【 A criminal's seed 】
◆Xenon/nazI




579 名前:「生まれてきた意味+悔しさ+イヤッッホォォォオオォオウ!」1/3 ◆Xenon/nazI 投稿日:2006/07/24(月) 04:39:15.52 ID:vJLKl70l0
「イヤッッホォォォオオォオウ!」
ガタン、と。勢い良く椅子から立ち上がり、男は大きくガッツポーズを作った。
その男は嬉々として部屋を出て行き、残された他の者達の顔は反対に暗くなる。
俺もまた例外ではなく。何時になれば此処から開放されるのかと小さく溜息を吐いた。
此処が一体何処なのか、それは俺にはわからない。そもそもにして、何故このような状況になったのかすらわかっていないのだから。

目が醒めると、俺は真っ暗な闇の中に居た。
最初は自分の部屋で寝惚けているのかと思ったが、そうではないようだった。
次第に意識がはっきりしてくると、それを見計らっていたかのように声が聞こえてきた。
ボイスチェンジャーを通して喋っているようで、声の主が男なのか女なのかもわからなかった。
それに、声が反響してそれが近くからなのか遠くからなのかも判断出来なかった。
その声は俺に色々と質問をしてきた、と思う。
記憶がはっきりとしないので、その時に何を訊かれたのかは覚えていない。
ただ、あまり気分が良くなるような内容ではない事だけは感覚として残っている。
一通り質問が終わったのか、声が聞こえなくなるとほぼ同時に。俺の意識は闇へと沈んでいった。

580 名前:「生まれてきた意味+悔しさ+イヤッッホォォォオオォオウ!」2/3 ◆Xenon/nazI 投稿日:2006/07/24(月) 04:39:34.85 ID:vJLKl70l0
そうして次に目を開けた時に居たのが今居るこの部屋だった。真っ白な壁で四方を囲まれた、窓の一つもない無機質な部屋。
まるでこの部屋だけが世界から隔離されているような、そんな感覚すら覚えた。
世界との繋がりは正面に堅固な扉があるだけ。しかし、その繋がりはとても儚いものに思えた。
扉自体見るからに人間一人の力では開ける事が出来なさそうである上に、その両脇には男が二人。
何処かで見た事があるような迷彩服を身に纏い、その手にはこれも何処かで見た事があるような銃を下げていた。
まるで自分がゲームかアニメの世界にでも入り込んだのかと思う程に、この部屋の風景は現実離れしていた。
状況を飲み込めないまま周りを見渡すと、同じ様にきょろきょろとしている人間が居た。その数は俺を含め約30人といったところだろうか。
そのうちの一人が状況を確認しようとしてか、扉の前まで行ったその時。
扉の脇に立っている男の片方が銃を構え、躊躇いなくその引き金を引いた。
耳を劈くような銃声と、血塗れになって倒れる男。当然、パニックが起こった。
声にならない叫びが部屋中に響き、しかしそれはすぐに収まった。
「騒ぐな!」
扉の脇に立つ男の怒声と、3発の銃声。そして出来上がった3つの肉塊によって。
それからは、ただただ静かだった。
扉の脇の男達を除いて、恐らくは俺を含めた全員が状況を把握できないまま。
高校の教室を思わせる机と椅子が全員分用意され、黙ってそこに座っているしかなかった。
少しでもおかしな素振りを見せれば直ちに銃殺された。
悪い夢だと思い込みたかった。
しかし、あまりにも生々しい出来たての肉塊とそこから生まれる血の匂いがこれは夢なんかじゃないと自己主張していた。
しばらくした後、唯一の扉が開き。白衣を身に纏った見るからに怪しそうな男が入ってきた。
その時に逃げ出そうとしてまた2人が死んだ。
白衣の男は足元に転がる肉塊には見向きもせずにその口を開いた。
「自らの生まれてきた意味も知らない愚か者どもよ。私がお前達に意味をその教えてやろう」
そいつが何を言っているのか、俺の理解の範囲を超えていた。当然周りもざわつくが、扉脇の男の威嚇射撃ですぐに静かになった。
「お前達はただ待てば良い。名前を呼ばれた者は扉の外に出てそこに居る男に従いたまえ。拒否権はない。逆らえば殺すだけだ」
白衣の男の言葉の意味はわからなかったが、名前を呼ばれれば外に出られるという事だけは理解出来た。

581 名前:「生まれてきた意味+悔しさ+イヤッッホォォォオオォオウ!」3/3 ◆Xenon/nazI 投稿日:2006/07/24(月) 04:39:55.12 ID:vJLKl70l0
何分か毎に、白衣の男は誰かの名前を読み上げた。その度に扉が開き、名前を呼ばれた者は外へ出て行く。
扉の先に何が待っているかはわからなかったが、この部屋から出られるというのは今の状況からすればそれだけで十分に思える。
俺の名前は呼ばれないまま、気が付くと椅子に座っているのは俺を含めて5人まで減っていた。
「さて、これで終わりか」
男はそう言った。その言葉に、喩えようのない悔しさを覚える。名前を呼ばれなかったイコールこの部屋から出れないだと思ったからだ。
何が終わりなのかを問い質したかったが、下手な事を言って撃たれるのも嫌なので俺は黙って続きを待つ。
「この部屋に居た者には共通点があってね。私はそれをランク分けをしたわけなのだが」
男の言う共通点は、俺にはわからなかった。老若男女とまでは行かないが結構年齢は離れているようだったし、見た目も全然ばらばらだった。
外見的な部分ではない共通点という事なのだろうか。
「今この部屋に残っているのは、そのランクの高い者達だ。おめでとう、諸君は選ばれたのだよ」
「選ばれたって……その、どういう意味ですか?」
隣の男がそう尋ねる。今度は銃で撃たれる事はなかった。
「私が最初に言った言葉を覚えているかね? 人はみな、意味を持って生まれてくる。諸君は同じ意味を持って生まれてきた者達なのだよ」
生まれてきた意味なんて考えた事もなかった。自分自身にすらわからないものを、この男はわかるとでも言うのだろうか。
そんな俺の疑問に答えるように、男は続ける。
「諸君には共通の遺伝子が組み込まれている。私の組織には諸君らのような遺伝子を持つ者が必要でね」
男が発言する度に、俺の中で新たな疑問が生まれてくる。今なら喋っても大丈夫だと判断し、俺は思い切って口を開いた。
「俺たちが必要って言うなら、先に名前を呼ばれて出て行った人達は」
「あぁ、死んでもらったよ。弱い遺伝子には興味がない」
俺の言葉を遮ってそう答えた男の言葉に、俺の背筋は凍りついた。
今更だが、此処は危険だ。
何が危険かと言えば命の危機だとか、そういうものではない。人の命を何とも思っていない、その思想こそが。
そして、それを拒絶出来ずに受け入れてしまえる俺の心も。
「さて、諸君にはこれからしばらくの訓練の後、私に協力してもらう事になる。先程と同様、拒否権はないから注意してくれたまえ」
逃げられない。逃げようとすれば死ぬ。ちょうど、床に転がっているあの肉塊のように。
「心配せずとも、諸君には素質がある。前もって行われたテストの結果からそれははっきりしている」
逆らえない。きっと、それが俺の生まれてきた意味なのだろう。
「それでは、早速で悪いが訓練を始めるとしよう。一日も早く一人前になれるよう、諸君の中の遺伝子も望んでいる事だろう」
今ならそれがどんなものなのか、言われるまでもなく理解出来た。
「期待しているよ、諸君の“犯罪遺伝子”に――」



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