【 彼女の秘密 】
◆sTg068oL4U




161 :彼女の秘密1 ◆sTg068oL4U :2006/06/26(月) 00:44:45.70 ID:HglzSiVo0
「いい加減あけろコラ!」
山本がドアを蹴飛ばす。玄関の前に居座ってもう2時間になる。
「なあ貝になってないで出て来いよ。俺とおまえ、どっちが相応しいかすっきりしようぜ」
相応しいも何もありえない。由真が山本と付き合ってるなんて。
「オイ!返事しろ!!」
ドアを蹴り叩き叩き、また蹴飛ばす。
「そこに由真が居るんだろ!おい!由真!出てこい!」
山本の執着は尋常じゃない、ここは嵐が過ぎ去るのを待つしかないのか・・・・・・

山本のことは既に共通の友人から聞いていた。
「この前写メ見せてくれたお前の彼女、山本ともつきあってるぞ」
一瞬人違いとも思ったらしいが、山本が得意げに見せた写真は、紛れもなく由真だった。
「それで加藤がポロッと言っちゃったんだよ、”これ川崎の彼女だ”って」
それを聞いて激高した山本は、僕が語った由真に関する話を聞き出したのだ。
そして僕の彼女と自分の彼女が同じ名前同じ年同じプロフィールであることを知り・・・・・・
山本は椅子を乱暴に倒して出ていったらしい。


162 :彼女の秘密2 ◆sTg068oL4U :2006/06/26(月) 00:45:33.77 ID:HglzSiVo0
そんな事を思い出していると、外が静かになった。呼び鈴がなり、落ちついた声で僕を呼ぶ。
「川崎さん、今回の件で謝罪に参りました。ご説明しますからあけてください」
ドアを開けると、黒いスーツの男が立っていた。山本は麻酔で眠らせ、車に運んだらしい。
「今回はこちらの手違いでして、同じものが川崎様と山本様の両方にいってしまったのです」
男は菓子折を前に押し出し、頭を下げた。
「いや、それ自体は別にかまわないですよ。そもそも僕は嘘彼女の履歴を買ったんですから。
写メと簡単なプロフィールさえ手に入れば、後はでっち上げたノロケ話をすればいいわけで。
こんな近くに同じ写真を持った人さえ居なければ、同じ写真が何枚あろうが不都合は無いはずです。
ただそれが実在の人物では困りますよ、ましてや知り合いの彼女なんて・・・・・・」
「いえ違うんです。由真は私どもが作成した、紛れもない架空の人物です」
差し出した座布団に座って恐縮しながらも、張りのある声でスーツの男は続けた。
我々”武蔵野嘘彼女商会”は、架空の女性の写真をCGで合成する技術を持っています。
更に入念なデータ収集から作られた無理のないプロフィールには、絶対の自信があります。
男性のスペックから分不相応失礼、無理なく釣り合いの取れた嘘彼女とカップリングし、
更には、自然な出会いのエピソードや友人に矛盾点を指摘されたときの交わし方まで
しっかりとフォローした上でのアリバイ作りで、童貞が見栄をはるのに必要な・・・・・・」

164 :彼女の秘密(最後) ◆sTg068oL4U :2006/06/26(月) 00:46:26.50 ID:HglzSiVo0
会社の宣伝はいいから早く説明してよ」
失礼しました、と言ってスーツの男は麦茶を一気飲みする。
「山本様はプレミアム会員でして、必要に応じて携帯メールが送られてくるプランなのです。
勿論本来はアリバイ作りに使う”証拠の品”なんですが、
山本様はメールそれ自体に興味をお示しになられて、多くのメールを請求なさったのです。
本来なら用途をしっかりと話し合った上でメールは送らせて頂く形になるのですが、
なにぶんこちらの手違いで。とうとう嘘と現実現実の区別が付かなくなってしまわれたんです」
「つまりメールの向こうには本当に由真が居ると思ってるのですか?」
「なにぶん我が社は完璧なリサーチの元に作られた究極のアリバイを目指してますから、
心から山本様を愛した人でなければ書けないメールが届くのです。他人に見せるものでも妥協は・・・・・・」
再びテンションの上がったスーツの男を無視し、携帯をあける。
待ち受けになっている由真が、こちらに微笑んでいた。

終わり



BACK−彼女の笑顔◆mWaYx4UM2o  |  indexへ