【 気持ち 】
◆XS2XXxmxDI




361 :品評会用:2006/06/18(日) 21:58:36.29 ID:jVK2/2MdO
月が綺麗だ。
真ん丸で、濃い黄色が輝いてる。
時々、その月の前を、薄く細い雲が通り、ずっと昔の、月の絵を見てるようだ。
と、並んで座っている彼女に僕は告げた。
個室のベッドの上、彼女は目を閉じたまま、僕に身体を預けている。
「そっか」
彼女は、他の事を催促するかの様に、その言葉だけを呟いた。
「夜の匂いってのも良いよな、こう、甘い香りって言うか」
僕は彼女が何を求めているのかは知っている。
だが、僕は言葉を重ねた。
が、彼女は何も言わず、僕の身体に顔を擦り付けて来る。
まるで、言葉を知らないみたいに。
「風も気持ち良いだろ、少し湿気てるけど」
彼女は、やはり何も言わない。

不意に彼女は僕の頭を両手で捕らえた。
そして、彼女の顔が僕に近付く。
一心に舌を絡ませる彼女は、どこか寂しそうだった。
そのまま、僕と彼女は薄い毛布の中に潜り込んだ。

光の無い彼女の目が、僕の体温を求めさせ、言葉をかき消す気がした。
伝わらないのだろうか、僕の言葉は。
赤ん坊の様に、微笑み、スヤスヤと眠る彼女の脇で、僕は静かに涙を流した。
僕が彼女に出来る事は、体温を共有しあう事だけなのだろうか、と。





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