ている。
 太一――御手洗太一は、かまわず話を続けた。
「僕の父は、殺人の罪で逮捕されました。父は去り際、僕に『大丈夫だから。安心しなさ
い』と言ってパトカーに乗りました。しかし、その後、僕は父を見ることはありませんで
した。父は虚偽の目撃証言のせいで犯人とされ、実刑判決を受け、獄中でストレス性の病
気になり死にました。僕は怒りました。目撃証言にある時間、父は僕と買い物をしていた
んですから。僕は目撃証言をした証人に問い詰めました。するとその人は、ある刑事に嘘
の証言をするようにと頼まれたと言いました。その刑事が、あなた。その日、僕はあなた
への復讐を誓った」
 森山の頬に汗が垂れるのを、太一は確かに見た。

 警察署を出ると、十二月の冷たい風が、温まっていた僕の体温を奪っていった。
 これで、僕の目的は二つ目まで完了した。残るは一つだが、それももうじき達成される。
僕の完全勝利だ。
 僕は優越感にも似た高揚感を覚えた。ようやく、父の敵をうてた。天国の父も、ようや
く心が救われたことだろう。
 落ち葉を踏みしめて、僕は通りを歩いていた。今日はこのまま歩いて家まで帰ろう。風
が気持ちいいから。
「ん?」
 僕の視線の先に、一人の青年が映った。花田幸太郎だ。彼は僕のほうを見ていたが、警
察署前での彼との下手な接触は危険なので、僕は彼に通りの向かいにあるファーストフー
ド店へ行くように目線で指示した。花田は僕の指示を理解したようで、僕よりも先に横断
歩道を渡り、ファーストフード店へと入っていった。
 店に入ると、僕は適当にハンバーガーのセットを頼んで二階へと上がった。花田は、一
番奥の柱の影になっている席に座っていた。僕が席に着くと、花田が言った。
「本当に、これでよかったんでしょうか?」
「何を言ってるんだよ。君は逮捕されたいのか?」
「いえ……それは……」
 彼の様子に、僕は小さく笑った。ハンバーガーの包みを開けて、一口食べる。

56 名前:そばにいる(8/10) 投稿日:2006/11/28(火) 03:41:10.34 ID:vKlo6TvX0
「安心しなよ。あの男は、これまで充分すぎるくらい罪を犯してきた。君が苦しむ必要は
無い」
 僕が言っても、花田はまだ不安そうな表情をしていた。
「僕は、君が新田殺しの犯人だと言わない。君は、僕に頼まれて、血まみれの包丁を森山
の家の庭に隠したことを言わない。これで万事OKじゃないか」
「あの……どうして、俺が犯人だってわかったんですか?」
 花田が、急にそんなことを言ってきた。なるほど、そういえば説明してなかったな。
「まず、おかしいと思ったのは、不審者の目撃証言が全くなかったこと。犯人は、新田の
体を二十回も包丁で刺した。おそらく、馬乗りになって刺したんだろう。そしたら、普通
返り血が尋常じゃないくらい服や体につく。全身血まみれの男が歩いてたら、いくらなん
でも目撃証言が出るだろ。けど、そんなものはなかった。ということは、犯人は血をどこ
かで落としたことになる。服は、まぁ事前の代えを用意してたとしたら、それに着替えれ
ばいいが、顔や手についた血は水で洗い流さないといけない。けど、新田の部屋は、風呂
場はおろか、洗面台、台所の流しにも使われた形跡はなかった」
 僕は、そこまで言うと紙コップに入ったコーラを飲んだ。ポテトを一本食べ、話のを再
開させる。
「ということは、犯人は血まみれのまま現場を去ったということになる。けど、血まみれ
の男の目撃証言はない。ということは、犯人は血まみれでもかまわない。マンションの外
に出る必要がない者ということになる。って僕は推理した」
「で、僕の部屋に?」
「同じマンションとはいえ、あまり離れてると、廊下を歩いているときに誰かと鉢合わせ
する可能性がある。ベストは、新田の家の上下、もしくは隣の家」
「けど、なんで僕が犯人だと?」
「君だけ犯行時刻に新田の部屋から声が聞こえたと言ったからさ」
「え?」
「越してきてまだ一週間なんだよね。それだと知らなかったのかもしれないけど、あのマ
ンション結構防音ができてるんだよね」

57 名前:そばにいる(9/10) 投稿日:2006/11/28(火) 03:41:39.06 ID:vKlo6TvX0
 僕は、新田の家の上の階に住む男を思い出した。あの馬鹿でかいロックミュージックの
音が、下の階の新田の部屋に入ったときには、全く聞こえなかったのだ。にもかかわらず、
下の階の花田は、新田の部屋から声が聞こえたと言った。ちなみに、他の部屋の人達も、
みんな声は聞こえなかったと証言している。
「まぁ、もちろん、これだけで君が犯人と決め付けるのは難しいけど、こっちも時間がな
くなったんでね。君にかまかけてみたんだ。そしたら大正解だったってこと」
「……すごいですね。推理とか、まるでアニメの探偵みたいだ」
「好きなんだよね。古畑任三郎が」
「え?」
「俺の夢。古畑みたいな推理ができる刑事になることなんだよ」
「はぁ……」
 花田は、ようやく目の前のトレイに置かれていたポテトに手をつけた。
「ところでさ、僕もまだ聞いてないんだけど。殺人の動機は?」
 花田のポテトを食べる手が止まった。
「狭山のためです」
「彼とは、同級生かなにか?」
「はい……狭山は、俺の命の恩人なんです。高校のとき、いじめられて自殺しようとして
た俺を止めたんです。その後も、狭山だけは俺の味方でいてくれました。だから、これは
あいつへの恩返しです」
「新田の家の下に引っ越してきたのも、そのため?」
「はい。たまたま空いていたので、チャンスだと思って。下に入ったおかげで、新田の家
には『水漏れがしてるみたいだから、風呂場を見せてほしい』って言ったら、簡単に入れ
てくれましたよ」
「狭山は、君が殺したことを?」
「知ってます。ていうか、彼が俺に頼んできたんです。自分が捕まらないためには、新田
と全然関係ない俺が殺せばいいと。殺し方をむごたらしくすれば、警察は恨みによる犯行
だと思って、狭山を疑うはずだから、俺は大丈夫だって。殺し方に関しても、いろいろ細
かく指示されました。証拠が残らないように」
「確かに、森山が狭山を疑っていたように、警察では彼を疑っている人も少なくは無い。
彼とはメールか何かでやり取りを?」

59 名前:そばにいる(10/10) 投稿日:2006/11/28(火) 03:42:19.89 ID:vKlo6TvX0
「卒業してからもよく携帯で話します」
「履歴は消しておいたほうがいいだろう。彼の家にある血がつけられた服も、早目に処分
したほうがいい。彼にそう伝えてくれ」
 そう言うと、僕はハンバーガーの最後の一口を食べた。ポテトの残りを口の流し込み、
コーラも一気飲みする。
「話は終わり。念のために、もうこれ以降僕たちは会わないほうがいい。先に出てくれ。
僕はしばらくしてから店を出るよ」
 花田は「はい」とだけ答え、席を立ち階段を下りていった。
 窓の外を見ると、灰色の空から真っ白な雪が舞い降りていた。

終わり



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