【 カメラ 】
◇3Bj3rS0gO




153 :携帯厨投下 :2006/06/25(日) 01:19:36.11 ID:3Bj3rS0gO
「撮ってね。」

それが写真嫌いの彼女の最後の言葉だった。


遡ること三年前。青々とした緑葉が輝く季節のことだった。

僕はいつもの様に熱帯魚に餌をやり、彼女はそんな僕を眺めながら
「その餌美味しいのかな?ミジンコとか入ってるんでしょ?」
なんて馬鹿なことを言う。
「ふりかけと対して変わらないんじゃないかな」なんて
取り留めの無い会話をしながら、一杯のコーヒーを飲む。
それだけで充分だった。二人でいれるだけで心地良かった。

しかし、彼女は僕の趣味の一つを好きになることは最期まで無かった。
「写真」だ。理由はわからない。いや、教えてくれない。
そのせいで僕たち二人の写真は一枚も無いのだ。


154 :携帯厨投下 :2006/06/25(日) 01:21:36.47 ID:3Bj3rS0gO
ある日彼女は子猫を拾ってきた。
「かわいいでしょ。今日から家族の一員なの」なんて言ってたっけ。

名前はガリレオ。どことなく気迫のある顔立ちだからだ。
特に意味は無い。

ガリレオが家族の一員になった日、彼女は夕飯に
ハッシュドポテトを出した。僕と彼女の大好物だ。

二人とも我先にと口に頬張る。
「うっ!?」
彼女が急に席を立ち、その場に倒れ込む。
「どうした?」
顔が真っ青だ。ハッシュドポテトが喉に詰まったのだった。
「ど、どうしよう!」
僕は慌てた。何もできず、彼女が苦しむのを、ただ慌てながら見ていた。
「・・・・・・・・・ね」
彼女は苦しそうに何かを言っている。
「何?どうした?」
「・・・と・・・・・・」
「何?」
「き・・・・・・撮って・・・ね」
「しゃ、写真?を?」
「ソウ・・・!早く」
「わかった!」


155 :携帯厨投下 :2006/06/25(日) 01:24:10.45 ID:3Bj3rS0gO
僕はわけがわからないけど、とにかくカメラを探した。
やっとの思いで探し当てたカメラを持って、彼女のところに戻ると
苦しそうにしている。
「今撮ってやるからな!」
パシャ・・・パシャ・・・夢中でシャッターを切った。
こんな状況であるにも関わらず、僕は写真を撮れる
喜びに打ち震えていた。
パシャ・・・パシャ・・・カチッ。フィルムは無くなったらしい。

彼女に必死で呼びかける。
「おい!ちゃんと撮ったぞ!」
彼女は笑い、何かいいたそうに息を引き取った。
俺は泣いた。泣いて泣いて泣きまくった。

ただあとになって疑問が残った。何故あんなに嫌いだった
写真を最期にせびったのか。

あのときのことを良く思い出してみる。
「き・・・・・・とってね」
「き・・・・・・取って」
「・・・・・・!」
「取って!」
それが彼女の最後の助けだったのだ。
喉につまったものを取って欲しい。俺は大きな間違いを侵していた。


その日俺は泣いた。




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