【 めでたしのあとに 】
◆zkraGArAss




58 名前:週末品評会作品『めでたしのあとに』 ◆zkraGArAss 投稿日:2006/09/23(土) 00:02:32.18 ID:pFM0Hm6t0
むかしむかしあるところに大きな庭がありました。
そこでは様々な国の王が、円卓を囲んで談笑していました。
どの国の王も日頃のうっぷんを晴らすかのように、自らの国
のお后の愚痴を言い合っていました。
「私の后は、今や舞踏会でのあの華やかさなど微塵も無い。
それどころかボロをまとって城の雑用をやっている有様だ。
昔の習慣なのか、私への恩返しのつもりかは知らないが
『あの国の王は后に床を掃除させている』などと言われて
いい気分になどなれるものか」
「それはそれは。そちらも苦労しているようですな。
私のところは小舅がうるさいの何の。
おまけにそれが七人も。たまったものではありませんぞ」
「ああ!わが后に比べればどうということはない。
あいつは私の過去のことをいつまでも根に持っているのだ。
言わなければいいものの、会う者すべてに『このひと、昔は
小さなお池で虫を食べていたのよ』などと言うものだから…
まったく胃が痛んで仕方ない。なにがめでたしめでたしだ」
こんな様子で王たちは不幸な境遇を嘆きあっていました。
しかし一人だけ、一言も愚痴をこぼしていない王がいました。
皆の視線が、自分に集まっていることに気付いたその王は
軽く咳払いをするとゆっくりと口を開きました。
「いや、そりゃあ私のところもそれなりに苦労はしてますよ。
なにしろうちの后は古風にもほどがある女ですからね。
城下に出るたびに『あれはなあに?』ですよ?
そりゃあ目新しいものに見えるのは分かりますけどねぇ。
相手をするのも楽じゃあないですよ」
「たしかに辛そうですな。しかし、とてもそうは見えませんぞ」
「いえいえ実はですね」
王はにやりと微笑むと、小さな声で言いました。
「うちの后、私がキスしないと起きられないんですよ」



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