74 名前:No.19 鏡花水月 1/2 □6wgfUDqs0 投稿日:06/09/17 21:57:53 ID:nkI7IBDo
空から白い雪が降り始める。
手に取ろうと雪を掴むと、すぐに消えてしまう。
まるで鏡花水月のよう。
手に取ることはできない。けれど見ることはできる。
雪は積もらないうちは見ているしかできないのだ。
そう、それは幻影。
「琴乃、探したよ」
琴乃の兄、桐人(きりと)が駆け寄る。
表情は豊かではない。
今まで必死に探し回り、見つからず。
雪が降り始めたので不安が積もったのだろう。
一方、琴乃は気にした様子も無かった。
「ほら、寒いだろう。病院に戻るぞ」
桐人は琴乃の肩を抱いて連れて行こうとするが、琴乃は酷く嫌がった。
ついには涙まで浮かべている。
あるいは雪が溶けて、涙に似せているのか。
琴乃は桐人を振り切って走り出す。
「琴乃!」
追いかける。
桐人なら捕まえられるはず。
琴乃は細い道を曲がり、桐人も後に続く。
「――!」
けれど、そこに琴乃はいなかった。
「また探さなきゃいけないのか」
桐人は道を引き返し、琴乃を探し始めた。
75 名前:No.19 鏡花水月 2/2 □6wgfUDqs0 投稿日:06/09/17 21:58:15 ID:nkI7IBDo
それは幻影。
手に取ることはできない、まるで鏡花水月のよう。
鏡に映った花、水に映った月。
それは儚くも、見ることしかできない。
桐人はそれを探しているのだ。
――琴乃という幻影を。 了