【 薬の造る世界 】
◆UqdSHZ7eB2




25 名前:No.08 薬の造る世界 (1/3) ◇UqdSHZ7eB2 投稿日:06/10/23 17:45:20 ID:PFJ+pkza
今日、駅前で薬局が開店するらしい。風邪気味だった私は好奇心も手伝って朝一番に薬局へ向かった。
『田辺薬局』というどこにでもありそうな平凡な薬局。店内もいたって普通。そんな当たり前の事に少し失望しながら風邪薬を持ってレジに行く。
「いらっしゃいませ。そちらは三百十五円になります」
レジに立つ中年男が言う。私は三百十五円ぴったりを男に渡す。
「お客さんが一番最初に来て下さったんでこれおまけです」
男は白い粒が十粒ほど入った茶色の小壜を風邪薬と一緒にビニールに入れる。
「何かの薬ですか?」
「世界を操る薬ですよ。まあ飲んでみて下さい。」
こんな事を真顔で言うこの男はどうかしているのだろうかと疑いながらもせっかくもらったんだしと思い私は店を後にした。
――今日は後番の私は室島警察署に出勤する。ここのところ大規模な喧嘩や、強盗などが多く忙しい。特に理由もなく犯罪を起こす奴が多くそれが余計に忙しさに拍車をかける。
「また、二丁目で窃盗だぞ」
「三丁目で喧嘩だ」
慣れとは恐いものだ。怒号が飛び交うこの状態が日常になっている。私はこの忙しさですっかりあの薬の事を忘れていた。

26 名前:No.08 薬の造る世界 (2/3) ◇UqdSHZ7eB2 投稿日:06/10/23 17:45:32 ID:PFJ+pkza
仕事を終え帰って来た私は風邪薬を飲もうとして、あの薬の事を思い出した。男の言った「世界を操る」という言葉がきになっとたまらないので私は小壜から一粒取り出して勇気を出して飲んでみた。瞬間、強烈な眠気に襲われた。
――目覚めた時、私は肘掛け付きの豪華な椅子に座っていた。右手にある机にはメガホンが、足下には異常に大きくて立体的な世界地図が、そして、前の壁には「そのメガホンで命令して下さい(お好きな言語で)」と書いた張り紙が。それ以外は何もない、ドアや窓すらだ。
状況が理解出来ない私だが、とりあえずメガホンを持って「走れ」と適当な命令を叫んだ。すると、世界地図で蟻のような物が動いた。よく見ると人だ。物凄く小さい人々が蠢いている。
私はこの状態と男の話から一つの結論を導いた。そういうことか…

27 名前:No.08 薬の造る世界 (3/3完) ◇UqdSHZ7eB2 投稿日:06/10/23 17:45:51 ID:PFJ+pkza
――私は、それから八日間、日ごとに忙しくなる仕事の間毎日一粒づつ飲んで色々な命令をしてみたが、今日はついに最後の一粒。作った物を壊したくなるのは人の性である。私はこのミニチュア世界を徹底的に壊す事にした。
手始めに世界中で喧嘩を起こせと命令した。全世界の蟻のような人々が必死に喧嘩している。
「こりゃいいや。どんどんやれ」
私の命令は次第にエスカレートしていき、ついにこのミニチュア世界は灰燼に帰した。それからしばらく荒涼とした大地を見下ろしていた。満足感はなく空恐ろしい感じがした。
――薬の効果が切れ現実に戻った私は息苦しさを覚え、外に出た。

「どんどんやれ。いいぞー」
空からそんな声が聞こえた気がした……






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