【 ぬいぐるみと少女 】
◆w3ue6oGx7k




571 : ◆w3ue6oGx7k : 2006/03/32(土) 22:00:58.03 ID:N7aUeA5E0
「これいくら?」
にこにこ笑いながら少女は俺へと聞いた。
彼女が指差して言うのは猫のぬいぐるみだ。
昔小さかった俺の娘が無愛想でどうしようもなかった俺のためにプレゼントしてくれた代物。
じゃあなぜこんなところに置いているかだって?
これが俺の娘の形見だからだ。
ちょうどこの少女と同じくらいの年の娘は事故によって命を奪われてしまった。
そう思うと無償にタバコが吸いたくなってライターを取り出しタバコに火をつけた。
「お嬢ちゃん・・・悪いけど、そいつは売り物じゃないんだ。うちはぬいぐるみ屋じゃなくてケーキ屋だからな。」

幼い少女は俺の言うことなど耳も傾けずにぬいぐるみを握っている。
そうしている姿が娘の姿に似ていてどきりとした。
思わず笑いたくなる感情を抑え、タバコの火を消した。

572 : ◆w3ue6oGx7k : 2006/03/32(土) 22:02:38.06 ID:N7aUeA5E0
「むーー」

その純粋な瞳で俺のことを見ていた。
意思の強そうな目だ。
そういうところまで娘に似ている。
苦笑してしまった。

「くくっ・・・ははははっ・・・」
「どうしたの?おじさん」
「いや・・・何でもない。それよりおじさんは止めてくれ。お兄さんと呼びなさいお兄さんと。」

笑いを止める
「そうだな・・・このケーキ買ってくれたらやるぜ」

俺は何を言っているんだろう・・・
喉がからからになりそうだった
俺の意思とは関係ない何かが変わりに言っていた
少女は無表情で500円玉を俺に渡した

「釣りは貰っとくぜ。」
俺は少女にケーキとぬいぐるみを渡した。
少女は嬉しそうに走り去っていった。
何で少女に娘の形見を譲ったのか今となっても分からない
ただ・・・俺はその500円玉を大事そうに持っていた。

終了



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