【 かいだん 】
◆zYx9z7haiQ
※投稿締切時間外により投票選考外です。




187 名前: ◆zYx9z7haiQ 投稿日:2006/10/02(月) 00:42:08.30 ID:Cn0bGd6aO
「うぉぉー!!」
おもいっきり自転車を漕ぐ。風のように早く、鳥のように車や人を避ける。それは当に疾走と言う言葉がぴったりだろう。
「間に合え!!間に合え!!」
僕に余裕など頭にない。修羅場は今まさに。声にならない叫びは溜りに溜り、自転車を漕ぐ動力となる。始まりは数時間前だ。
――
僕は高校生をしている。数学をしていた五時間目の終わり頃だったろうか。不意にお腹に異変が現れた。
それが便意だって分かるのに、時間はかからなかった。授業が終わり、トイレに駆け込めばいいものなのだが、学校でするのは過去の経験から禁奇だということは分かっていた。だから、一刻も早く帰宅しなくてはならなかった。地位と名誉を守る為に。
ついでにパンツもだ。
しかし、時は無情。
意識した時計というのは、とても遅いものだ。古典の授業は僕の耳を通っていたのだろう。しかし、感じるのは便意のみであった。気を紛らわす為に様々考えた。
部活のこと、気になる子のこと、誰々と誰々が付き合ってる噂、次のテストのこと……などなど。


188 名前:かいだん 2/4 ◆zYx9z7haiQ 投稿日:2006/10/02(月) 00:43:47.99 ID:Cn0bGd6aO
そのおかげだろうか。
ついに、六時間目が終わってくれた。掃除の時間、帰りの会。六時間目に比べたら優しいものだった。ついに待ちに待った、先生のさよならが響く。
友達に「じゃあね」と声をかけ、ダッシュで駆けた。それは、それは、鬼の形相をしていただろう。しかし、そんなことはどうだってよかったのだ。地位と名誉とパンツを守るため。僕は文字通り鬼になっていた。
――そして、今に至る。
しかし、お腹と相談するともう駄目だと限界が近い為に、どこかのトイレを使うことにした。しかし、近くのコンビニなどは、寄り道して出会う危険性がある為ある程度離れてなければならない。近い場所ならば、パンツは守れるだろう。
しかし、地位と名誉は守れない。だからといって、遠すぎるとパンツを守れない。やはり、程度な所を探さないといけないのだ。
しばらく走り、限界と相談したところ次のスーパーにした。交通量の少ない所は信号無視をさせてもらった。交通量の多い所はさすがに無理だった。
引かれたらクソも何もない。
本当に文字通り糞も何もない。


189 名前:かいだん 3/4 ◆zYx9z7haiQ 投稿日:2006/10/02(月) 00:44:36.13 ID:Cn0bGd6aO
――
そしてお目当てのスーパーに入った。食料品売り場も雑貨売り場をも無視してトイレを探した。怪しまれないように、走らずに速歩きでいった。トイレの表記を探していると……
――あった。
丸に逆三角のイカすマーク。矢印に従いトイレを目指す。
――トイレに着いた。
トイレはこのスーパーの大きさに比べたら、小さめで個室は二つしかなかった。そのうちの一室には
『水が流れない為、使用禁止』との紙が貼ってあった。
もう一室は、鍵が閉まっていますよマークの赤色がいやに存在感を表していた。ドンドン!と叩く勇気もなく、楽園の一歩前でじたんだを踏んでいた。しばらくすると、カツッカツッとトイレに近づく足音が聞こえた。反射的に僕は小便器の方でチャックを下ろしていた。
するとやはり、足音はトイレに入ってきた。そして、先ほどの一室に入っていった。僕は呆然となった。閉まっていたはずの個室にどうして…… それともさっきの人が幻だったのか…… 僕には分からなかった……


190 名前:かいだん 4/4 ◆zYx9z7haiQ 投稿日:2006/10/02(月) 00:45:35.90 ID:Cn0bGd6aO
「――以上だよ」

「おいおい、なんだよそれ」「全く怖くないじゃん」と、友達二人が言う。
「まぁな。話しておきながらだがそうだな。ただ開閉の色が逆だっただけだしな。でも、これには続きがあるんだ」「まだ続きがあるのか?」
僕は少し間を開けて言う。
「あぁ、この男はあまりにびっくりしてパンツを守れなかったんだ。その汚れは拭ったんだが、ノーパンで帰る訳にも行かず、汚れたパンツを履いて自転車で帰ったんだとさ。なぁ、寒気がするだろ?」
友達は呆れて言う。
「確かに寒気はするけど、寒気のタイプが違うじゃんか」「オチもなけりゃ教訓もないな」
友達は的確につっこんでくる。
「いやいや、オチはなかったかもしれないが教訓はあるよ」「何よ?」
僕は言う。
「扉を開けることに躊躇うな、だよ」



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