【 お菓子ハウス 】
◆kCS9SYmUOU




45 :NO.11 お菓子ハウス (1/3) ◇kCS9SYmUOU :06/11/05 22:17:40 ID:AdhrRh97
草木がうっそうと生い茂る山道を、私は足を棒にして歩いている。
時たま足を滑らせ盛大に転んだり、うっかり崖から落ちそうになったり。
そんな苦労と危険を犯してまで、なぜこの山に踏み込んだのか。
それは私が――世界最高峰のお菓子職人として、確かめたいことがあったからだ。

お菓子の家。その言葉を聞いたことのある者は多いだろう。
かの有名な童話「ヘンゼルとグレーテル」に登場するお菓子でできた家で、
屋根はケーキ、窓は砂糖菓子でできているというアレである。
勿論私は良識ある大人なので、仮想と現実をごっちゃにしたりはしない。しかし、実際に存在するという噂がまことしやかに囁かれているのだ。
これは確かめに行きたかった。
以前お菓子の家作りに挑戦して、失敗したことがあるのだ。
実際にこの目で見て、どんなものかと確認すれば私にもきっと作れるはずだ。
そう信じて、私はこの山を登っているのだ。


46 :NO.11 お菓子ハウス (2/3) ◇kCS9SYmUOU :06/11/05 22:17:52 ID:AdhrRh97
はぁ……はぁ……
もうどれだけ歩いただろうか。いくら歩いても、お菓子の家など見つからない。
やはり所詮噂は噂。童話は空想の出来事なのか。
諦めかけたそのとき、ちらと樹の陰になにやらカラフルなものが見えた。
あれは! 間違いない、お菓子の家だ!
そう確信すると、私は限界を超えて走りだした。
いよいよお菓子の家をこの目で見ることができる! そう思うと足の痛みなど気にならなかった。
そして草を掻き分け進むと、広い空間に出た。そしてそこには、お菓子の家が鎮座していたのだ。


なッ!
それを見た瞬間、私は戦慄した。
そこら一帯を包む甘ったるい異臭。
黒い小さなモノが無数に這う地面。
この日差しでどろどろに爛れたチョコレートの外壁。
屋根とおぼしきモノは風雨に曝されたためぐちゃぐちゃになり、陥没していた。

なんだ、これは。


47 :NO.11 お菓子ハウス (3/3完) ◇kCS9SYmUOU :06/11/05 22:18:05 ID:AdhrRh97
視覚と嗅覚から来る猛烈な刺激に耐えられず、私は胃の中のモノを全て吐き出した。
しかし、まだ吐き気は収まらなかった。こんなおぞましいモノが存在するとは。
私はふらつく足で、その場を後にした。

しかし、私は遂にその山を下山することは出来なかった。
ふらつく足と、猛烈な吐き気。さらに目眩まで発症していた私は、途中崖から足を踏み外し、転落してしまった。
そこで、私の人生は終わった。

それから――
世界最高峰のパティシエがお菓子の家に住んでいるという噂が流れるまでさほど時間はかからなかった。

そうして、また一人……

END



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