チェックメイト
◆D8MoDpzBRE




1727 名前:チェックメイト 1/2 ◆D8MoDpzBRE :2006/09/09(土) 00:05:37.04 ID:eoFS4pQy0
 それは、にわかには信じられない出来事だった。

 俺の名前は江藤豊。今年、晴れて大学生の仲間入りを果たした十八歳だ。中高とまるで女っ気のない男子
校に通っていたため、大学生活では是非達成しておきたい事があった。
 「彼女ゲット」だ。月並みだと笑いたければ笑うがいい。お前らに、童貞の気持ちが分かるか。小学校卒業
以来、家族以外の女に触れることもできなかった、俺の無念を推し量れるか。
 そんな俺が選んだ課外活動は、テニスサークルだ。悪いが、テニスなんて生まれてこの方やったこともなけ
れば、見たこともない。もちろんルールも知らねー。
――それでは何故、テニスサークルなどを選んだのか。
 それは、中々哲学的な質問だ。江藤豊という一人の男の生き様を、根底から揺さぶりかけるような命題だ。
 結論から言おう。女の子がいっぱいいるからさ。男女混合でテニス三昧。手取り足取りのご指導。ほら、お
前らもテニスしたくなってきただろ。
 話は変わるけど、女神って信じるか? 天使でもいいや。
 俺は信じるね。テニスサークルの同期、早瀬真美がそれだ。今の言い方ウザかった? ウザかったらごめ
んね。
 早瀬を最初に見たときの衝撃は、今でも忘れられない。俺はそのとき、視線を完全に奪われた。歩いていて
柱にぶつかるなんて、生まれて初めてのことだ。
 俺の恋物語が、幕を開けた。

……で、いきなりクライマックス。まさに、信じられない状況が目の前で起こっている。
 今まで、早瀬の顔をこんな至近距離で見たことはなかった。彼女の息づかい、うっすらと紅潮した頬の加減、
瞳に映る自分の顔。この世の全てを手に入れたかのような錯覚に陥った。
「じゃ、いいかな」
 早瀬の顔色をうかがうように、恐る恐る聞いてみる。緊張の一瞬に、思わず手にかいた汗を握りしめる。彼
女は、こくっと黙ってうなずいた。やった!
 彼女が目を閉じた。ついに手にしたこの瞬間。少年はまた一つ、大人へと続く階段に足をかける。天使の唇
にチェックメイトだ。
 俺と早瀬は、そっと短いキスを交わした。


728 名前:チェックメイト 2/2 ◆D8MoDpzBRE :2006/09/09(土) 00:06:07.98 ID:eoFS4pQy0
「はいはーい、次行こう、次」
「もうこれやめにしない? あんたたち男は楽しいんだろうけどさ」
「他にゲームあんのかよ」
「別にゲームにこだわる必要無いし」
 俺にとって、初めてのキスは王様ゲーム。ごめんな、早瀬。でもお前に彼氏がいるって知ったとき、俺寝込
むくらいショック受けたんだから、これでおあいこな。

  <了>




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