【 それぞれの道 】
◆oGkAXNvmlU




189 名前:【品評会投稿作品】タイトル『それぞれの道』 ◆oGkAXNvmlU :2006/08/14(月) 00:08:57.75 ID:55pxvN7x0
 町外れの、草が自然と無くなった土の一本道。その脇の大きな岩の上に、男は座っていた。空はどこまでも青く、風は優しく涼を運んでくれる。
 男はしばらく初夏の空気を楽しんでいたが、人の気配に気付き目を開いた。
 「よう、待たせたな」
 「お久しぶりです。お元気そうで」
 天使と悪魔は、岩の上に並んで腰掛けた。
 「最近どうよ?」
 「いやぁ、景気が回復してきたとはいえ、けっこう辛いですね。上からも色々言われますし」
 「天界も魔界も似たようなもんだな」
 「でも、僕に出来ることは、頑張って何とか結果を残すだけですから」
 「ところでよ、お前、今いくら持ってる?」
 「え? そうですね、五千オークンくらいは持っていますが」
 「……うちの妹がさぁ、ちょっと病気になっちゃってな。医者に見せたいんだけど金がねぇんだよ」
 「それは大変ですね。でも、たしか一人っ子じゃ」
 「だから、ちょっと都合つけてくれねぇか?」
 「え、いや、でも、まだこないだの三千オークン返してもらってないですよ」
 「まぁ、それは置いといてよ、わかった、じゃあこうしよう」
 「置いとかないでくださいよ、借りたものを返さないと泥棒ですよ!」
 「まぁ聞け、聞け。ちょっとした賭けをしよう。それで俺が勝ったら、五千貸してくれ。な? いいだろ? お前が勝ったら千オークンをすぐ返すから」
 「またギャンブルですか? もう……」
 「いいから黙って聞け、殴るぞ。次にこの道を通るのが、男なのか女なのか賭けよう。特別にお前が先に選んでいいぞ」
 「ちょ、イタッ、わかりました、僕は男に賭けますよ。ここは主に旅人が通る道ですからね」
 「そうか、わかった。じゃあ俺は女に賭けるってことでいいな」
 「いいですけど。本当に僕が勝ったら千オークン返してくださいよ?」

193 名前:【品評会投稿作品】タイトル『それぞれの道』 ◆oGkAXNvmlU :2006/08/14(月) 00:09:43.93 ID:55pxvN7x0
相変わらず空はどこまでも青く、風はまだ優しく涼を運んでくれている。しかし、二人を包む空気だけが重い。
無言のまま数分が過ぎた頃、道の遥か先、丘の上に影が見えた。
「お、来たぞ」
「馬車ですね……」
やがて馬車は、土煙を上げ、軽快な音を響かせながら二人に近づいてくる。
「僕は男に賭けるって言いましたからね。今さらやめるって言ってもダメですよ」
「ああ、わかってる。最初に通るのが男か女か、しっかり自分の目で確認しろよ」
馬車には、手綱を握る召使いの男、後ろの車内には婦人が乗っている。
二人はじっくりとその様子を目で追い、馬車が町中に消えるのまで見届けた。
「ふふふ、どうやら僕の勝ちですね。最初に通ったのは手綱を握る召使いの男です」
「おい、最初に通ったのは女だったぞ」
「何言ってるんです。女は後ろの車に乗ってたじゃないですか。早く三千オークン返してください!」
「最初にこの道を通ったのは、メスの馬だったじゃねぇか」
「え? そ、そんなのありですか……?」
「当たり前だ。ほら、早く五千オークン」
「ぼ、僕、あの馬がオスかメスかなんて確認してませんよぉ」
「それはお前のミスだろ、俺の知ったこっちゃねぇ」
「そんなぁ。ぜ、絶対に今度返してくださいよぉ」
「そのうち気が向いたら返すわ」
天使はそう言うと、悪魔の手から金をむしり取る。
天使の背中から、青い空を侵食する入道雲のような白い羽が広がり、その体をフワリと宙に持ち上げた。
「これでしばらく酒には困らないな。サンキュー。あなたに神のご加護がありますように。アハハハッハアハハハ」
その笑い声は、金の鐘のように響き渡り、高い空に吸い込まれていく。
道の上に降り立ち、空を見上げる悪魔の瞳は、どす黒い風貌に反して美しく澄んでいる。
辺りにため息のような風が吹き、悪魔の姿は岩の陰に溶けて消えた。

終わり



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