【 目覚めしモノ 】
◆vMDm/ZpiU6




22 名前:目覚めしモノ 1/1 ◆vMDm/ZpiU6 投稿日:2006/09/25(月) 00:00:49.32 ID:ETeXL+zE0
「わらわの眠りを妨げる者は誰じゃ?」
 俺たちが掘り出した棺から、いかにもタカピーな声がした。凛とした若々しい声。
 シンプルな棺に入っているにも拘らず、我らが皇帝に近いほどの威厳を感じることが出来る。只者ではない。
「ほかほか帝国付属大学、遺跡発掘研究会だ」
「ほほぉ。とすると、そなたらはわらわを起こしてくれるのかえ?」
「いえ、睡眠の妨げになるようでしたら帰りますが」
「……研究、せんのか?」
「妨げる者云々言うもんですから。嫌々付き合ってもらったところで、研究も何も有りません」
 『古代の遺産とは言え、相手に意思があるのならばそれを尊重する』、と言う研究会の規律を説明する。
 初めは相槌を打っていた棺の中身さんだが、次第に覇気がなくなっているようだった。
「……というわけです」
「そ、そうなのか」
「では失礼します」
「ま、待っておくれ!」
 我々が踵を返し引き返そうとすると、棺から悲痛な叫び声が聞こえた。
「なんでしょうか?」
「い、嫌ではないぞ」
「はい?」
「だから、発掘されるのは嫌ではないぞ、と言っておる」
 ぱこん、と軽い音を立てて棺が開かれる。なんだかんだ言いつつ、どうやら自力で脱出できたらしい。
 中から出てきたのは、長い時間が経っているとは思えない美しいドレスに身を包んだ、うら若い少女であった。
「ほれ、案内してたもれ。眠っている間に、地形が変わっているやもしれんからな」
 そう言ってずんずん歩を進める少女を前に、我々は内心ほくそ笑む。

 奥義・置いてけ堀交渉法

 寂しがり屋と判断されたインテリジェンス・オーパーツに対し実行される交渉術の一つ。
 一度気を引いておきながら破棄する振りをし、相手の弱さに付け込む卑劣な方法。特に永い眠りから目覚めたモノに効果があるらしい。
 昔話をしながら我々に付いて歩く少女に、一抹の罪悪感を感じつつ、一行は地上に向かうのであった。



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